透き通る世界で魔王は何を見る? 作:いぶりがっこ
では、今回も楽しめる方はどうぞ!
数刻前──
サンクトゥムタワー。連邦生徒会。
連邦生徒会の会議室にて、少女と大人が顔を合わせて、話し合っているのが見える。
失踪した連邦生徒会長の代行、首席行政官であるリンは深刻そうな表情で俯いている。だが、如何なる理由か、この場で唯一の〝大人〟であるシャーレの先生は、先程とはうってかわって晴れた表情をしているのだ。
「…………」
〝あー、リンちゃん。大丈夫かい?〟
先生は心配そうにリンの顔を覗くが、リンの顔色は依然として、悪いように見える。
「……これが大丈夫そうに見えますか?」
〝……辛そうだね〟
苦笑いを浮かべた先生に、一つ溜息をついたリンは、妙に晴れた顔をしたその〝大人〟に対して、思わず言葉を漏らす。
「……本当ですよ。報告を受けた時は、思わず耳を疑いました。まさか……」
「あの巨大な反応が、別世界から来訪した一個人が内包するエネルギーだなんて……そんな馬鹿げたこと、一体誰が予想できるんですか。全く……」
半ば愚痴のように言葉を零すリンとは対象的に、先生は
自分と同じく、キヴォトスの外からやってきた子供。報告文について、ヒマリの所見ではあるが、彼の人となりについても記載されていた。
それを一読しただけで、先生は、アノスがキヴォトスに仇なす存在ではないとの確信を得たからだ。
「……先生。もう一度、聞きますが正気ですか?一時的にとはいえ、彼をシャーレに迎え入れたいだなんて……」
〝うん。ヒマリが報告で言っていたと思うけど、私はアノスが良い子だと思うんだ。それに……〟
「……それに?」
リンが不思議そうにこちらを見つめる。
〝元の世界に帰りたいのに、自由も拠点も無いようじゃ可哀想だしね。その点、シャーレなら居住区も有り余っているし、いざとなれば監視も出来るでしょ?〟
あまりに楽観的なその言葉に一瞬、リンは絶句した。確かに、先生はこのキヴォトスにおいて数々の事件を解決してきた、信頼の置ける大人だ。だが──
「万が一のことがあった場合はどうするのですか……?」
何か考えがあってのことなのだろう、とリンは思った。だが同時に、万が一、もしキヴォトスに何かあれば……リンは今のキヴォトスを預かるものとして、それを問わずにはいられなかった。
〝その時は──〟
〝私が大人として、全ての責任を取るよ。だから、安心して任せて欲しいんだ───〟
◇
「……ふむ。なるほどな」
一通りの話を聞き終え、俺は先生に向き直る。
「つまり、便宜上は俺を監視するという名目で、キヴォトスでの自由と一時的な居住を、正式に保障するという訳か」
〝平たく言えば、そういうことになるね〟
先生が俺の言葉に頷き、肯定する。
ふむ、なるほどな。断る理由もない上、協力者の乏しい今、俺にとっては十分なメリットになると言えよう。
もし、仮にこれが罠だったとして、敵対するメリットがあちら側には無いことを暗に示している訳だ。
こうして今、俺と目の前で対談しているのが何よりの証拠だろう。
〝そして、何より──〟
だが、次の瞬間、俺は信じられない言葉を聞くことになる。
〝子供が困っているのを見過ごせないよ。私は大人で、先生だからね〟
──刹那、俺は絶句した。く、くく、くははっ…
「くはははははははっっ!!」
先生とリン、そしてその部下と思わしき生徒達が、笑いを抑えられなくなった俺に一瞬、肩をビクリと震わせ、怯えたようにこちらを見つめる。
〝ど、どうしたの!?アノス〟
「驚いたぞ。まさか今の時代に、これほど純粋な善意を持った人間が、まだ存在していたとはな」
先生から感じる感情。それは一切の打算や邪念のない、ただ純粋に子供を心配するだけの、純粋な善意だ。
やれやれ、俺が人間にここまで興味を持ったのは勇者カノン以来か?流石の俺も、ここまでされては頷く以外に答えなどない。
「決まりだな」
俺は先生に対し、スッと手を差し出した。そうして、呆然としていた先生はハッとし、それに応えるようにして、改めて俺の手を握る。
〝これからよろしくね、アノス〟
「ああ、よろしく頼もう」
さて。次回からまた、アノスがキヴォトスをぶらぶらし始めると思いますので、私も筆がのりやすくなりますね。今後とも本作をよろしくお願いします。
ちなみに、ちゃんとこの先生もイオリの足は舐めてます。それはもう、ガッツリと。