臆病者が行くIS学園 作:灰人
あともう主人公がヘタレじゃない件
謹慎生活もそれなりの日にちが経ち、明日は待ちに待ったタッグトーナメントだ。正直謹慎になるなんて思っても無かったので、修行もしていない。準備不足で非常に不安だ。
「あー深緑で思いっきり風を感じたい」
うわぁ今の凄い主人公っぽい……俺もそろそろ漸くスタートラインに立てたっていう事か。
そんな事を考えていると、扉がノックされた。
「どうも更識さん。どうかしましたか」
「いやーちょっとお願い事があるんだけどさーいいかな」
めんずらしい事もあるもんだと思い、静かに首肯してみせる。
「私の妹の面倒を見て欲しいのよ……まあ本音もいるからしなくてもいいんだけどさ」
微妙な顔で内容を教える姉さん。姉妹仲が悪いと大変だよなぁ。まあ俺も一緒なんでけどねー。
「別に良いですけど……でも俺面倒とか見切れないと思うんですよね。双葉と色々――あ、双葉って言うのは妹ですね」
「正直君には頼まなくても現状維持でも良いかな〜って思ったんだけど……無茶苦茶な君に頼んだら無茶苦茶になるかな……と思って」
「しっちゃかめっちゃか狙いで俺を頼むなんて面白いですね……まあやれたらやりますよ」
適当に挨拶でもして後はスルーかな。訳のわからん奴が話しかけてきて混乱するだけだろうし。
付かず離れずな感じで行けば無駄な事も防げるだろうし。
「んまなるようになるでしょ。後は本音にでも聞いときます」
「お願いね。あとはまあ明日のタッグトーナメント頑張ってね〜今の君だったら多分楽勝だと思うから」
「だったら良いですけどね」
それから姉さんとポツポツ話しをして満足したのか、帰っていった。
「さあて今何時かな〜と」
携帯を手に取り時間を確認すると一件のメールが届いていた。
内容を確かめる為、メール画面を開く。
差出人は織斑千冬と書かれた無機質な物だった。
『明日のタッグトーナメントの相方はラウラ・ヴォーデビッヒだ』
うっそだろ……あの軍人みたいな奴かよ……嫌だわぁ。
自然とため息が出てしまう。何だってあんな奴と組まなきゃいけないんですかねぇ。
「あーあやだやだ。もう寝よ」
携帯を放り捨て電灯のスイッチを消した。
○○○
「ふぃー久々のシャバだぜぇ」
まだ謹慎中ですけどねー一回言ってみたかったんだなこれが。
取り敢えずの着替えを完了させてトーナメント表を流し見してみる。
やっぱりと言うかなんと言うか代表候補生達の皆さんは殆どがペアを組んでいた。
他の生徒が可愛そうに見えてくる。まあ関係無いから良いんだけどさ。
そして気になる対戦相手は――――おっほ! 一夏じゃん! と後はデュノア君か……あんま記憶に無いからどうでも良いや。
「探したぞ。安部」
後ろからシャキッとした声が聞こえ振り向いたら、今日の相方がいた。
「今日は宜しく。色々あったけど『今は』気にせず順当に勝っていこうぜ」
「貴様からそんな言葉を聞けるとはな……教官の教育の賜物だな」
「それはどうかわからんけども。しんきょーの変化って奴さ」
まあそんな事はどうでも良いや。作戦とか聞いてもどうせ「私が一人やるから何でもいい」見たいな事を、言いそうだから聞くのは無し。
「て言うか、何時からだっけ? 「今だぞ」……は?」
「だから探しに来たんだ。それと逃げて無いかを確認しにな」
「んな事は早く言えっての! ほら行きましょ行きましょ」
二人でアリーナまで走っていく。さあて頑張りますか!
○○○
「ヒエー一杯人がおるなぁ〜キンチョーしてきたぁ」
「抜かせ。今更こんな事で緊張するタマか?」
いいや! 全然! と答える様に大声で笑ってやる。
――――ここで対戦相手の顔を見てみよう。相手方の方もやる気満々と言った所か……ちょっとは緊張してくれれば良いんだけどなぁ。
特に一夏の方は俺の事を親の仇かと言うぐらいに睨みつけつけて来る。ヤバいわぁ、今まで生きてきてあそこまで闘争心をむき出しにする奴と出会った事が無い為、どうして良いか分からなくなってしまう。
――――まあ叩き潰すだけだ。
そんな事を思っていると試合開始を報せるブザーが鳴った。
真っ先に飛び出してきたのはデュノアだ。瞬時加速を上手に使い俺の方に向かってくる。
「分断か?狙いは」
大まかな予想をつけて敢えて誘いに乗ってやる。俺は虚空を打ち出しながら、ゆっくりとヴォーデビッヒさんから遠のいて行く。
遠目で見てもヴォーデビッヒさんは余裕綽々と言った雰囲気でその場で仁王立ちしている。
「――何よそ見してんだ」
後ろから声が聞こえてくる、男の声。一夏だ。
闇討ちを狙っていた一夏に対して素早く振り向き自分の背中を覆う様に円を発現させた。これでデュノアの豆鉄砲を防ぐ。
「ようこそ卑怯者の世界へ! 闇討ちたぁ恐れ入る」
「これはタッグだ! 戦略と言って欲しいぜ!」
んな大声で言わなくても聞こえてんだよバァカ! 炎斑を一夏に向かって横薙ぎに払う。
て言うかウチの相方は何やってんだよ!!
と思ったら後ろからヒウン! と風を切る音が聞こえた。どうやら援護はしてくれているらしい。
「じゃあ俺ヴォーデビッヒさんの所戻るわ」
「させるとでも「できるんだなぁそれが」……」
今度は円を全身を覆う様に発現させる。制限時間は心許ないけど戻る位の時間はある。
スラスターを吹かし全速力で相方の方へ戻る。
「やるじゃないか。割と見直したぞ」
「へーへーそう言うのは勝ってから言おうぜ」
丁度敵さん戻って来たみたいだし、仕切り直しですな。
そして間髪入れずに一夏が向かってくる。本当に血の気が多くて困る。頼むからもうちょい手加減して欲しいね。
「今度は私が行く。援護しろ」
ヌッと黒いISが一夏の前に立ち塞がる。
一夏が口角を吊り上げるこの距離だったらもう貰ったとでも思っているとんんだろうか?
「敵が何を使うか分からない状況で突っ込むと言うのは愚策中の愚策――――そしてこれがシュバルツェア・レーゲンの能力だ」
そう言うとさっきまで笑っていた一夏がヴォーデビッヒさんの眼の前で静止した。何か見えない力が働いているのか……分からないが、今が好機!
素早く一夏の後ろに回り込み鋸で袈裟斬りを放とうとした。
ダァァン!
デカイ銃声が響き渡ったと思ったら、次の瞬間には右手に激痛が走った! 慌てて後ろを振り返ると次弾争点を完了したデュノア。
「クッソが!」
叫ぶのも束の間デュノアが一気に肉薄してくる。一夏は固まったままだがヴォーデビッヒさんは躊躇い無く一夏にどデカいキャノン砲をぶち当ていた。
だが今は一夏の心配するのでは無く、かなりの速さで近づいて来るデュノアだ。
俺はハモニカを呼び出し横に構える。
そして可変させのぞかせるのは八門のビーム砲。
そして一定の距離に達した時ハモニカの引き金を引いた。
扇状に伸びるビームに虚をつかれたデュノア。直撃とは言えないが、それなりダメージを負わせる事が出来た。
だが本当の狙いは俺では無く一夏だった。キャノン砲で吹っ飛んでいた一夏を受け止め、二、三言言って離れた。
敵さん中々手強いじゃないの! すげえワクワクしてきた。
「あの男はもう瀕死だ次は此方から攻めるぞ」
そう言うと瞬時加速で奴らに肉薄して行く。俺も負けじとその後を追う様にスラスターを吹かした。
一夏は兎も角デュノアが結構な曲者だったな。頭の回転が速いし、いいチームだったなぁ。まあ俺の方が強いけど。
「流れは今完全にこっちに来た。一夏今だよ!」
「ああ! 行くぞ!」
カッッッッッッ!!!
瞬間視覚と真っ白に覆われ聴覚の方はキーーンと耳鳴りに襲われる。
マトモに閃光弾を喰らった俺とヴォーデビッヒさん。
俺は追撃が来る前に円を覆う。
正直ヴォーデビッヒさんを助ける余裕が無かった為、心の中で謝った。
そこから攻撃のリズムを完全に握られたオレ達。
まだ視覚が完全に回復していない為、周りの状況も分からない。
だが耳の方は若干回復してきた。
ズガンッッッ! ズガンッッッ!
腹にまで響く渡る重低音。それが連続で恐らくヴォーデビッヒさんが蹂躙されているのだろう。
「――――が……ギッ!」
多分ヴォーデビッヒさんがやられたのだろう……申し訳ない気持ちで胸が一杯になる。
やがて視界も徐々に回復して、耳の方は完全に回復した。
こう言う速いし回復もISのお陰なんだろうか?
「……まあ結果は酷いもんだわな」
晴れた視界が写したものは横たわるヴォーデビッヒさんとこちらの様子を伺う一夏とデュノアだった。
「あんまりこう言う事は言いたくないけどさー完璧に作戦負けだわな」
円はとっくに時間切れ、相方は脱落。あんまり強くない俺――――ん〜絶望テキィ!
「ここで降参するか、俺達によって負けるか――選べ双真!」
「そんな決定権がお前にあるのか?」
瞬時加速って言うのはISの後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーをして爆発的に加速するものらしい。
感覚的に言ったら深呼吸見たいなもんだ。
一気に肉薄して一夏を斬りつけようとする。
だがそれを許さないのはデュノア。俺が近付いてきた瞬間にはすでにライフルをこちらに構えていた。
ズダダダダダダッダダダダダッ!
鉛弾の雨をハモニカと瞬時加速で避けようと試みるが、如何せん瞬時加速をぶっつけでやっているから、姿勢制御がおぼつかない。
最初は余裕があったシールドエネルギーも0から数えた方が速いくらいになった。
頭の中ではどうしてこうなってしまったんだと言うのと、あの時もっと考えて動いていたらと言うのが、頭の中に浮かんでくる。
だがそんな事を考えても仕方ないし、この状況が好転する訳でも無い。
ふと何の気なしにヴォーデビッヒさんの方を見てみる。
相変わらず地面に倒れこんでいるが、どうも様子がおかしい……なんか黒い煙みたいな物がヴォーデビッヒさんの周りに漂っている。
俺はハモニカ砲と虚空を打ち出し二人を遠ざけた後、瞬時加速を使ってヴォーデビッヒさんの元に駆け寄った。
「大丈夫か?」
口元に手をあてがい呼吸を確かめる。息はしている様だがどうにも嫌な予感がする。
「■■■■■■■■■■■■■!!!」
目をカッと見開き、物凄い声をあげるヴォーデビッヒさん。
これひょっとしたら凄くヤバイんじゃ……まあ見た感じからしてヤバイけども。
するとヴォーデビッヒさんの黒いISが変なドロドロした物にヴォーデビッヒさん事飲み込まれた。
「なんだこりゃ……」
突然の出来事に頭の処理が追いつかない。一夏達を見やるが、俺と同じ様な顔をしている。
通信をオープンチャンネルに切り替え、一夏達に話しかけてみる。
「アレ何? 意味が分からんだが」
「僕達も一緒だよ……取り敢えず先生に聞いた方がいいんじゃないかな」
「随分つまらん事言うじゃないの。一夏はどう? ……一夏?」
どうも一夏の様子がおかしい。ジッと黒い奴を見てブツブツ言っている。その表情はまるで親の仇とも言わんばかりに怒りを露わにしていた。
「ぶっ殺す!!!」
そう叫ぶや否や瞬時加速を使い、一直線に黒い奴に向かって行く。
一夏がなぜそんなに怒るのか訳が分からないが取り敢えず炎斑を一夏の腰と右腕に巻きつかせた。
「放せよ! あいつはぶっ壊さなきゃッ!」
「一人で行くなアンポンタン。まず落ち着いて作戦を「うるせえ!」…………………めんどくせぇ奴」
リロードが終わっていた円で一夏の周りにシールドを貼る。
これで少し頭を冷やして貰おう。
ゴチャゴチャ言っている一夏を無視して、聞きたい事を聞いてみる。
「て言うかなんでお前そんなに焦ってんの? 親でも殺されたか? あれに」
「あいつは! あのISは千冬姉の……千冬姉のなんだよ!」
「今の話しは本当か? デュノア」
デュノアはゆっくりと首肯してみせる。
あーまじで面倒くさい事になってるじゃん今……一夏はこんなんだし、取り敢えずデュノアとなんとかしてみるか。
「おい一夏落ち着いたら出してやるから、それまで待っとけ」
まだ怒りが治らない一夏に対してそう言い捨てデュノアに向き直る。
「一回二人で敵さんの情報を集めようと思うんだが、なんかある?」
「特に何もないけど……良いのかな?先生に報告しなくても」
「してもしなくてもお偉方の避難とかで対応が遅れるんじゃないか? 取り敢えず今できる事をしよう。敵さんがこっちに向かってくるかもしれないし」
「……うん。君の事は信用出来ないけど……やろうか」
あらら……随分嫌われてるけど、やるしかないな。
「協力感謝するぜ。んま気楽にいこうぜ!」
俺とデュノアは一気に黒いISに肉薄した。
これからもよろしくお願いします