臆病者が行くIS学園 作:灰人
あーまた一人だ。折角いい感じになったと思ったんだけど、中々上手くいかないもんだ。もうしんどい。
そんな事を考えているとドアがノックされた。
俺の返事も聞かずに開かれた扉は、勝手に客人を部屋に迎え入れた。
「よ! 元気にしてたか」
「……一夏か。珍しい事もあるもんだ」
なんか一夏と久しぶりに話した様な気がする。まあ正直一夏の周りにいる奴が好きじゃ無いから、話しかけたくなかったって言うだけだ。
まあ結局は俺のやる気の問題って奴?
「体は……大丈夫か。謹慎だもんな」
「なんとも無いよ。それにしてもヴォーデビッヒさんにスカされ、俺には歯が立たなかった一夏君はどういう用事で?」
「きっついなぁ……まあ別に大した用事も無いけど、友達の部屋に遊びに来たっていうのはアリか?」
「限りなくナシに近いアリ」
そう言って一夏に背を向けて、話す。双真君イジケモードである。
「それにしても前から思ってたけど、双真って強いよな」
「何が? 勝負に勝ったのは一夏じゃん。もしかして嫌味っすか」
そう言うつもりで言ったんじゃ無いんだけどなぁ……と困った様に笑う一夏。まあ何と無くだけど励まそうとしてるのは分かる。
…………………………友達って言ってくれたし。
俺は頬を少しかいて、ベッドから飛び起きた。一夏は驚いた様な顔をして、俺の方を見つめる。
「暇だから相手してくんね?」
「何のだよ? 今授業中だし……それに謹慎だろ?」
「抜けだしてるんだから大して変わらんだろ……それに先生の説教で終わるんだったら安いぞ」
「……お前がそう言うんだったら別に良いけど……何処に行くんだ?」
「アリーナだよ」
○○○
「やっぱ決着着けないとダメだろ。トーナメントの」
一夏もスイッチが入った様で、俺を睨みつける。
あぁやっぱこう言うのって良いな。気兼ねなく戦えるから。
誰もいない二人きりの空間で小さく笑った。
『なら! 思う存分やっちゃって!』
ハウリングするぐらいの音量で響き渡る声。姉さんである。
文句を言おうとした瞬間、一夏が切り掛かって来た。
ガギンッッッ!!
鋸を展開し、受け止めたが不意の一撃は重すぎた。そのまま少し吹っ飛ばされ、バーニアを吹かし体勢を整える。
「やるじゃん、クッソムカついた」
「戦術だろ? 双真」
にゃろう……ドヤ顔でそんな事言われたら余計にあったまるじゃん?
俺は最近覚えた瞬時加速で肉薄して行く。
だが狙いは鋸の一閃……ではなく加速中に展開しておいたハモニカのビームお目当である。
当然一夏も俺が向かってくる訳だから、迎撃しようとこちらに向かってくる。
もう良い距離だろうと思い、俺は軽く横に跳びハモニカ扇状にビームを発射した。
「読んでたぜ!」
どうやら読まれていたらしく、機体を無理やり上昇させビームを回避した。
「らぁっ!」
ビームソードを大きく振りかぶり、一撃で決着をつけるつもりなのだろう、ビームソードから危ない匂いがビンビン伝わってくる。
「んなろ……!」
展開しておいた鋸で受ける。受けた衝撃が大きく体勢を崩したが、なんとか受けきる。本当に近接特化って面倒くさいわ。
通信をプライベートチャンネルに切り替えて、一夏に一つだけ質問する。
「なあ強さってなんなんだろうな……俺ってば何でこんな所にいるんだろうな」
「それは分からねえけど、俺達が持っているモノは……誰かを守れる力だと俺は信じてる――だから俺は強くなるんだっ!」
「ふーん……なら俺は今まで傷つけられた世の男達の為に戦おうかね……なぁんて」
イマイチ一夏の言っていることが分からなかったが、まあいい。そう思う事が大事って奴なのか? 人間やっぱ心の持ち様ってこと?
考えれば考えるほど思考が迷子になっていく。
「ボォッとしてると負けちまうぞ、双真!」
ビームソードを引いて横一閃。気を取られていた為にマトモに食らってしまう。シールドエネルギーは……まだ大丈夫。
「俺……もう少し頑張ってみる。せめて……俺が行ける限界まではっ! ――逃げてたまるか……!」
虚空を打ち出し一夏の動きを、鈍くさせる。今の俺ならいける。
「来いっ砕羽」
更に激しく虚空を打ち出す。そして俺自身も動き、一夏を簡単には近づけさせまいと、牽制する。
「見えるわ……一夏の動き、全部」
スコープを覗き込み、スラスターの慣性で滑りながら一夏の逃げる場所を狙い打つ。
乾いた銃声と一夏にヒットした事を確認するのは、ほぼ同時だった。
行ける……まだその先へ!
「たった一発当てて勝ったつもりかよ。双真」
「いや、むしろこれからだろ。そうだろ一夏」
名前を呼び合い二人して笑った後、瞬時加速で一夏に一気に肉薄する。一夏も同じ様に加速し、俺を迎え討つつもりでいるのだろう。
俺は円を体全体に纏わる。
「最強の剣か最強の盾――どっちが強いか、試してやるぜ」
ビームソードの威力をあげたのか? 途轍もないエネルギーを感じる。
あれは流石にヤバイ――だがもう逃げる訳にはいかない……さっきそう決心したから。
だから――俺はぶつかり合う前に体をひねり直撃を免れる。
バチィ!
覆っていた円が殆ど削られ装甲も右半分を削られる。シールドエネルギーも殆ど無い。
体に激痛が走る。だがこんな所で――こんな痛みでもう止まらないって決めた。鋸を強く握りしめ、一夏を斬り付ける。
「読めるんだよ。お前と一緒さ」
微かに聞こえた声。そして訳も分からないままにシールドエネルギーが尽きた。
「……今のは、何をしたんだ……」
「ああ? 雪片でもう一回切っただけだ。簡単だろ?」
「……あーとすくい上げて斬った……みたいな?」
まあそんな感じと言って、へへっと言って頬をかいた。そうか視界に雪片がいなかったから、そういう風に感じたのか……それをぶっつけでやってしまう……一夏のポテンシャル。
寒気がするわ。今迄何回かやったけど、ここまでの精度にするのに何処まで行った? そう思うと自然と笑ってしまう。
「負けられない……負けらんねぇよ。お前だけには負けたくない」
「はあ? 何言ってんだ。俺だってそうだよ」
そう言うと手を差し伸べて来た。
「……今回は負けといてやる。次は――ずぅえったい勝つ」
……大事なこと所で噛んでしまった。一瞬惚けた後一夏は急に笑い出し、俺の手を無理矢理握って来た。
て言うかすごく恥ずかしいんだが、何笑ってんだ。
「じゃあまた今度千冬姉には俺が言っとくから、お前は気にしなくていい。何たって友達……だからな!」
「恥ずかしいから、そう言うの。てか俺も一緒に行くわ。何たって友達だからな」
一夏の真似をして一緒に歩いて行く。途中急に一夏が笑い出したりしたが、特に何も無く織斑に怒られた。ふぁっく。
◯◯◯
双真が部屋で謹慎中の課題をやっているとコンコンと扉がノックされた。千冬の説教と一夏との試合で割と疲労が溜まってはいたが、居留守を使う訳にも行かないので来客を迎えに行く。
「……邪魔するぞ。アベ」
「ボーデヴィッヒさん。なんか用?」
返事を聞かぬままズカズカと部屋に入って行くラウラ。ため息を吐き椅子に座る双真。
「どったのよ。俺なんかしたっけ?」
「ああ。今朝はすまなかった……いきなりの事で驚かせた。謝りの品だ。受け取ってくれ」
美味いぞ、と言い紙袋を渡して来た。中を開くと見た事の無い恐らく英語で書かれた缶詰が出て来た。
「あーこれもしかしてレーションって奴? ……アリガトゴザイマス」
「そうか……喜んで貰えて何より。そ、それとだな……」
真剣な表情を作りコホンと咳払いを一つ。いきなり態度が変わり、少し訝しむ双真だったが取り敢えず紙袋を置き、ラウラの発言を待った。
「お、お前は私の嫁にする。決定事項だ。異論は認めん!」
大きく首を傾げる。頭の中は?マークで一杯だった。双真は口を開けたまま、しばらく固まっていた。思考の復帰が行われたのはそこから2、3秒後の事だった。
「えーとつまり何好きって事? 意味は分からなくも無いけど……」
「そ、そうだ「まずさ、良く話し合いましょうや」……むぅ」
渾身のプロポーズをあっさり返され。双真は冷蔵庫に飲み物を取りに行く。ラウラにも手渡し自分は椅子に座り口を開いた。
「何で俺なの? 普通一夏っしょ。それかあんたの言う教官様でしょうに……あーなんて言うかな? とにかく人違いじゃあ……」
「そんな事は無い。確かに……お前から見ればそう見えるかもしれない……だが私はお前の行動と言葉で救われた、それだけだ」
「……うん。そっか」
双真は俯き握っている缶を強く握った。救われたと言う一言で張り詰めた心が、少し緩んだのを感じた。
「俺でも救える事助ける事……あるんだな」
そう呟き潤んだ瞳を手で拭った。そしてラウラを手招きして隣に座らせた。
「ごめん今の俺じゃあ答えられない。でも友達から始めよ。俺は絶対に逃げないから、絶対に前から居なくならないから……待ってて欲しい」
「……この臆病者め。だがそれがお前のいい所だ」
ラウラが目を瞑り、肩に頭を預けて来た。不意の事だったので、思わず倒れそうになったが持ちこたえる。これはどう言う事なのだろうかと、考えていると双真の空いてるを手を自分の頭に乗せた。
「撫でろ。優しくだ」
無言で頭を撫でていると気持ち良さそうな声が聞こえて来る。双真は何故こんな事になっているのだろうか……と無い知恵を振り絞るが、やはり思い浮かばない。
壁に掛かっている時計をふと眺める。もうすぐ完全消灯の時間である。されるがままのラウラに撫でながら質問する。
「帰らなくていいのか? もうすぐだぞ消灯」
「バレなければどうと言う事は無い。それに……校則を破ってのお泊まりは、青春の大事な一ページだと……副隊長が、言っていたのだ」
「また泊まるのか……まあいいけど服は着ろよ」
碌な事を教えないな、お前の副隊長は……と言いそうになったが、流石にそこまで言う度胸が無いので、グッと我慢する。
「今度さあヴォーデヴィッヒさん所の副隊長お話しさせ貰えませんかね」
「……む。浮気はダメだぞ。後私の事はラウラでいい」
はいはいと適当にいなし、ラウラを抱えたまま電気を消す。豆電球だけが点き、薄暗いが無事ベッドまで到着した。
「俺まだ課題やってるから寝といてくれ」
そう言うとラウラをベッドに寝かす。何か言いたげな顔をしているラウラを無視してさっさと課題に取り掛かる。
「……もう終わるのか? 課題は?」
「んーまあもうちょい。寝てていいぞ」
そんなに俺と寝たいのか? と軽口を叩き課題を終わらせて行く。ラウラは複雑な表情で押し黙り、双真の様子を伺う。
(ほんっと変わるもんだな……なんかここまで上手く行くと気味が悪いぜ)
少し前の出来事を思い出してにやける。あんだけ悩んでた自分が馬鹿みたいだと、そして今起こっている出来事に対してもだ――こんな事多分願っても一生経験出来ない事の連発だった。
その殆どが出来ればきて欲しく無い事ばかりであったが。これもまた勉強と、思えばギリギリ割り切れそうな、そうでないような微妙な所である。
「うし……! 終わった」
それなりに量のあった課題を終わらせて手提げ袋に詰める。
(流石に一緒のベッドで寝るわけにはいかんよ)
もう既に寝ているラウラを確認してそんな事を思う。
豆電球を消して完全に暗くなった部屋。ベッドで寝ている美少女。据え膳食わぬは何とやらの状況で、双真はため息を吐いた。
「メンドクセ寝よ」
机に腕を置いて頭を乗っける。思考を放棄した結果机で寝る事で決着をつけた。
これからも気長にやっていきます