臆病者が行くIS学園 作:灰人
目が覚める。と言うか物凄く体が痛い。
原因を探そうと目を開けると、昨日自分が机で寝ていた事を思い出した。机に置いてある携帯電話を取り出して時刻を確認する。
「げ……まだ4時」
立ち上がり軽く筋を伸ばす、ガチガチに凝っていた体が少しはマシになる。
「……風呂でも入るか」
昨日で謹慎期間も終了した。出来ればあの教室へは行きたくは無いが、終わりは終わり。ため息を吐いて風呂場へと入って行く。
「あ〜かったるいな。てか何で俺の部屋で俺が机で寝なきゃいけないのか、納得がいかねえ」
客人の前では決して言えない事をシャワーと一緒に洗い流す。
文句は随分と溜まっている、だがここに来た以上は全てとは言わないが、ある程度は堪えるべきだと自分に言い聞かせる。
思えばこの学園に来て、余り良い事はなかった様な気がする。だがそれも身から出た錆なので、全て悪いとは言えない。何とも複雑な気分である。
「ふぃー暇だからラウラを起こそうかね」
制服に袖を通してはた迷惑な行動を思いつく。そして出来るだけの身支度をして、ラウラの寝ているベッドに座った。
「おーい起きろ。未来の旦那様」
髪を撫でながらラウラを起こしてみる。すると直ぐに目を開けて双真を恨めしげに睨んだ。
「……何故一緒に寝てくれなかった」
「起こすのわりいかなって……まあいきなり押しかけて来たからなー。ささやかなてーこーって奴?」
笑いながら答える。ラウラもやがて諦めたのか、ゆっくりと半身を起こした。
「てか自分の部屋戻らなくていいのか?」
「大丈夫だ。着替えは持って来てある。
「……そすか。用意がいい事で」
ラウラの周到さに呆れてしまう。自分がそんなに魅力的に見える者なのか? もう一度鏡でも見てこようかと席を立ったら、
「何処へ行くんだ?」
「散歩。ラウラも行くか?」
行くなら着替えろよ、と指示をしてもう一度洗面所に入って行く。そして鏡の前に立ち、自分の顔を確認する。鏡にはお世辞にも格好いいとは言えない人間が一人。
「うーんこれは不細工」
顔では無く内面的な物か? そんな事を考えていると扉が開かれた。見るとラウラが準備が出来たようで、外へ行くぞと顎でしゃくる。
外へ出て、鍵をかける。
「誰もいないな」
「まだ5時だからな。まあ早めに出た方が、とやかく言われなくて済む。早く行くぞ」
へいへいと適当な返事そしてラウラについて行く。途中ラウラが何処へ行くのか尋ねてきたが双真はこれをスルー。
しばらく歩いて寮の外にある中庭に到着した。双真は適当なベンチに座り、一息つく。
「そう言えばセシリアとかに謝った?」
「ああ……頭を下げた時はひどく驚かれたな」
「もしかして……レーションも渡したとか?」
そうだと首肯する。ラウラさん多分それですよ。双真は自分が渡された状況をセシリアに変換して想像する。ラウラには悪いが、その状況が笑えて仕方がない。
笑いを必死で堪えていると、不満を含めた顔をしたラウラが睨んできた。その顔がさらに笑いのツボを刺激させる。
「ぶはっ……! ダメだって……くくっ」
「レーション……美味いんだがな。そう言えば鳳も同じ様な……凄く微妙な顔をしていたな」
顎に手を当ててレーションと呟く姿を見て、ついに笑いのダムが決壊してしまった。双真は笑い転げ危うくベンチから落ちそうになるが、これをラウラが何とか止める。
「ひーくるしい……ラウラはいい子だなぁ。撫でてやろ「うるさいっ」へぶっ」
ラウラは顔を赤くして裏拳を見舞う。鼻を押さえて痛がる双真。その間抜けな姿を見てると、ラウラもつられて少し笑った。
◯◯◯
「織斑先生お電話が入ってます。えと敷島重工の安部と言う方からです」
内線で引き継いでもらい、そのまま受話器をとる。
「変わりました織斑です。何か御用でしょうか?」
「どうも初めまして……敷島重工の安部です。うちの深緑で少しお話しがあるのですが……お時間大丈夫でしょうか?」
物腰の柔らかい声で相談を願う、安部。まあ何時ものメンテナンスだろうと思い、千冬はこれに頷いた。
「近い内に大きな改修とメンテナンスを行おうと思っているのですけど……学園に入れる日程を教えて頂けないでしょうか?」
そう言われカレンダーを確認してみる。そこにはもう数日後に臨海学校と赤丸で記されてあった。それを見てもうそんな時期かと、肩を落とした。
「すいませんが近々臨海合宿があるので……訪問されても、留守になります」
「あーそうなんですかぁ。ではその合宿で改修とメンテナンスをしても大丈夫でしょうか? 勿論駄目なら駄目でいいんですが……」
「ああ、それで構いません。他社もそれに合わせてやる事も多いので……」
つい失念してしまいました。と謝りの言葉を入れる。安部はそれで構わないと言葉を続けた。
「あと最後に……うちの息子は大丈夫でしょうか? やっていけてますかね……」
「息子……? もしかして双真君のお父上で?」
少し驚いて聞き返してまう。受話器からはそうです、と言葉が出てきた。この父親からあの息子か……中々に想像がつかない。
そんな事を考えていると、
「あの……大丈夫ですか? もしかしてまた虐められてるとか……」
余りの出来事につい意識を深くに落としてしまった。千冬はそれを謝り、生活態度など日々の素行に少し難があると簡単に説明しておいた。
「あーやっぱりか……すいません、息子が迷惑をかけて」
「いえ……彼が来てから教師の難しさを痛感しました。私にも落ち度があります……ご子息を預かっているのにも関わらず」
「……織斑先生も苦労なされてるんですね。もう少しお話し伺いたいのですが……流石にそこまで引き止める訳にはいかないので、合宿中に二者面談って可能ですか? もう息子がIS学園に入ってから……ずっと気を揉んでおりまして……駄目ですかね?」
本来は余りそう言うことは無いが、今回は事情が事情である為、悩ましいものである。千冬的には即決したいが……他の人間が何と言うかが、問題である。
(いや何の為の学年主任であるか……父兄と話すだけだ、何も問題はない。あっても黙らせればいい)
千冬は大きく頷き、安部に面談の話を了承した。
「本当ですか! ありがとうございます……では合宿の時にまた連絡しますね。今日は本当にありがとうございました」
受話器から連絡が途切れた音が響いてくる。一度大きく息を吐いて受話器を戻した。何だかやけに疲れてしまった。
「大丈夫ですか? 織斑先生……」
後ろから心配そうな声をかけてきた山田。千冬はそれを大丈夫だと簡潔に終わらせて、すっかり冷めてしまったコーヒーを一口。
「いや……父兄との二者面談を要望されたんだ……」
「はあ、ですが原則的に「安部の父親なんだ……」え?! そうなんですか……それは確かに」
「だが状況が状況だ。ちゃんと会って話さなければならない。それにブリュンヒルデが一人の父兄に負けたとあらば……それも情けない話しだな」
自嘲気味に笑い、千冬は席を立った。山田には次の授業の代理を頼み。自分は合宿での面談の許可もらいに行く。
(難しい……が故に充実している……か)
教師と言う自分にとってはただの片手間な『作業』が、今になって少し楽しい。自分自身が生まれて初めてぶつかった壁とでも言うべきか? だがいくら登り詰めても超える事は出来ない歯痒さが自分を楽しませる要因だった。
◯◯◯
「セシリアって今週の日曜日って暇か?」
授業の休み時間に次の授業を準備をしていると、双真が話し掛けてきや。セシリアは特に考える様子も無く、首を縦に振った。
「おーなら臨海学校の準備しようぜ。買い物行ったりとか」
「分かりました。それにしても珍しいですわね。貴方から買い物を誘うなんて……」
「いや……トーナメントの時に助けてやれんかったからなー。お詫びも兼ねてご飯でもってね。買い物はその次だ」
「私からもお願いしたい。オルコットには改めて謝罪を」
「……鳳さんはよろしいので?」
ラウラは来ないと言い、双真は頬を掻きながらセシリアに話しかける。
「まあそう言う事だ。なんかまあ色々俺言ったけどこれからもよろしく、セシリア」
そう言って恥ずかしそうに手を差し伸べる。
「あの時は……私もぶったりして、ずっと悪いとは思っていました。ですが貴方にずっと……謝れずにいました。子供ですね……私」
言いながら自嘲的に笑う。ひとしきり考えたあと、意外な人物が言葉を紡ぎ出した。
「そんな事は無い……話しは大体聞いたが、そうさせる双真が悪いのだ。それにもう……折り合いはついたんだろう?」
ニコッと笑いセシリアの手と自分の手そして双真の手を重ねた。
これで友達だと言わんばかりにラウラは二人の顔を見合す。双真は恥ずかしくなり直ぐ手を引っ込めたが、それでもまた二人の手の上に手を重ねた。
「こんな小っ恥ずかしい事しないんだけどな……まあこれからもよろしく!」
「無理矢理終わらせましたね……」
「そうだな。臆病者め」
うっせと恥ずかしそうに言い顔を背けて双真は自分の席に戻って行く。ラウラはその様子を見てクック笑った。
「面白いなあいつは。そう言えばレーションは美味かったか?」
期待したような目でセシリアを見る。だがセシリアは即座に顔を窓の方に向けた。怪訝に思ったラウラは、周り込み再びセシリアの顔を覗き込む。
「どうだった?」
「あ、いえ……そうだ! もう授業が始まりますわっヴォーデヴィッヒさんも席に着いたらどうでしょうか?」
さあ行った行ったと自分の席を立ち上がりラウラを連れて行く。
その間にラウラは感想を聞きたがっていたが、セシリアは誤魔化す様に笑い、何も話そうとしなかった。
(身近な物でいいと言ったじゃないか……クラリッサの奴め……)
余りの不評に少し目の前が滲んだラウラであった。
◯◯◯
「はーい20秒遅れ〜罰としてもう一周〜」
遠くから残酷な指示が飛んでくる。うげっと思わず声が出てしまう。
双真は楯無を少し睨んで、持てる限りの力で全力でトラックを走りきる。
「はあはあ……ふぃー」
「息整えたら次いくわよー。謹慎明けはがっつりと……ってね」
不摂生と書かれた扇子を勢いよく広げる。怪しい笑みを浮かべるは学園最強の生徒会長対して地面に這いつくばっているのは、謹慎者安部双真。
「じゃー何しようかしら……んー人も増えてきたし……そうだ」
何か悪い事を思いつき双真を手招きしこちらに呼び戻す。
「腕立てとスクワットを私がいいって言うまでやって」
「……やりすぎじゃね? どこの昭和だよ……」
100区切りで交代ねーと目の前で間が抜けた声で指示を受ける。
双真はまだ文句を言いたかったが、喋る体力が惜しいのでなるべく顔に出さずに実行する。
「そう言えば……本音とはどうなの?」
「ふっ、話して、ないです。どうかしたんですか、くっ」
「最近元気ないのよねー仕事やってる時に、あれだけ辛気臭いとねぇ」
あまり気にしてない様な口ぶりでお菓子を一口。態々グラウンドに机と椅子を持ち出してお菓子を広げる楯無を恨めしげに見る。
「そんな、こと、言っても……ふぅ、どうするしろって、いうんですか?」
「あーあ安部君が励ましてくれたらなー!私も気楽なんだけどなー!」
「考えておきます……ぁが、足つった……!」
それも結構いてー奴! と叫び地面に転がる。声にならない呻き声をあげ地面に転がりこむ姿は間抜けそのものである。
暫くつっている様を無言で見ていたが、やがて大きくため息をついて、立ち上がった。
「それなりにやったでしょ? もう今日はいいわ。その代わり」
痛みもようやく治り、少し涙目の双真を立ち上がらせる。
「本音と話してらっしゃい。今からね」
「いや……それ「あー!本音のあんな顔見たくなかったわー!」……いきますよ……はいはい」
かなり嫌がる双真を無理矢理行かせ自分は食べたお菓子を予め持って来ておいた袋に入れ始める。
「全く……世話がやけるんだから」
可愛い弟分の姿を見てふぅとため息を漏らした。
色々待ってますぅ