刀使ノ巫女 笑顔の守り人   作:桜庭カイナ

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第三話

朝日が顔を出し空が明るくなり始める早朝。折神家に所属する刀使達が暮らす寮の前にある広場にて、青いジャージ姿の藍華は早朝のトレーニングをしていた。

 

「ふっ!やぁ!だぁ!」

 

写シを纏いながら微塵丸を振るい重い斬撃を繰り出し、大太刀が風を切る重々しい音が鳴る。藍華は微塵丸の重量と彼女の細い腕とは不釣り合いな怪力が合わさった重い斬撃と真希との手合わせで披露した身体の一部のみの金剛身発動による正確な防御能力を併せ持つ。

 

朝日が広場を照らし始めたとき、写シを解除して藍華は額の汗を手の甲で拭い微塵丸を鞘に納めた。

 

「藍華おねーさん!」

 

火照った身体に心地よい朝風を浴びていると背後から結芽の声が聞こえる。

 

「結芽ちゃん。おはよ…」

「あーそーぼ!」

 

背後を振り返ると、写シを纏った結芽が無邪気でどこか恐怖を感じさせる笑顔を見せながら、ニッカリ青江の切先を藍華の左胸に突き刺そうと迅移で距離を詰めてきた。

 

「ええええっ!?」

 

反射的に藍華は写シを発動し、金剛身を発動させた左拳で切先を受け止めると、続けて連続で繰り出された突きを再び抜いた微塵丸で防ぎ続ける。

 

「硬いねぇ?でも攻められないなら意味ないよ?」

「ちょっと結芽ちゃん!私、何か悪いことした!?」

「別に何も無いよ?ただ、藍華お姉さんと闘いたいだけだよ!」

 

結芽は藍華に休む暇を与えず、猛攻をかける。

結芽の剣は真希のとは違い受け止めた際に重みを感じないが、それを大きく補う俊敏さと攻撃の正確さを併せ持っていた。一撃を凌いでも即座に迅移で側面や背後に回り、神速の斬撃を繰り出してくる。

金剛身を用いた自慢の防御策も攻撃タイミングをずらして、金剛身が解除される瞬間に斬りかかってくる結芽に藍華はジリ貧となり写シが少しずつ剥がされていく。

 

「そろそろ決めるね!」

 

結芽は通常の迅移を上回る速さを誇る二段迅移を発動させ、藍華の懐に飛び込んだ。

ニッカリ青江に左胸を貫かれた藍華は、鋭い痛みに意識を奪われかけるが歯を食いしばる

 

「痛くない!」

 

藍華はそう叫ぶと、右腕を結芽の腰に回し抱き寄せると、左胸に突き刺さったニッカリ青江を左手で掴み強引に引き抜く。その後左腕も結芽の腰に回した。

 

「えっ!なになに!?」

「結芽ちゃん!いきなり斬りかかるなんて危ないよ!」

 

まるで悪戯をした子供を叱るように藍華は結芽にそう言った。結芽は困惑し、なんとか離れようとするが自身の身体と両腕をしっかり固定されており身動き出来ない。

 

「だってー!私ずっと留守番ばかりだもん!真希お姉さん達が任務に出てる時もだし……身体が鈍っちゃうよ!」

「え?結芽ちゃん留守番ばかりなの?」

「……うん。私が出ればすぐに終わらせられるのに」

 

結芽は藍華の顔を見上げながら、不満そうに口を尖らせる。

そのとき藍華は疑問を抱いた。

先程の僅かな時間の攻防を見ただけでも、結芽は真希以上の実力を持っていることが分かった。

確かに、結芽が出れば荒魂など容易く斬り捨ててくれるに違いない。しかし、彼女の口ぶりからしてロクに任務に出撃できていないのだろう。

 

「そっか……。じゃあ、今度手合わせする?」

「え!?ほんと!?」

「うん。だから、もう不意打ちしないって約束して?」

「分かった!約束だよ!」

 

さっきの表情とは打って変わり溢れんばかりの笑顔になった結芽に、藍華も笑顔を返す。

 

「藍華お姉さん……そろそろ離してくれない?ちょっと苦しいし……」

「あ……ごめんね!」

 

結芽は藍華に抱き寄せられているたままで、彼女の幼い顔立ちに不釣り合いな豊満な胸に顔を埋めている状態だ。このことに気づいた藍華は直ぐに結芽を離して、写シを解除する。

 

「そういえば、藍華お姉さんはもう朝ごはん食べちゃった?」

「ううん。いつも朝の稽古の後に食べてるから」

「じゃあ着替えたら一緒に食べに行こうよ。夜見お姉さんが藍華お姉さんの為におむすび作ってくれてるから」

「え?夜見さんが?」

 

藍華は意外そうな顔をしながら、そう言った。

藍華は配属初日は敷地内を案内してもらう為に、夜見と半日以上一緒にいた。移動中に雑談でもしようと藍華から話を振ったりしていたが、夜見は終始素っ気無い様子だった。「はい」や「いいえ」以外の言葉を彼女から聞いた記憶がないぐらいに。

そんな彼女は自分の為におむすびを作ってくれているとは嬉しいのは勿論、意外にも思っていた。

 

「うん。だから早く早く!」

「分かった!すぐに着替えてくるね!」

 

 

藍華が駆け足で自室に戻って数分後、藍華は親衛隊に支給される制服姿で戻ってきた。制服の下に着ている白いシャツの長袖の部分は肘までまくり、下は膝上よりも少し短い紺色のスカートに黒いスパッツを穿いていた。

首元に青色のバイクゴーグルを下げ、微塵丸を帯刀用器具に固定させ背負っていた。

 

「どう?似合うかな?」

「うん。結構様になってるじゃん」

 

初めて見せる親衛隊服姿を褒めてくれた結芽に、藍華はいつもの笑顔とサムズアップを見せる。その後、結芽と夜見が待っている場所へと向かった。

 

 

 

「おはようございます。結芽さん。藍華さん」

 

しばらく敷地内を歩くと別の広場に着き、そこにはおむすびを握る夜見がいた。簡易テーブルに置かれた大皿に数十人分はあるであろうおむすびの山と、香ばしい炊き立ての米の匂いを吐き出す純銅の釜が二つ置かれていた。

 

「おはよう、夜見さん!わお!おむすびの山!」

「おはよう……前見た光景と同じだぁ……」

「前見た光景?」

「去年、燕さんが配属された日に同じように、歓迎会用におむすびをたくさん作りましたので」

「最初は歓迎会だって分からなかったけどね〜」

 

おむすびの山に目を輝かせている藍華とは相対的に、結芽は苦笑いを浮かべていた

 

「じゃあ、今回は……」

「はい。剣崎さんの歓迎会です。どうぞ召し上がってください」

「ありがとう!いただきます!」

 

藍華は手を合わせると、直ぐにおむすびに手を伸ばした。一口食べると、米の甘味とちょうど良い塩味が口の中に広がる。具は入っていないが、そんなことは気にならないぐらい美味で腹も心も満たされた気分になった。

 

「美味しい!どうやったら、こんなに美味しく作れるの!?」

「お釜で炊いた炊き立てのお米で作っただけです。炊き立てのお米で作ったおむすびこそ、最高のお持てなしなのです」

「へぇ〜。夜見さん、ありがとう!幾らでも食べれちゃうよ!」

「喜んでいただけて光栄です」

 

口元にご飯粒を付けながらの笑顔とサムズアップを夜見に見せると、おむすびを次々と平らげていく。

 

「藍華お姉さん……。少し喜び過ぎじゃない?」

「そうかな?私の為に作ってくれたおむすびだよ?すっごく嬉しいよ!」

「まだまだたくさん作りますから、たくさん召し上がってください」

「そんなに食べられないよ……って!もうお皿にあった分が無い!?」

 

さっきまで大皿にあったおむすびの山が姿を消していたことに気づき、結芽は驚きの声を上げた。どうやら全て藍華の胃袋に入ってしまったようだ。

 

「あ!ごめん!夜見さーん!追加で!」

「はい。お任せください」

「(夜見さん……か。なんだか仲良くなれそう!)」

「(藍華さん……。彼女とは良好な関係を築けそうです)」

 

藍華と夜見は互いに仲良くなれそうな予感を感じながら、それぞれおむすびを食べて続け、おむすびを作り続けた

 

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