透き通る世界で魔王は何を見る?   作:いぶりがっこ

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幾億の滅びに曝されて(君は孤独な化け物)

 

〝虚無……?〟

 

俺の言葉を復唱し、先生は疑問の表情を浮かべる。

 

「………」

 

〝アノス?〟

 

「……すまぬな。少し過去を思い出していた」

 

呼び掛ける声に、一拍おいて俺は答えた。

 

「滅びの根源の他にも特殊な性質を有した根源があるのだが、その中でもとりわけ特異な性質を持った根源が存在する。……いや、存在しないと言った方が正しいか」

 

「……?」

 

〝存在するのに存在しない?どういうことかな〟

 

「……哲学の話でしょうか?」

 

先生達はまるで意味がわからない、といったばかりに首を傾げている。まあ、当然と言えば当然か。

 

「かつて俺と敵対した不適合者、グラハムという男が持っていた特異な根源。虚無の性質をもつ根源だ」

 

〝未だに話を呑み込めていないんだけどね……。アノス、その不適合者って何なのかな?〟

 

「そこから話すべきか」

 

「不適合者とは、世界の理から外れた者のことだ。秩序に支配された世界において、その秩序から逸脱した忌むべき存在。それが不適合者と呼ばれるもの」

 

〝おお!?そこだけ聞けば、何かカッコイイね……!〟

 

不適合者の話をするならば、本来は主神や適合者についても話すべきなのだろうが、話がややこしくなるので今回は省いた。

 

「話を戻そう。かつて敵対したグラハムという男が持つ虚無の根源。これが相当厄介でな、それそのものが無に等しい根源だ」

 

「世界の理から外れた、正真正銘の空虚。永遠の無を超えた果ての虚無そのもの。奴は如何なる力に曝されようとも真に滅びを迎えることは決してない。例え滅びたとて、無を超えた虚無そのものであるが故に、滅ぼしても意味がないのだ」

 

「………」

 

ヒナは息を呑み、拳を強く握りながらも、俺の話を静かに聞いている。

 

勘かどうかは分からぬが、今の話がハッタリの類ではないと理解しているようだ。

 

「グラハムは、世界に数多の悲劇を生んできた。そして我が父と母を滅ぼした仇敵だ。放っておけば、無辜の民にも奴の魔の手が及ぶだろう。ゆえに、それを滅ぼすことにした」

 

「……どうなったの?」

 

奴の末路について、ヒナは問うてるのだろう。

 

「封じ込めた。俺の根源の中にな」

 

俺は奴が辿った運命を淡々と答えた。

 

「頑強なまでのグラハムの根源。それを終焉に導くため、世界を滅ぼす以上の滅びが根源の奥で、常に荒れ狂っている」

 

「奴が真なる無に帰すその時まで、その虚無を滅びの深淵にて閉じ込め続けるのだ。永遠にな」

 

想像を絶する話に、全員が愕然とした表情を見せた。

 

だが俺の語るそれを、与太話の類だとして切り捨てようとするものは、ここには一人として居なかった。

 

「奴の虚無が完全に消え去るまで、幾億の滅びが必要かは知らぬがな。俺の根源の深奥でならば、力を軽く垂れ流しているだけでお釣りがくる」

 

「……奴には機会さえ与えぬ」

 

一通りを話し終え、辺りには静寂が走る。

 

より正確には一度、ある一件をきっかけに奴は我が根源の外に出ている。

 

だが、他ならぬグラハム自身が俺の根源に再び戻り、永遠の責め苦を望んだ。曰く、「その方が退屈しない」とのことらしいが──

 

そんな静寂も束の間、その沈黙を破るかのようにヒナは口を開いた。

 

「……到底信じられない話ではあったけど、話を聞いて理解できたことが一つある」

 

間をあけて、彼女は言う。

 

「──貴方、孤独なのね」

 

 

 

 

 

 

ヒナは、その顔に憐憫を浮かべながら言った。

 

彼女はゲヘナ最強どころか、このキヴォトスにおいても最強を争うであろう実力を有する。

 

それゆえ、彼女は知っているのだろう。強者であるが故の孤独を。

 

仮に対等な強さをもった者が居たとして、それが自分の孤独を癒す者足り得ないことも。

 

「否定はせぬ」

 

俺は素直に言葉を返した。

 

友に胸の内を明かすまでグラハムの言う通り、俺は自身を孤独だと思っていた。思わされていた。

 

……だが、たくさんの配下に囲まれながらも孤独だと思い続けていた俺に、(レイ)は勇気を示してくれた。

 

君は一人じゃない。君は孤独なんかじゃないと。

 

「俺とて、孤独を感じなかったわけではない」

 

幾千の悲劇に襲われようと、幾万の災禍が降りかかろうと、幾億の絶望が立ちはだかろうとも。彼は、彼らは俺に示し続けてくれたのだ。

 

孤独ではない、と。

 

「だがな、俺には頼もしい配下達がいる。貴方は孤独なんかではないと、道を示し続けてくれた配下達が。俺をその孤独から救ってくれる、無二の朋友(勇者)が」

 

彼等が歩んだ道こそ我が王道、俺が歩む道こそが彼等の覇道だ。

 

だが、その道はもしかしたら脆く崩れやすいのやもしれぬ。

 

だからこそ互いを支え、守り続けるのだ。

 

「ならば、孤独だどうだと宣っている暇はあるまい?」

 

「……そう」

 

俺はニヤリと口角を上げ、ヒナは静かに目を閉じて答えた。

 

どれだけ遠く離れ、いかな方向へ進もうと、俺達の歩む道は重なっている。そんな想いを胸に、俺は窓から見える遠くの空を静かに眺めた。




後味が悪い形で終わらせるのもアレなので、本文を追加しました。もっと頑張ります…。

─────追記─────
ちょっと微妙な形ですが、ゲヘナ編は一旦終わりです。また少しダラダラと話を続けた後にトリニティ編、そしてオリジナルストーリーを予定しています。では、また次回お会いしましょう。
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