前世の僕は凡夫な人間だった。
天賦の才能なんてない。
運動神経、テストの点数、容姿、振る舞い……そのどれをとっても特に何の取り柄もない平均程度の普通な存在だった。
覚えているかぎり、勇気を出して特別なことをしたのも人生で二回だけ。
一回目は、小学生の時。
特撮のヒーローに憧れて、いじめられていた子を助けるためにクラスのいじめっ子のDQNに挑んだ時だ。
結果、DQN集団にボコられて、いじめられていた子の代わりに僕がいじめられるようになった。
日朝に出てくるヒーローと違って僕は弱かった。
心意気だけでDQN軍団の数の暴力には勝てなかった。
それからは、勇気ある特別な行動などできるはずもなく、進学してクラスでイジメが起きた時には、巻き込まれないように愛想笑いを浮かべて見て見ぬふりをしていた。
例え、帰り道で名も知らぬ誰かがDQN達に囲まれているのを目にしても、関わらないように無視を決め込んだ。
人一人助けられない、いや、そもそも助けに動かない、そして特に何も成せない存在——まさに凡夫という言葉を体現するような存在になった。
そして二回目。
あの瞬間——最期の時だけ僕も頑張っていた。
記憶の底から唐突に蘇る、前世の最期の光景。
僕は、咄嗟に不審者から誰かを庇おうとしていた。
庇っていたのは、小柄な少女だった。
制服を着たその子が誰なのか。
なぜ僕が彼女を庇おうとしたのか。
残念ながらそれはまだ思い出せない。
友達だったのか、それともただ通りすがりの他人だったのか。
あるいはそれ以上の関係だったのか——そんなことさえ分からない。
でも、確かに僕は彼女のことを庇おうとしていた。
体を動かしていた。
刃物を持った不審者が彼女に襲いかかる瞬間、反射的に僕は彼女の前に飛び出していた。
———けど、それも無駄だった。
僕はあっさりと不審者が握っていた刃物に刺されてしまった。
そして、僕の身体から鮮血と共に引き抜かれたその刃は、そのまま僕が守ろうとした少女の胸にも容赦なく突き刺さった。
結局、守ることはできなかった。
僕の最期の勇気も、行動も、ただカッコつけただけの無駄死にで終わった。
———ほんの一握りの勇気じゃ足りない。
弱かった。力がなかった。ただそれだけのことだ。
身体を鍛えていたわけでもない。
武術を鍛えていたわけでもない。
生まれながらの天賦の才もない。
ただの凡夫だった僕には、人助けなんて特別なことできるはずがなかった。
だから、死ぬ間際に思ったんだ。
———今度こそ……誰かを助けられる存在になりたい。
もしも生まれ変わるなら……どんな困難からも、どんな悲劇からも。手を伸ばせば助けることができる存在に。
前世の自分のように何もできない無力で凡夫な存在ではなく、誰かの命を救える——そんな力を持つ勇気ある特別な存在になりたいと思った。
こうして僕の人生は、最期まで何もできない凡夫のまま終わった。
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目が覚めたら、赤ん坊になっていた。
周囲を探ろうと視線を動かしていると、ふとこちらを覗き込む誰かと目が合った。
長い
凄い美人さんだ。
圧倒されるほどの美しさに思わず息を呑む。
そして、彼女の耳が視界に入った。少し長く尖ったその耳を見た瞬間、僕の中である確信が芽生えた。
エルフだ。
どこかで見覚えがある姿。漫画やラノベの表紙で何度も目にしたあのエルフの姿。目の前にいる美人さんは、まさにその「エルフ」に違いなかった。
すると、エルフの美人さんが優しく微笑むと、柔らかな声で何かを話し始めた。
日本語ではなかった。学校で習った英語や、かっこいいから少し知っているドイツ語の響きとも違った。
ここまでくると、流石に僕も察した。
あ、これ、異世界転生ってやつだ。
神様に会った記憶はない。
でも、偶然か必然か——僕は間違いなく違う世界で新たな生を受けていた。
その後暫く赤ん坊を続けて、いくつかわかったことがあった。
まず、家族について。
エルフ耳の母親と筋肉が凄い男——推定父親、そして、たぶん僕より年上のエルフ耳の女の子の赤ん坊がいた。
どうやら母、父、姉、僕の四人家族らしい。そして、父は筋肉以外は普通だったのでたぶん人間。母と姉はエルフだ。
次に住んでいる場所。
たぶんド田舎だ。
窓から見た景色からは、石造りの家が点々と佇んでいるのどかな田園風景が見えた。
近代文明の産物は全く確認できなかった。
ただ、村人らしき人の姿は確認できた。
そしてケモミミの村人がいた。
神に感謝した。
こうして、僕の新たな人生が始まった。
正直、驚きや戸惑いもあった。
でも、前世の凡庸な人生、最後まで凡夫だった
それを思い出したとき、心の中に一つの決意が生まれた。
せっかくの二度目の人生。
目指してみるか、凡夫からの脱却。
前世の
これをこの世界で生きる指針にした。
せっかく異世界に転生したのに、前世の
だから、この世界では凡夫な存在にならないように頑張ろうと思った。
前世の存在する価値のなかった
そのためにまずは、この世界の言葉を覚えることから頑張ることにした。
何も理解できない状態では始まらないから。
そして、言葉を覚えたら、真っ先に聞きたいことがあった。
———この世界には、魔法のような特別な力はありますか?と。
異世界といえば魔法だ。
紛れもない特別な力。使えたら凡夫ではなくなれる気がする。
なければ異世界なんて前世の歴史で学んだ衛生環境とか、倫理観とか、他にも色々ヤバい中世の欧州のような世界でしかない。
ないなら、自衛のために全力で筋肉を鍛えないと。
現実でも創作世界でも、強者は殆どが筋肉を持っている。
かつての僕には筋肉がなかった。
だから蹂躙される側の惰弱な凡夫になった。
やはり、自己防衛のためには筋肉が必要不可欠だ。
筋肉さえあれば、ある程度の自衛はできる。そう、最悪魔法がなくても筋肉は裏切らない。
でも、もしも、魔法がある異世界なら、筋肉も鍛えつつ魔法を極めようと思う。
魔法は浪漫。
使えたらかっこいい。使えるだけで凡夫じゃない気がする。
そして、魔法があるなら、魔法極めて最強を目指す。
半端な目標はダメだ。目指すものが半端だと、前世の僕みたいに何もかも半端な凡夫になる。
半端な生き方はもう沢山だ。
今度は強者として生き、勝ち組の人生を送ってみたい。
その姿や生き様がまるで物語の主人公のようだった、前世のトップアスリートやスターたちのような世界に選ばれた側、世界に振り向かせた側の特別な人たちのように。
凡夫だった僕がテレビでしか見たことがなかった"向こう側"の人たちと同じような人生を経験してみたい。
だから、僕もこの異世界で
異世界で特別な存在といえば、やはり勇者とか、大陸最強とか、そんな威名が轟く存在だ。
それに僕はなる。
そして
力も、富も、名声も、権力もない凡夫が助けられない人たちを、凡夫じゃなくなった僕が必ず助けるんだ。
これが、僕の異世界での凡夫じゃない人生計画だ。
そして、もう絶対に凡夫には戻らない。絶対にだ。
などと考えていた僕は、異世界ですぐにわからされた。
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