透き通る世界で魔王は何を見る? 作:いぶりがっこ
──声が聞こえる。
微睡む意識の中、どこからともなく一つの声が聞こえてきた。
「……私のミスでした」
──透き通った様な声だ。しかし、その声はどこか悲しげに聞こえる。
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」
「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……」
「……今更図々しいですが、お願いします。先生」
この、絆を――
私たちとの思い出……過ごしてきたそのすべての日々を……どうか……。
◇
微睡む意識から覚醒し、気がつけば俺は硬い地面に横たわっていた。……ふむ、昨日は家のベッドで寝ていた筈だがな。しかしだ──
「ここは何処だ?」
そんな見知らぬ廃墟に暴虐の魔王、アノス・ヴォルディゴードは居た。ふと起き上がり、周りの様子を見渡すが誰も居らず、何も無い。ディルヘイドでもないようだ。
ミリティア世界とは別の小世界に転移した可能性も考えたが、その考えは直ぐに切って捨てた。
しかし妙だな、どこからも魔力を感じぬ。
どんなものであろうとも魔力は宿る。それが世界、ひいては銀水聖海の理だ。
魔眼にて深淵を覗くと魔力ではない、別の力は存在するようだが、少なくとも俺の知る類の力ではない。そんな、銀水聖海ではあり得ぬ状況に直面している中、俺は一つの可能性に思い至った。
「……ふむ。銀水聖海とは異なる、まったく別の世界か」
つまり、銀海以外の別の世界体系が存在したということだ。……くはは。なかなかどうして、世界というものは存外広い。あの途方もない銀海以外にも別の領域が広がっているという事実に多少驚きはした。だが、そこはさしたる問題ではない。
「いずれにせよ、探索せぬことには帰る手段も見つかるまい。まずは街を探すか」
ここいらに人の気配はない。
行動しない事には帰る手段も何も無いだろう。
そうして、俺はその廃墟を後にした。
◇
廃墟を出るとそこは砂漠だった。
いや、正確には一面が砂に覆われた街だったものが姿を表す。
周りには建物もあったがどの建造物も背が高く、我が世界にある建物とは違う建築様式が使われている様だ。その中には見たこともない壊れた機械があり、そのどれもが魔力を宿していない。
「なかなかどうして、面白い。魔力が存在せぬ代わりに、違う力を用いてここまで文明を発展させているようだが……些か効率が悪いな」
だが興味深いことに変わりはない。
そうして俺は街を一通り散策したが、相変わらず人の気配がない。この世界に関する情報が無い以上、これ以上はここに留まっても意味がない。
ゆえに、俺は砂漠の時と同じく街を後にした。