糸師冴の相棒   作:まっしゅないも

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U-20日本代表戦前2

「はじめまして、居駒真澄選手。サッカージャーナルの弐瓶(にへい)と申します。本日は取材に応じていただきありがとうございます」

 

 弐瓶はホテルのラウンジで姿勢を正した。

 相手はまだ成人していない子供だが、日本サッカー界が誇るトップ選手である。

 

 居駒真澄。

 9歳でサッカーを始め、わずか半年で全国大会に出場し、チームを優勝に導いた“もう1人の天才”。

 同世代で「天才サッカー少年」として名を馳せた糸師冴とは小学校の同級生であり、中学進学と同時にスペインの強豪レ・アール・ジュニアーズへ同期入団した。

 日本の天才デュオが海外、それも同じクラブへ――。

 当時の衝撃を思い出しながら、弐瓶は目の前の青年を改めて見つめる。

 

 彼らはスペインでも圧倒的な存在感を示し、欧州スカウト陣からも熱視線を浴びる活躍を見せている。

 

「どうも」

 

 目の前の居駒は、眠そうな目で質問資料を眺めながら、やや気だるげに挨拶を返した。

 

(不思議な子だな……)

 

 弐瓶はそう感じた。

 

 つい先日、相棒の糸師冴にインタビューした時はまるで正反対だった。

 冴は終始苛立ちを隠しもせず、日本サッカーを見下すような発言を繰り返していた。それに比べて、目の前の居駒はどこかぼんやりしている。

 

 雑談を交え、弐瓶は本題へと入る。

 

「スペインでのサッカー」「日本との違い」「前期の活躍について」

 居駒は丁寧な言葉遣いで、どの質問にも謙虚かつ誠実に答えていく。

 子供らしい素直さと、トップ選手としての落ち着きが共存しているように見えた。

 

「居駒選手にとって、糸師選手とは?」

 

 糸師冴についての質問に差し掛かると、居駒は少しだけ考え込むように顎に手を当てた。

 

「クソサド……」

 

 呟いた言葉に、弐瓶は思わず聞き返しそうになったが、すぐに言葉を切り替える。

 

「やっぱり1番のライバルっすね」

 

 カラッと笑って答えるその表情に、弐瓶もつられて微笑む。

 

(話しやすいし、素直でいい子だ)

 

 最近の若手選手のインタビューでは尖った態度を見せる者も多かったが、居駒は違う。

 これはいい記事が書けそうだ、と弐瓶は期待に胸を膨らませる。

 

“閃光のストライカー”

 

 居駒真澄の代名詞。

 超人的なスピードとポジショニング能力を武器とし、特に糸師冴がMFに転向して以降は、彼の精密なロングフィードを最大限に活かすゴールメーカーとして頭角を現している。

 ユースにおいて、文句なしの日本No.1ストライカーだろう。

 

「こんな選手が日本代表に加わったら、どれほど心強いか……」

 

 ふと、弐瓶の口から日本代表の話題が漏れた。

 

「W杯日本代表の有力候補でもありますが、日本で戦う予定はありますか?」

 

 居駒はあっさりと答えた。

 

「たぶん無理っすね」

 

(……即答か)

 

 ちなみに糸師冴も、「真澄以外のまともなFWがいないから無理」と答えていた。

 さすが若手最強コンビ。容赦のない発言だ。

 

 だが、弐瓶の脳裏に浮かんだのは、日本が進めている絵心甚八率いる『青い監獄(ブルーロック)プロジェクト』だった。あのプロジェクトなら、この舐めきった天才デュオにも劣らぬ才能を育成できるかもしれない。

 

「日本には居駒選手を超えるストライカーが生まれるかもしれません」

 

 弐瓶は意地悪な笑みを浮かべながら、わざと挑発するように言った。

 

「調子に乗ってると足を掬われてしまいますよ?」

 

 居駒の表情が驚きで固まる。

 その反応に満足しつつ、弐瓶は次の質問に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 なんかインタビュー受けたら取材のおじさんに「調子に乗んな(意訳)」って言われたんだけど。 

 

 日本代表なんてレベル高すぎて自分には無理ですって謙遜しただけなのに。冴が日本代表を渋っている以上、冴がいなきゃ足が速いだけのポンコツFWである俺が出場できると思えん。

……もしかして、あのおっちゃん俺に恨みでもあるのか?先週冴にもインタビューしたって言ってたし十分あり得る。冴が喧嘩売って、俺が巻き添えで呼び出されるなんてしょっちゅうだ。

 あーあ。俺もレスバ強くなりたい。

 

 久々の休養日。

 『青い監獄(ブルーロック)』から出所した触覚ギャルこと士道龍聖を引き連れて、冴と共に1週間の練習を超えた俺は、ホテルでぐったりとしながらおじさんから貰ったサッカー雑誌をめくっていた。

 

 非行少年士道くんは長年拘束されていたとは思えないくらいキレッキレで、つい練習に熱が入りすぎてしまったのだ。流石に後輩に負けるわけにはいかないし、横にスパルタコーチ・冴様もいたから手抜きなんてできるはずもなく。

 日本にいる間はパーッと遊びたかったんだけどな……まあ、可愛い後輩ができたのでヨシとする。言葉遣いは少し荒いけど、キラキラした目で「ゴマちん」って呼んでくれるのは嬉しい。

 

 スペインじゃ外国人選手だから、アウェイ感強くてなかなか馴染めなかったし。純粋にリスペクトしてくれる後輩って新鮮だ。

 

 士道くんはサッカーでイっちゃう特殊性癖のせいで友達がいなかったらしい。可愛いもんじゃないか。

 凛なんて幼少期から俺見ながら「全部ぶっ壊して死ぬんだ」とか言ってたぞ。特殊性癖と破壊衝動だったら、俺は特殊性癖を取るね。

 

 そんなことを考えていたら、スマホに通知が来た。士道くんから『脳イキプレイ集』のタイトルで動画リンクが送られてきている。

 

……え、これえっちなやつ?

 ちょっと期待しながらリンクを開いたら、プロチームの選手たちが惚れ惚れするようなスーパーシュートを決めまくるハイライト動画だった。なんだよ。

 

 しかもレ・アールの大先輩、レオナルド・ルナまでいるし。

 あのおっさん、日本人の俺にもめっちゃニコニコ話しかけてくるから嫌いじゃないんだけど、何言ってるかさっぱりわからないんだよな。とりあえず「それな!」で切り抜けてる。いっつも微妙な表情で去ってくんだよ。ごめんな、おっさん。

 

 性癖には共感できないが、コメントで興奮している触覚ギャルに適当な相槌を打ちながら、俺はPCのファイルを探った。

 先輩として、いいものを見せてやろう。

 

真澄『(・ω・)ノシ【FW時代・糸師冴プレイ集】』

 

 レ・アールの練習試合を編集したものだ。撮影者は俺。分析用に頼まれたものである。

 この時は冴が3点決めて客席が沸きまくってたな。レア度は高いぞ。

 

士道『ありがとうございまちゅ!』

 

 めっちゃ喜んでる。フフフ、先輩として当然の事をしたまでよ。

 

士道『これも好き♪【スペインU19リーグ居駒真澄ゴール集】』

 

 前期リーグで俺が決めた32点28試合がダイジェストでまとめてある。

 先輩を立てることも忘れないなんて、本当に良い後輩だ。

 目が合う先輩全員に喧嘩を売る冴くんに士道くんの爪の垢を煎じて飲ませたい。

 

士道『12:55のシュートが超イイ!』

 

 ああ、あれね。

 冴パスからダイレクトシュートが基本形の俺が珍しくソロで決めたやつ。再現性が無いから冴はベンチであからさまに不機嫌になってたけど、確かに見た目はかっこいいかも。

 

真澄『士道くんならできると思うよ!スピードあるし、シュート精度も良いから』

 

 心の底から応援する。士道くんには人殺しの前科があったとしても世界行けるポテンシャルがある、ぜひ頑張ってほしいものだ。

 

士道『これすごく気持ちよかった♡』

 

 うん?

 

士道『冴ちゃんもイイけど、ゴマちんでもイける♡』

 

 即ブロックした。 

 

 

 

 

 

 

 

 『青い監獄(ブルーロック)』、シアタールームにて。

 

 潔世一は、静まり返った部屋でレ・アール・ジュニアーズの試合映像を見つめていた。

 画面には、居駒真澄と糸師冴の高速カウンターの決定的瞬間が映し出される。

 

 糸師冴のパスカット。まるで次の展開を完全に予知していたかのように、すでに居駒真澄はスプリントを開始している。

 ロングフィード。異常なほど正確なロブパスが、相手DFラインの背後に吸い込まれるように落ちる。

 

「速すぎる……」

 

 潔は思わず声を漏らした。

 

 画面の中で、居駒は驚異的なスピードでボールを追いかける。

 いや、「追いかける」などという生易しいものではない。ボールの落下地点を完璧に計算し尽くし、DF陣が反応するよりも速く抜け出しているのだ。

 次の瞬間、ワンタッチでゴールネットを揺らす。

 

 カウンターの完成。圧倒的すぎる一撃だった。

 

 糸師冴の戦術眼とロングパス。

 居駒真澄の爆発的スピードと、迷いの無いワンタッチフィニッシュ。

 

 この2人の連携によって生まれたのが、『日本の双玉』。

 至宝である糸師冴がサポート役に回ったことで完成された、最強の攻撃デュオ。

 

「これ、どう止めるんだよ?」

 

 潔は無意識に拳を握りしめた。

 

 どちらか一方でも脅威だ。

 だが、この二人が並んだ瞬間──個の力と戦術が完全に噛み合い、もはや“戦術”という次元を超越した化け物になる。

 糸師冴の視野がピッチ全体を支配し、居駒真澄は糸師冴の右腕として瞬時に反応し、決定機を創り出す。

 

 潔は深く息を吐き、冷静さを取り戻すように次の映像を再生した。

 今度は、居駒真澄が単独でボールを運んでいるシーン。

 

 画面の中で、居駒真澄は相手ディフェンダーの間を縫うように進んでいく。だが、圧倒的なスピードは、見るからに減速する。

 居駒はキープを諦め、アウトサイドでパスを出した。

 

(いや、違う。これは)

 

 そして、次の瞬間。

 

「っ……!」

 

 糸師冴が鋭いカットインから放ったドライブシュートが、ゴールネットを強襲した。

 

 潔は思わず息を呑む。今の一連の流れ、居駒真澄の突破から糸師冴のシュートに至るまでの全てが、計算され尽くされているように感じた。居駒真澄の突破は糸師冴のゴールを引き出すための布石。だが、単なる囮ではなく、居駒自身もフィニッシャーとして機能する危険性を孕んでいた。

 

(そうか、こいつらは2人で「完成」してるんだ)

 

 居駒真澄の速さとポジショニング、糸師冴の精密すぎるパスと超高精度のシュート。それぞれが互いの能力を最大化させるために動いている。

 

 特に糸師冴のプレーは、ただ技術が高いだけでは説明できないレベルだった。

 

 たとえば、パスひとつ取っても相手の守備網を割る鋭さだけでなく、味方が最も効果的に動けるポイントへ吸い込まれるように供給されている。足元のボールタッチは柔らかく、トラップひとつで一瞬にして攻撃のテンポを変えてしまう。

 

 それだけではない。

 

(まるでフィールド全体を支配しているみたいだ)

 

 糸師冴のドリブルはただ速さや技術で抜くものではなく、相手の動作や重心の微細なズレを見極めてカウンターで突く「受動型」。それなのに、完全に相手の意表を突き、翻弄していた。

 

(これが、『新世代世界11傑』糸師冴)

 

 潔は次第に理解し始める。

 

 糸師冴の動きは合理性の極み。最適解を突き詰め、常に相手の意識を数手先までコントロールしている。

 

 最強の足と最強の頭脳。

 

 明後日の試合で“青い監獄(ブルーロック)”の運命が決まる。

 

 

 

 

 

 




感想・評価・お気に入りありがとうございます。とてもうれしいです。
追記:短編の定義を間違えていたので連載作品に状態を変えました。
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