透き通る世界で魔王は何を見る? 作:いぶりがっこ
ユウカとともに、先生を待ち始めてから早数時間が経過した。キヴォトスの空には夜の帳が降り、辺りはすっかり暗くなっている。
先生を待つと息巻いていたユウカも時折、欠伸を出しており、これ以上は待つのも仕方なしと判断したのか、彼女はしょんぼりとした表情を浮かべ、そそくさと持参した道具類を鞄にしまう。
「帰るのか?」
愚問だろうが、俺は敢えて彼女に問うた。
「ええ。これ以上、先生を待っていても来ないでしょうし……残念だけど、今回は切り上げさせてもらうわ」
未だ残念そうな面持ちで、彼女は俯いている。
「ふむ。しかし良いのか?」
「……何がですか?」
どんよりとした様子を隠さないユウカは、俺にその言葉の意味を問う。だが、そんな表情の
「先生はもう帰ってきているぞ」
「え?」
俺の言葉にユウカは一瞬疑問を抱くが、間を置かずしてドアからノックの音が聞こえた。
〝アノス、ただいま〜。遅くなっちゃってごめんね……って、ユウカ?〟
「先生!?」
ユウカが驚いたように目を丸くする。
まさか、このタイミングで先生が帰ってくるとは思ってもみなかったのだろう。ユウカは驚いたように俺の方へ視線を移した。
「くはは、そう驚くようなことでもあるまい」
俺は笑いながらユウカへ言った。
〝えっと……これ、どういう状況なのかな?〟
◇
〝……なるほど。ユウカは私の出費の件について問いただすために、わざわざミレニアムから足を運んでくれていたんだね〟
「そうですよ!今月の先生の浪費は特に酷かったから私、びっくりしたんですよ!?これを期に、趣味への浪費は控えたらどうなんですか!」
〝あ、あはは……〟
プリプリと怒るユウカに、先生は苦笑を浮かべる。だが、その様子を見るに先生は申し訳なさそうにしつつも、反省はしていないようだった。
〝そういえばアノス、任せていた仕事は終わったかな?〟
ユウカの話から逃れようと、先生は俺に話を振る。その声は苦し紛れのそれだったが、俺は敢えてそれに乗ってやることにした。
「ああ、昼頃には終わらせた」
そう答えると先生は眉を下げ、笑みを浮かべる。
〝あんな大量の仕事を任せちゃってごめんね。どうしてもアノスがいると、何時も以上に仕事が楽になるから頼りすぎちゃって……〟
「気にするな」
俺は口角を上げ、そう答える。
だが──
「むー……」
そこに頬を膨らませたユウカが立っていた。
「……先生!!」
〝ど、どうしたのユウカ?〟
「わ、私も……」
〝……?〟
先生は首を傾げ、疑問の表情を浮かべる。
だが、ユウカは顔を赤面させ、慌てた。
「わ、私も今度は仕事を手伝いますから、アノスさんばっかりに頼り切っちゃ駄目ですよ!先生、分かりましたか?」
〝う、うん。分かったよ。ごめんね、ユウカ〟
そこで──
〝……あ、そうだった〟
徐ろに先生が声を上げる。
「どうした?」
俺が問うと、先生は答える。
〝そういえばね、アノスに伝えるべきことがあったのを忘れていたよ〟
「先生、何してるんですか……」
呆れた様子で彼女は溜め息をついた。
それにしても伝えるべきこと、か。
「その伝えるべきこととは何だ?」
〝うん。今度、アノスと一緒に見学する学校が決まってね。その予定日と日程を伝えにきたんだ〟
「なるほどな。して、場所はどこだ?」
「見学する学校はトリニティ総合学園。いわゆる、お嬢様学校って感じのところなんだけど……〟
ふむ。トリニティ総合学園か。
トリニティは前に行ったゲヘナと同じく、シャーレと連携することが多く、関わりも深い組織だ。
その名が示す通り、ミレニアムと比べて宗教的な雰囲気が漂っている。また、規模的にも大きく、キヴォトスでも三大校の一つに数えられている。
〝予定としては一週間後にトリニティへ出向くことになっているけど、アノスはどうかな?〟
「問題ない」
〝ありがとうね、アノス〟
「先生、私もいることを忘れないでくださいね?」
ユウカはゴゴゴ、という音が聞こえそうな笑顔で先生を見つめている。
〝ユ、ユウカも来るんだよね?〟
「当然です」
先生とユウカは和やかな会話を続けていく。そして、一通り話が終わると彼女は口を開いた。
「とにかくですね、先生。今回の出費はやり過ぎなので反省してください!」
〝返す言葉もありません……〟
先生は肩を落としながら、弱々しく呟く。
「じゃあ、帰りますけど、次からはこうならないことを期待してますからね!」
〝善処するよ〟
その後、ユウカは疲労の溜まった体を引き摺るようにして帰路につく。暗くなった外ではキヴォトスの街灯がぼんやりと輝いており、その光を見ながら歩く彼女の姿は妙に絵になった。