「千里先生?どうかな……?」
藍華は自室にて千里とテレビ通話をしているPCの前に、五つの毛糸で作られた手のひらサイズの苺大福ネコを並べて不安そうに感想を聞く。
普通の苺大福ネコとは違ってそれぞれ毛糸で作った髪の毛が付けられており、真希や寿々花、夜見に結芽、そして藍華自身の髪の特徴をうまく再現されている。
一言で説明するなら《イチゴ大福ネコ化した折神親衛隊》とでも言おうか
「うん!すっごく可愛い!親衛隊のみんなも絶対喜ぶわぁ」
「やったぁ!あおぞらにいた頃に培った手芸スキルは伊達じゃない!」
「ふふ…さすが私から手ほどきを受けた藍華ちゃんだわぁ」
藍華はこう見えて手先が器用で、あおぞら時代の家庭科の手芸の授業ではクラス内で一目置かれていたのだ。あおぞら卒業式ではクラスメイト全員分の毛糸の苺大福ネコをプレゼントした事もあった
「あと千里先生!明日の御前試合で会場の警護を任せられたんだ!先生はもちろん来るんだよね?」
「えぇ、毎年見に行ってるから。試合はもちろん、藍華ちゃんの親衛隊服姿が楽しみ」
「ふふん。カッコイイから期待しててね?」
まるで明日は我が子の晴れ舞台を楽しみにしている母親のように千里は微笑む。
「ねぇ……藍華ちゃん?お仕事で困ってることはある?」
「ん?どうしたの急に?」
「深い意味はないんだけど……貴女は昔から辛い時でも大丈夫って言うでしょ?だから……少し心配なの。親衛隊になってからお仕事が辛いとか無い?」
「うーん……。偉い人と面談したり、報告書をまとめるのが夜遅くまで続いちゃったりするけど大丈夫!みんなの為だから!」
「藍華ちゃん……」
藍華のトレードマークである笑顔とサムズアップを千里に見せるが、千里の表情は晴れない。
人は精神を磨耗すれば愚痴を吐いたり、怒ったり、泣いたり、何かしらのシグナルが現れるものだ。
だが藍華にはそれが無い。痛みも苦しみも全て笑顔で隠してしまうのだ。
何かの拍子で彼女の笑顔が消え失せてしまうのでは無いかと、千里は不安で仕方がなかった。
「本当に大丈夫!だから千里先生……安心して?」
「わかったわ……。じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみ!」
藍華はマウスを動かしカーソルをバツ印に合わせクリックし、通話を閉じた
「千里先生……。どうしたら安心してもらえるんだろう」
藍華は千里が心配そうにしていた事が気がかりだった。
確かに辛いことや苦しいことを口にするのも必要だと彼女は理解している。
だが荒魂を斬り祓ってみんなの笑顔を守る為に刀使となった彼女は、自分が愚痴を吐いたり、泣いている場合ではないと思っていた。
「(泣いていたら……誰かを守れないから。もう……私みたいな子を増やさないように)」
荒魂に家族を奪われ、あおぞらに入所する事になった子供達はみんな泣いていた。『お母さん』『お父さん』と涙を流し嗚咽を漏らしながら何度もそう呟いていた。
藍華はそんな子供達を笑顔にしようと必死になった。お手玉や手品、夜見や寿々花にしたように被り物や着ぐるみを着て踊った。
そして笑ってくれた子達を見て決意した。この笑顔を守る為に刀使になろうと。もう誰かが涙を流さなくていいように
「んー……まあ多分大丈夫!明日は早起きしなくちゃだし、寝ないとね」
午前6時頃。藍華は折神家敷地内にある祭殿へ向かう祭殿は山の中にあり、あたりには霧が立ち込めていた。
「おはよう、藍華」
「おはようございます、藍華さん」
「おはようございます、剣崎さん」
「藍華お姉さん!おはよー!」
真希達は藍華に笑顔で挨拶をする。夜見は相変わらず無表情だが
「おはよう!紫様は?」
「祭殿の中で珠鎮めのお務め中ですわ」
珠鎮めはノロが結合し荒魂となるのを防ぐ為に鎮めることである。
ノロは負の神性を帯びており消滅させることは不可能である。そこでノロは古来から小分けにされ、各地の社に奉納され鎮められてきた。
ノロの大半は折神家が請け負っており、それを沈めるのも折神紫の務めである。
「真希さん達は祭殿の中に入ったことあるの?」
「いいや。そもそも祭殿には紫様以外の人間は立ち入ってはならないんだ」
「へぇ〜……ちょっとだけ見てきちゃダメ?」
「藍華さんが私たちに拘束されて良いのなら」
「嘘です、ごめんなさい」
険しい表情で寿々花がそう言うと、藍華は即座に謝罪した。
「あっ!そうだ!みんなにプレゼントがあって!」
「新しい名刺でも出来たの?」
「ちがうよー。ジャジャーン!」
古臭い効果音を声高らかに口にすると、ポケットから昨夜作ったイチゴ大福ネコのキーホルダーを取り出した。
「おー!イチゴ大福ネコ!その髪……ひょっとして私!?」
「これの三つ編みがあるのが僕か。上手く出来ているな……」
「赤毛の子が私ですか。フフッ、可愛らしいですわね」
「白と黒の髪は私ですか」
「うん!それでこの子は私!親衛隊がイチゴ大福ネコになっちゃった!」
喜んでくれるか不安だったが杞憂だったようだ。真希達は自分達を模したイチゴ大福ネコに興味津々の様子だ。真希達は微笑みながらイチゴ大福ネコを眺めている
「ありがとう藍華お姉さん!大切にするね!」
「ありがとう藍華。大切にさせてもらうよ」
「ええ。私も大切にさせていただきますわ」
「ありがたく頂戴致します」
「どういたしまして。みんなが喜んでくれて私も嬉しい!」
藍華は4人が喜んで受け取ってくれたことに感激し、溢れんばかりの笑顔とサムズアップを見せた。
「見て見て!私のイチゴ大福ネコに友達が出来たよー!」
「おー!仲良しだね!」
結芽は藍華から受け取ったイチゴ大福ネコをニッカリ青江の鞘に取り付ける。既に付けてあったキーホルダーと並び、まるで頰を合わせて戯れあっているように見える
「皆様、紫様がお戻りになられましたわよ」
珠鎮めを終えた装束姿の紫が階段をゆっくりと下っており、その姿は威厳に満ち溢れている。
真希達は紫を出迎える為に横一列に並ぶと、深々とお辞儀をする。
「珠鎮めお疲れ様でした。本日の大会は決勝のみ紫様にご上覧いただきます。僕と寿々花と結芽、藍華は会場の警備。夜見は紫様の護衛につきます」
「いよいよ御前試合!どんな人達の戦えるんだろ!楽しみだよー!」
「折神紫……貴様は……私が必ず!」
「初の大仕事!無事に済ませたら千里先生も安心するはず!」
御前試合に心を躍らせる美濃関学園の刀使
母の無念を晴らす為に御前試合に挑む平城学館の刀使
恩師に胸を撫で下ろしてもらう為に務めに張り切る親衛隊第五席
3人が交差する時、物語は動き出す