刀使ノ巫女 笑顔の守り人   作:桜庭カイナ

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プロローグ

朝9時前のとある駅前。スーツ姿のサラリーマンや学校指定のバックを背負う学生達で混雑し、タクシーとバスの乗り場には長い列ができている。

その駅前広場には大きな時計がそびえ立ち、天然芝が生い茂げ休憩用の木製ベンチがいくつか置かれていた。

そのベンチには泣きじゃくっている紺色の長袖シャツ姿の少年と灰色のフード付きパーカー姿の少女が腰掛けていた。

淡い青色のウェーブがかかったセミロングの髪にルビーの様な赤い眼を持ち、背中には刀使に支給される帯刀用器具で固定された大太刀型の御刀を背負っていた

 

「ひっく…えっぐ…お母さん…」

「ねえ?お母さんとはぐれたのはいつ頃かな?」 

「ついさっき…電車からたくさんの人が降りてきて、その人たちに押されちゃって…」

 

どうやら少年は母親とはぐれてしまったようだった。少女は少年の頭をやさしく撫でた。

 

「大丈夫!私も一緒に探してあげるから!君、名前は?」

「…翔太。桜庭翔太(さくらばしょうた)だよ…お姉さんは?」

「ふふん。私は笑顔を守る刀使!剣崎藍華(けんざきあいか)!」

 

剣崎藍華と名乗った刀使は溢れんばかりの笑顔を浮かべて、翔太へサムズアップした。翔太は涙を袖で拭うと、藍華にサムズアップをし返した。すると背後から女性の声がかすかに聞こえた

 

「翔太ー!どこにいるのー!翔太ー!」

 

二人は振り返ると、肩掛け用の茶色いカバンを下げた20代後半の女性が翔太を探していた。

 

「お母さん!お母さーん!」

 

翔太はベンチから立ち上がり母親に向けて小さな右手を大きく振る。翔太の声に気付いた母親は翔太の元へと駆け寄り、彼を抱きしめる。

 

「ああ…良かった!」

「この人が…藍華お姉さんが僕を元気付けてくれたの」

 

母親に「ありがとうございました」と何度もお礼を言われた藍華は先程と同じように笑顔でサムズアップする。

 

「大丈夫です!翔太くんとお母さんの笑顔を守れて、私も嬉しいですから!」

 

時計台から学校のチャイムを思わせる大きな音が駅前広場に鳴り響く。藍華は9時を示す時計台に目をやると、突如一気に顔が青ざめた

 

「いけない!もう遅刻確定だよこれ!」

 

藍華はベンチ近くに止めてあった白色のネイキッド型バイクに跨り、ヘルメットをかぶるとバイクのエンジンをかける。

 

「ごめんね!お姉ちゃん、もう行かなきゃ!もうはぐれちゃダメだよー!」

 

藍華は翔太にそう言って手を振るとバイクを走らせ、ある場所へと向かった。

 

 

 

「寿々花、今の時刻は?」

「午前9時28分ですわ。真希さん」

「剣崎さんから遅延の連絡はありません」

「もー!いつ来るのー!その剣崎って人!」

 

刀使の頂点に立つ大災厄の英雄である折神紫を守護する親衛隊達。親衛隊第一席獅童真希。第二席此花寿々花。第三席皐月夜見。第四席燕結芽。

折神家本部にある親衛隊用の談話室にて藍華を待つ彼女達は待ちくたびれた様子だった。

 

「配属初日から遅刻し連絡も無しなど!刀使以前の問題じゃないか!僕達はまだしも!紫様をも待たせるなんて!不敬にも程がある!」

「配属初日から遅刻なんて、まったくいいご身分なことですわ」

 

真希は怒り心頭な様子で叫び、寿々花は心底呆れた様子で皮肉を吐く

夜見は相変わらず無表情のままで沈黙し、結芽は退屈そうにソファーに寝そべっていた。

すると外からバイクのエンジン音が聞こえ、だんだん音が大きくなり激しいブレーキ音が鳴ったのを最後に外は静かになった

 

「ひょっとして……藍華さんでしょうか?」

 

寿々花が窓に近づいてロックを外して窓を開けた瞬間、突如黒い影が寿々花の前に現れた。

 

「なっ!?」

 

寿々花は刀使としての本能でその場からバックステップし距離を取り、御刀の柄を握り居合の構えをとる。

 

「遅れてすいません!本日配属となりました!折神親衛隊第五席!剣崎藍華です!」

 

窓枠に掴まっていた黒い影の正体もとい藍華は窓から談話室に入ると、笑顔で寿々花達親衛隊に自己紹介をした。だが、歓迎ムードとは程遠い親衛隊4人の雰囲気に藍華の笑顔は苦笑いに変わった

 

「剣崎さん。いまの時刻をいいなさい」

「……9時30分です」

「事前に伝えた集合時刻をいいなさい」

「…9時です」 

「貴女は窓から部屋に入る様に両親に教わったのですか?」

「いえ……まったく……」

 

遅刻するだけでなく窓から談話室に入るという非常識さに堪忍袋の尾が切れたのか、寿々花は藍華に必要以上に分かりきった質問を投げかけ続ける。

その様子をただ苦笑いで見届けるしかない真希は夜見と結芽に目をやるが、助け舟は出せないとばかりに2人は首を左右に振った。

 

「遅刻した理由が迷子探しですって?貴女は物事の優先順位を間違えています。配属初日に遅刻して自分の印象を悪くしてどうするんですの?」

「え……。寿々花さんは目の前に迷子で泣いている子がいても知らんぷりしちゃうんですか?」

 

寿々花の言葉に藍華は悲しそうな眼をしながらそう返す。

 

「そ……そんなことはありません!私はただ!駅員の方々に任せるなど他のやり方が……!」

「うわー……寿々花お姉さんひどーい」

「結芽!人を薄情者みたいに言うのはおやめなさい!」

「二人とも落ち着くんだ。剣崎。君が困った人を放っておけない心優しい刀使なのは分かったよ。その優しさはずっと無くさない様にして欲しい」

 

話が脱線して収集がつかなくなってきた状況を見かねた真希は助け舟を出した。

 

「でも寿々花の言うように駅員や警察に任せるやり方があったはずだ。現に君は遅刻し、他の公務がある紫様と僕達に迷惑をかけた訳だからね。そこは反省してくれ」

「……はい。すいませんでした!」

 

真希の正論に返す言葉もない様子の藍華は謝罪し、深く頭を下げる。

深く反省した様子を見た真希は寿々花に目をやると、寿々花は頷いた。彼女もこれ以上遅刻したことに対して何か言うつもりはないようだ。

 

「よし。もう遅刻の話は終わりだ。僕達も自己紹介しておこうか」

「はーい!親衛隊第四席!燕結芽!この中で一番強いの!剣崎お姉さんも強いんだよねー?私と手合わせしようよ!」

「結芽。時間がないのですから後になさい。私は第二席。此花寿々花ですわ。寿々花で構いません」

 

寿々花は先程まで退屈そうにしていた結芽は藍華に走り寄り、目を輝かせながら自己紹介する結芽を制止しながら自己紹介した。

 

「親衛隊第三席の皐月夜見です。どうぞ…お見知り置きを」

「そして僕が第一席の獅童真希だ。剣崎、改めて君も自己紹介してくれ」

「はい!私は今日から折神親衛隊第五席になります!みんなの笑顔を守る刀使!剣崎藍華です!」

 

藍華はそう自己紹介をし、四人に向けて溢れんばかりの笑顔でサムズアップした。

藍華と真希達まだ知る由もなかった。藍華はこの親衛隊になくてはならない存在となる事を。藍華は親衛隊の笑顔を守る為に大切なものを失う日が来ることを。

 

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