異世界凡夫(一人称視点ver)   作:六畳仙人(ハーメルン)

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凡夫、絶望する

 

 

 

 

 人を助けることは簡単なことじゃない。

 

 人を助けるためには力が必要だ。

 刃物を持った不審者から人を助けたいなら、不審者を制圧できるぐらいの力が必要になる。

 

 魔法で空から隕石降らせてくる人類の敵から人を助けたいなら、隕石をどうにかして、その敵を倒せるだけの力が必要になる。

 

 だから、凡夫な人間には人助けなんてできない。

 そんな誰かを助けられる力なんて持っていないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生して、一歳ではいはいを卒業して立てるようになってから、僕は毎日前世の漫画やアニメ知識を参考にした鍛錬を始めた。

 

 最初は、基礎を作るところから。

 

 腹筋、背筋、腕立て、スクワット、ランニングの基礎的な運動から始めた。

 

 身体を壊さないように注意しつつ、少しずつ体への負荷を増やしていった。

 

 そして、いずれも百回できるようになってからは毎日それぞれ百回ずつ行い、最低限の筋肉を身に付けた。それからは、感〇の正拳突きとかも始めた。

 

 おかげで身長160センチの引き締まった身体。

 

 金髪紅瞳の見た目だけはいい人間の子供になった。

 

 まあ、見た目の良し悪しはどうでもいい。

 

 優先すべきは強さや強さ。

 

 無論、魔法の鍛錬にも時間を費やした。

 

 この世界には魔法があった。

 

 この世界の言葉を頑張って覚えて、早速エルフの美人さんこと母さんに聞いて教えてもらった。

 

 言葉は一年で覚えた。

 赤ん坊の脳みそは本当に凄い。

 

 前世の僕は、分厚い英語の単語帳を何度も暗唱しても小テストで平均点以下だった。

 

 それが嘘みたいなスピードで言葉を覚えてしまった。

 

 最初は自分の名前から覚えた。アメジアって名前だった。

 

 次に家族の名前。

 

 母親の名前はレダ。

 

 父親の名前はキュクヌス。

 

 姉の名前はオリヴィア。

 

 住んでる村の名前はアルヒ村……そんな感じで覚えた単語を増やしていったら喋れるようになった。

 

 さて、本題。

 魔力についてだ。

 

 母さんは、僕が言葉を喋ったことに喜びながら色々と教えてくれた。

 

 まず、魔力はこの世界中に満ちているエネルギーで、人々は呼吸を通じて魔力を体内に取り込むことで、あるいは『炉心(デウステラ・ハート)』という名の魔力生成器官で魔力を生み出して運用しているらしい。

 

 この魔力を体内で循環させることで、身体を強化したり魔法を行使することができるのだそうだ。

 

 さらに、この世界では「扱える魔力量」が強さの指標となるという。

 

 魔力は使えば使うほど扱える量が増えていくため、強くなるにはひたすら魔法を使い続けるのが一番の近道らしい。

 

 次に魔法の発動方法についても教えてくれた。

 

 魔法を発動させるには、「発動させたい現象の明確なイメージ」と、それを実現させるための「適切な量の魔力」を結びつけることが必要だという。

 

 簡単に言えば、イメージと魔力のバランスが取れれば魔法が成功するというわけだ。

 

 そして、今世の僕には魔法の才能があった。

 

 魔法は想像力が大事らしい。

 魔力の方は使えば増える。

 けれど、想像力に関してはどうしても個人差が出てしまう。

 

 その点僕は完璧だった。

 

 前世の漫画やアニメの知識が魔法のイメージを補完してくれる。

 

 おまけに前世で凡夫だった頃、一人暇な時間にもしも僕が凡夫じゃない超人だったら~みたいなくだらない妄想をよくしていたおかげで、無駄に想像力豊かだった。

 

 だから、魔力さえ感じ取ってしまえば、あっという間に魔法の練度は上達した。

 

 炎を操ったり、雷降らせたり、自由にできるようになった。

 

 素質あるからと、母さんから特別な魔法も教えてもらった。

 

 この世界、人間以外にも種族がいる。

 

 エルフとか、ドワーフとかを総称して亜人族(ネフィリム)と呼ばれている種族だ。

 

 そして、亜人族はそれぞれ固有の魔法を持っている。

 

 母さんも、半分エルフの血を引いているから、エルフの固有魔法——術式魔法という凄い魔法を使えた。

 

 それを、僕は教えてもらって習得することができた。

 

 おかげで重力操ったり、凄い切れ味の魔力の光剣も作れるようにもなった。

 

 ここまでは全部順風満帆だった。

 

 順調に成長できていた。

 

 「騎士(パラディン)」とかいう異世界職業に就いている父さんから、剣術や戦い方とかも教わった。

 

 美人なハーフエルフの母さんから魔法も沢山習えた。

 

 天才だけどポンコツなところもあるクオーターエルフの姉のオリヴィアと、幼い頃から魔法勝負や模擬戦をいっぱいやって仲良く魔法の腕を磨いた。

 

 僕は恵まれていた。

 

 才能も、環境も。

 

 だからだろう。

 

 いつの間にか錯覚していた。

 

 もう、凡夫な存在じゃない(向こう側に行った)

 

 この世界に選ばれた主人公は僕だ。

 

 ちょっと魔法が使えるようになっただけで、そんなアホな思考に囚われていた。

 

 そう、あの日までは。

 

 

 

 

 

 

 

 それは、この世界に転生してから十三年目のことだった。

 

 その日も、僕はいつものように家の庭で重力負荷付き感〇の正拳突きをやっていた。

 

 重力操作で身体に負荷をかけながら、転生できたことに感謝し、超高負荷状態で正拳突きを繰り返すことによって魔力による身体強化と純粋な筋肉の力を高める修行だ。

 

 同じ頃、母さんも近くの畑で農作業に勤しんでいた。

 

 父さんは、仕事で不在。

 

 姉さんは、聖都の学園に通っていて留守。

 

 その日、村にいたのは僕と母さんだけだった。

 

 空も青一色の快晴。

 

 今日も特に何もない、異世界のド田舎の村の平穏な日常が続くと思っていた。

 

 

 

 

 

 空から星が落ちてくるまでは。

 

 

 

 

 

 僕が転生した世界は、結構物騒な世界だった。

 

 魔法によって法則や概念は歪む。

 

 亜人族という人間以上の知性や力を持った種族もいる。

 

 そして何より、人間を目の敵にしている人類の脅威となる種族がいた。

 

 名は魔人族(グリゴリアス)

 

 魔神パンゲアという恐ろしい存在に生み出された種族らしい。

 

 そして、恐ろしいほど強靭な肉体と、膨大な魔力を持つ種族だそうだ。

 

 大昔から人間、亜人族と戦争をしているこの種族に数多の人間が殺されたらしい。

 

 どこまでが本当のことかわかんないけど、父さんや母さんから聞いた話から、実際に魔人族という種族がいて、恐ろしい種族だというのは確かだ。

 

 話を戻そう。

 

 そこで、今から三千年ほど昔。

 魔人族の脅威に晒された人間と一部の亜人族は、魔人族に襲われなくて済む場所を求めた。

 

 人々は神様に頼んだ。乞い、願った。

 

 そして、神様はその願いに応えた。

 

 太陽神レムリアと女神アトラという名のこの世界の二柱の神が、魔神を封印し、この世界唯一の大陸の三分の一を占める領域を外界と隔絶する結界で覆い楽園を築いた。

 

 それが、今僕たち人間や亜人族の一部が暮らしている人類圏と呼ばれている場所だ。

 

 現在、人類圏内は僕が住んでいる村がある国。

 人類圏の西側を統治しているアルゴス聖教国と東側を統治しているレムリア帝国に分かれている。

 

 ただ、二国は戦争などはしていない。

 

 千年ほど前から、人類圏内で戦争は一度も起きていないそうだ。

 

 だから、人類圏内にいれば平和を享受できる。

 

 争いにも巻き込まれないし、人類圏外で猛威を振るっている魔人族にも襲われない。

 

 そう聞いていた。

 

 

 

 けれど、僕の村は襲われた。

 

 魔人族という人類の敵に。

 

「アメッ!!————」

 

 つい先程まで近くの畑で穏やかな笑みを浮かべていた母さんが、突然何かを察し、青ざめた顔で何事かを喚きながら、僕を押し倒して身体ごと覆いかぶさってきた。

 

 瞬間、突如として村全体が巨大な影に覆われた。

 

 同時にまるで、世界が震えているような、全てが押しつぶされるような、そんな恐ろしい感覚に包まれた。

 

 そして、網膜を焼くほどの光に世界が包まれて、一拍遅れて凄まじい轟音と衝撃波が襲いかかった。

 

 その破壊をもたらしたものを、一瞬だけ目にすることができた。

 

 空からこの村目がけて降ってきた、莫大な質量と灼熱を纏った隕石。

 

 それが、なんの前兆もなく空に出現し、この村へと降り注いだのだ。

 

 やがて、衝撃が収まった。

 

 母さんが咄嗟に覆いかぶさって守ってくれたおかげか、僕は無事だった。

 

 ただ、おそらくかなりの量の魔力を消費する魔法をつかったのだろう。

 

 覆いかぶさる母さんは、力なくぐったりとしていた。

 

 それにしても、一体何が起きたのだろう?

 

 詳しく状況を探るために、僕は覆いかぶさる母さんの腕からどうにか這い出した。

 

 そして、見てしまった。

 

「そん……な」

 

 見渡す限り、つい先ほどまであった村の景色がどこにもなかった。

 

 生命の痕跡など何処にもない。

 

 かつて村があった場所には、変わり果てた惨劇の跡地と思しき光景が無惨に広がっていた。

 

 村人の命も、生まれ育った家も、思い出の場所も……何一つとして残っていなかった。

 

「逃げて……アメ……」

 

 目に映った光景に衝撃を受けて呆然としていると、母さんの声が聞こえた。

 

 どうやら、意識を取り戻したようだ。

 

 ほっとして、僕は声がした母さんの方へと振り向いた。

 

「母さん!?」

 

 這い出た時には気づくことができていなかった。

 

 母さんはボロボロだった。

 

 僕を守るために魔法で防ぎきれなかった衝撃と熱を一身に浴びて瀕死の重症を負っていた。

 

 僕は慌てて母さんの手当を試みた。

 

 魔法なら、傷を治すこともできる。

 

 だから———と思った矢先。

 

 瞬間、再び、上空に蓋をするように巨大な星が出現した。

 

 絶望は終わらなかった。

 

 見上げた先にはもう、澄み渡った青空などどこにもない。

 

 天に蓋をするかのように、迫り来る巨大な星の影。

 

 それだけが、僕の視界を埋め尽くした。

 

 その時、僕は何もできなかった。

 

 十三年間の鍛錬で得た魔力も、魔法も、筋肉も……何の役にも立たなかった。

 

 結局、僕は隕石一つ押し返せなかった。

 

 前世と何も変わっていない。

 

 無力で凡夫な存在のままだった。

 

 

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