刀使ノ巫女 笑顔の守り人   作:桜庭カイナ

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第十話

御前試合当日。以前、藍華と真希が試合を行なった練武場の客席は五箇伝の生徒たちやTV局のクルー達で埋め尽くされていた。

それぞれの学園代表の刀使を応援する応援幕が客席から垂れ下がり、ダックアウトには選抜メンバーである刀使たちが待機している

素振りをする刀使もいれば、目を閉じて瞑想している刀使もいた。

 

「うわぉ……みんな強そう…」

 

藍華は真希と寿々花と共に北側の客席で練武場内の様子を見ていた

 

「今年の出場者は中等部の年少者が多いみたいですわね」

「御刀との相性は年少時の方が高いともいうし、次世代になったのさ」

「前世代は大会二連覇の獅童さんが終わらせたとでも?」

「僕はそれほど自惚れじゃないよ」

 

そう言い放つと、後ろで退屈そうに藍華から貰ったイチゴ大福ネコを眺めている結芽に目をやる。

 

真希は自身より高みにいる結芽に少しでも近づこうとしていた。自惚れず高みを目指す。その心構えがあって彼女は大会二連覇を成し遂げ、最初の親衛隊となれたのだ

 

「むしろ結芽を見て、そう感じるのさ」

「真希さん、カッコいいです」

「そんなことはないさ。僕はただ……」

「謙遜しないでください。前も言いましたが、驕らずに高みを目指すのはカッコいいです!私は結芽ちゃんや真希さん達より弱いけど、真希さんが強くなるために協力します!」

「藍華……ありがとう……。(彼女もまた……僕が目指すべき刀使の一人なのかもな……)」

 

真希は真っ直ぐな心と誰にでも手を差し伸べる優しさを併せ持つ藍華を見て、彼女のように皆を照らす光を持てないかと考えた。

 

「あら?流石は真希さん。おモテになりますわね?」

「す、寿々花?いきなりどうしたんだい?」

「いいえ、お気になさらずに」

 

つまらなさそうにそう言うとそっぽを向く。なぜ寿々花が不機嫌になったのかは真希には恐らく気づかないだろう。

 

「藍華お姉さーん。お客さんだよー」

「え?」

 

背後から結芽の声が聞こえてそちらに向くと、千里がひらひらと笑顔で手を振っていた。グレーニットに膝までの長さがあるグレーのスカート姿で、左胸には刀使以外の観客が身に付ける入館許可証を付けていた。

 

「千里先生ー!」

 

藍華は笑顔で千里に走り寄ると千里に抱きついた。千里は抱きしめ返し、藍華の頭を優しく撫でる。

 

「来てくれたんだね!」

「もちろんよー。親衛隊服、すっごく似合ってるわぁ」

「えへへ……」

「(いいな……私もママとパパに……)」

 

千里の照れくさい言葉に藍華は頬を赤らめながら微笑む隣で、結芽は少し悲しそうな表情を浮かべる。

実の母と子のような関係を見て、彼女はぼんやりと頭の中でそんな仮定を考えていた。

 

結芽はまだまだ両親の愛情を注がれる年齢だ。藍華と千里の親子のような関係性を目の当たりにした彼女は、目を背けたくなる両親との関係性を嫌でも思い出させられる。

 

「結芽ちゃん?」

「ん……なんでもないよ。えっと……榊先生だよね?初めまして」

「初めまして。藍華がお世話になっております」

「いえ、藍華にはいつも助けられています」

 

結芽達が千里に挨拶と会釈をすると、千里は挨拶と会釈を返した。

真希達は千里とは初対面だが、あおぞらの存在は知っていた。折神家に所属する刀使の中にはあおぞら出身の者が何名かおり、彼女達からあおぞらの事は聞いていたのだった。

 

「あら?それ、藍華ちゃんが作ったイチゴ大福ネコね?貰ってくれてありがとう」

 

千里は結芽の先程弄っていたイチゴ大福ネコに気づき、彼女に感謝の言葉を述べた。

 

「う…うん」

 

結芽は藍華の母同然の存在である千里に、どう接すれば良いかわからず生返事を返す。

 

『これより第一回戦を開始します』

「あら、じゃあ私は客席に戻るわね?」

「えー、千里先生も一緒に見ようよー」

「藍華。僕たちが試合を観戦するこの客席は、本来親衛隊以外の人は入れないんだ。あまり、長居するのも周りからよろしくないだろうしね」

「うー……」

 

まるで我儘を言う結芽のように頬を膨らませる藍華を見て、千里はふふっと笑うと彼女の頭を撫でた。

 

「大丈夫よ。お仕事が終わったら、たくさんお話ししましょうね?」

「……うん。じゃあ、後でね!」

 

千里は連絡通路に繋がる扉から客席へと戻った。

藍華は真希と寿々花と共に試合観戦に戻ろうとするが、結芽は再び壁にもたれかかりイチゴ大福ネコを弄り始めた。

 

「結芽ちゃんは見ないの?試合」

「うん……どうせ私より弱いんだし」

「ふーん……じゃあ、私いくね?」

 

藍華は真希達の元へ戻ると、平城学館と綾小路武芸学舎の刀使の試合が始まろうとしていた。

 

『平城学館、十条姫和!綾小路武芸学舎、山崎穂積!前へ!』

「私と藍華さんの後輩と真希さんの後輩との一戦ですわね」

 

審判の合図と共に双方の刀使は礼をし、御刀を抜き正眼構えをとり写シを張る。

 

「始め!」

 

試合開始の合図とほぼ同時に、姫和迅移を使い穂積の懐へ飛び込み胴に目掛けて一閃を放つ。

迅移は波の刀使のものよりも遥かに速く、その一閃は反応が遅れた綾小路の刀使の胴を切り裂き写シを剥がさせ、地に伏せさせた。

 

「うぇ!?今の見えました!?」

「ええ……あの迅移……ここまで勝ち残っただけはありますわね」

「ああ。あの速さでは相手が反応できなかったのは無理もないな」

 

狼狽る藍華とは反対に、冷静に姫和の実力に感心していた。

その後も試合は続き、出場者達は譲れぬ想いを胸に手に汗握る戦いを繰り広げた。

そして準決勝が終わり、決勝まで勝ち進んだ刀使は美濃関女学院の衛藤可奈美と平城学館の十条姫和の二名となった。

 

 

 

決勝は午後に行われるため、昼休憩を挟むことになっていた。

会場近くにある公園や広場では試合観戦に来た刀使達がレジャーシートを広げて昼食を楽しんでいた。

大会出場者と観戦に来た刀使達には豪華な弁当が配られ、刀使達は舌鼓を打っていた。

 

そこにはクラスメイト達と昼食をとっている可奈美と舞依の姿もあった

 

「美味しい!何個でも食べられちゃう!」

「たくさん食べて。午後から決勝が待ってるんだから」

「ほひほひー」

 

舞依は弁当にがっついている可奈美に茶が入ったカップを渡す。

 

「可奈美ー、がっつきすぎだってばー」

「だって美味しんだもん……あれ?」

 

膝下に何かがぶつかる感触がし、膝下に目をやるとサランラップで包まれたおむすびがあった。可奈美はそれを拾い上げる

 

「おむすび?」

「あーごめん!それ私のなんだ」

「貴女は……親衛隊の方ですか?」

「はぁ……はぁ……は、はい!私、こういう者です!」

 

息を切らして可奈美達の元へ駆け寄ってきた藍華に、舞依はそう問うと藍華は笑顔で挨拶すると舞依達へ名刺を渡した。

 

「みんなの笑顔を守ります。親衛隊第五席……剣崎藍華……さん?」

「はい!」

「親衛隊の人なんですね!流派は!?その御刀はなんて言うんですか!?」

 

舞依とクラスメイトはユニークな名刺を見て苦笑いを浮かべているが、可奈美は目をキラキラさせて藍華に詰め寄った。

数少ないエリートしかなれない折神親衛隊の一人と聞いて、テンションが最高潮まで高まっている様子だった

 

「衛藤さんと柳瀬さんだよね?準決勝みてたよ!二人とも凄かったよ!」

「あ……ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

 

藍華はトレードマークである笑顔とサムズアップを見せて、二人の健闘を称えた。

 

「どうして親衛隊の人がここに?」

「あーや……そのおむすびなんだけどさ……」

 

……………

 

「夜見さんはまだ紫様のとこ?」

「ああ。紫様が決勝戦をご覧になるときには合流できるさ」

 

数分前、藍華は真希達と共に軽く昼食を済ませようと夜見が作り置きしていたおむすびを食べていた。

藍華もおむすびを取り出しサランラップを剥がそうとしたとき、黒い影が目の前に通り過ぎたと同時におむすびが消えたのだ

 

「……あれ?」

「藍華お姉さん、アレ」

 

結芽が空を指差すと、そこにはおむすびをくわえたカラスが飛んでいた

 

「あーー!おむすび泥棒ー!」

「ちょっと藍華さん!?」

 

藍華はその場から飛び出し、おむすび泥棒のカラスを追いかけて行った

 

………………

 

 

「という訳で……」

「へ……へぇ〜……」

親衛隊第五席がおむすび泥棒のカラスを追いかけていたと言うシュールな出来事を聞いた可奈美達は苦笑いを浮かべる他なかった。

 

「じゃあ、はい」

「ありがとう!じゃあ、私は行くね?決勝頑張ってねー!」

「はい!ありがとうございます!」

 

藍華は可奈美からおむすびを受け取ると、真希達の元へと戻って行った。

 

「なんか不思議な人だったね」

「あー……流派と御刀の名前聞きそびれちゃったぁ……。もしからしたら手合わせしてくれたかも」

「可奈美ー……決勝戦あるんだからね?」

 

 

決勝戦が始まる時間となり、会場内の客席は刀使達で埋め尽くされていた。紫が腰掛ける玉座の両隣には親衛隊達が両隣に凛とした表情し佇んでいた

 

「(ついに現れたか……折神紫!)」

「(ついに十条姫和ちゃんと戦える!ワクワクが止まらない!)」

『これより折神家御前試合決勝戦を行います!両者!礼!』

「(衛藤さん……姫和さん……二人とも頑張れ!)」

可奈美と姫和は審判の合図と共に礼をし、御刀を抜き写シを張る

ついに始まる決勝戦に藍華と会場内の刀使達は固唾を飲む

 

『始め!』

 

先に動いたのは姫和だった。

姫和がいた場所には迅移による激しい土煙が巻き上がる。その次の瞬間、藍華の隣で剣戟音が鳴り響き風圧が彼女の髪を靡かせた。

 

「……え?」

 

藍華は一瞬状況が理解できなかった。紫の玉座は切り裂かれ、彼女の手には童子切安綱・大包平が握られていた。

その光景を見て状況を理解した。姫和が紫に斬りかかったのだ

 

「それがお前の《一の太刀》か?」

「チッ!」

 

 

姫和は崩された構えを整えて、再び紫に斬りかかる。

しかし、迅移で姫和の背後に回った真希は彼女の左胸を容赦なく御刀の薄緑で貫き写シを剥がさせた。

意識を飛びそうになる感覚に襲われた姫和はその場で膝をつくと、真希は容赦なく薄緑を彼女に振り下ろす。

 

「真希さん!ダメェ!」

 

藍華は迅移で真希の正面に近づき、微塵丸を抜き真希の薄緑を切り払った。

 

「藍華!?」

 

紫を守る立場にある親衛隊第五席である藍華にトドメの邪魔をされた真希は困惑し、激しい痺れが走った左腕を押さえる。

その隙に可奈美が迅移で姫和の元へ駆けつけ、姫和の手を掴んだ

 

「迅移!」

「クッ!」

 

可奈美がそう叫ぶと、2人は迅移でその場を脱し正門を飛び越え会場外へと逃げ去った。

 

「なにがどうなってんの!?」

「なんで可奈美が!?」

 

会場内はパニックに陥り、警備員達は可奈美達の追撃班の手配を要請していた。

 

「(衛藤さん……なんで……)」

 

決勝戦で起こった折神紫暗殺未遂事件。藍華は胸騒ぎが止まらなかった。

紫様が目の前で狙われたこと。知り合って間もないとはいえ、可奈美が紫を暗殺しようとした姫和を助けたこと。

そして……あの時真希は……写シの無い姫和を容赦なく斬ろうとしたことに

 

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