透き通る世界で魔王は何を見る? 作:いぶりがっこ
──ゲヘナ学園、第一校舎前。
シャーレから近場にある電車に乗り、足を運んだ俺達は現在、ゲヘナ学園の第一校舎前に立っている。見たところ、なかなか豪奢な学園のようだが……
ズドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオン!!!
「ふむ。確かに、お世辞にも治安がよいとは言えないな」
校内外問わず、響き渡る銃声や笑い声がこの学園の治安を表している。なかなかどうして、自由と混沌を校風にしているだけのことはある。
「全く。私が学園から離れてる隙に、暴れた連中がまた出たのね。さて……」
ヒナは愛銃である終幕:デストロイヤーを構え、暴れている生徒達に照準を合わせる。
「終幕:イシュ・ボシェテ──」
そう言い終えると、身の丈程の銃で不良生徒達に向かって、まるで雨あられのように銃弾を連射した。
「ぐはっぁあ──!?」
「ぐあっ…!?な……に、が……!」
銃弾の嵐が次々と不良生徒に命中し、撃ち終えた頃には皆静かになっていた。なるほど。事前に聞いてはいたが、これがゲヘナ最強と呼ばれる少女の実力か。
「ごめんなさい先生、アノス・ヴォルディゴード。多分、この先もうちの生徒が迷惑を掛けると思うから、先に謝罪させてほしい」
「気にするな。この程度、迷惑の内にも入らぬ」
〝大丈夫だよ。子供は元気が一番!……だけど、あの子達は少し元気過ぎるよね……〟
全く気にしていない俺と、「たはは」と笑う先生。その様子を見てヒナは肩の荷が降りたのか、薄く笑みを浮かべて「ありがとう」と一言告げた。
◇
俺達は学園内へと歩を進める。そうして最初に訪れたのはとある食事処と、それに併設されている厨房だ。そこには二人分の影が見える。
「ああ〜もう!!あいつら、こんなに散らかしてっ!」
「落ち着いてください、フウカ先輩……!」
一人は赤い瞳を持ち、額に特徴的な二本の長い角を生やしている少女だ。そしてもう一人の少女も側頭部に二本の角を生やしており、どこかおっとりとした雰囲気を感じさせる。
そのどちらもエプロンを着用しており、この学園の食事を担当する者だとすぐに分かる装いだ。
そんな二人の少女に先生は声を掛けた。
〝おーい。フウカ、ジュリー!〟
「せ、先生!?いつの間に……」
「先生、お久しぶりです」
声を掛けてきた先生にフウカは驚き、ジュリはその顔に嬉しさを滲ませている。久しぶりなのか、彼女達は先生との再会に喜びを隠しきれない様子だ。
だが、しばらくしてジュリは俺に気付いたのか、疑問と若干の驚愕が入り混じった顔でこちらを見つめている。
「ところでヒナさんの方は分かるのですが、その後ろの男の人は一体……?」
「本当……って、人間の男の人?先生以外で見たのは初めてかも……?」
ふむ。そういった反応をしてきたのはモモイ達以来か?まあいい。俺も名乗らぬ訳にもいかぬので、簡潔に自己紹介をするとしよう。
「俺はアノス・ヴォルディゴード。仮とはいえ、今はシャーレの部員として活動している。そういった事情で、これから顔を合わせる機会も出てくるやもしれぬのでな。よろしく頼むぞ」
「アノス……」
「ヴォルディゴード……?」
フウカとジュリは、まるで違和感を覚えたかのように首を傾げている。
「ふむ。いつかのモモイ達にも同じような反応をされたが……俺の名に違和感が?」
そう問うと、慌てたようにしてフウカが答えた。
「……ああ、いえ!珍しい名前だったもので、外の世界の中でも更に外の方から来た方なのかなと」
「まあ、そういったところだ」
なるほど。違和感を感じていたのはそういう理由だったか。確かにこの世界の住民の多くは、名前が姓の後からきている。そう感じるのも無理はないだろう。実際、フウカの予想は当たっている。
「ところで先生方は給食部にどの様な用事があって、いらっしゃったのでしょうか?」
〝今日はアノスにキヴォトスを知ってもらう為に、各学園を案内しているところなんだ。丁度、シャーレにヒナも来ていたし、今回はゲヘナが良いかなと思ってね〟
「なるほど……」
先生は疑問を浮かべるジュリに対し、その疑問を晴らすためにそう答えた。ジュリも納得したらしく、うんうんと頷いている。しかし、だ──
「……それにしても、随分と散らかっているな。これは生徒の仕業か?」
「そうなんですよ!全く、あいつらときたら!!」
「フ、フウカ先輩!?落ち着いて──」
食事処の方を見てみると、食器や食べ物がいたるところに散乱しており、綺麗なところは数ヶ所を除いて他にはない。なかなかどうして、ゲヘナには問題児が多いようだな。それに──
「せっかくだ。片付けるついでに、俺も仕込みを手伝おうと思うのだがいいか?」
「ええ!?」
突然の提案にフウカは驚き、少しばかり顔を歪める。
「そんな、悪いですよ……!それに、もし仮に分担するとしても仕込みは四千人分もあるんです。しかもそれを来たばかりの人に任せる訳には……」
「くはは」
笑う俺に、フウカは一瞬肩をビクつかせるも、今度は疑問の入り混じった顔でこちらに問うてきた。
「私、何か変なことを言いましたか……?」
「三分だ」
「……え?」
突然、訳のわからぬことを言い出す俺に、フウカは戸惑いを隠せないでいる。
「その程度の仕込み、俺ならば三分で済ませられる」
フウカ達と同じ様にエプロンを着用し、着終わった俺の身体から徐々に魔力が放出される。
「まあ、信じられぬのも無理はない。そこで見ておけ」
その魔力にて魔法陣を描き、更に魔力を込めていった。
「お前達にも見せてやろう、魔王の仕込みを」
魔王様3分クッキングのお時間です。
さて、次回どうしよ(いつもの)