糸師冴の相棒 作:まっしゅないも
スタジアムの熱気が最高潮に達する中、実況者の声が場内を駆け巡る。大型ビジョンには両チームの選手が次々と映し出され、観客の視線を引きつけていた。
『まずはホーム側、
大型ビジョンには、背番号10、糸師冴の姿。冷たく整った表情と、カリスマ的な存在感が画面越しにも伝わる。日本一有名なユースサッカー選手、
『チームの司令塔にして日本のエース、糸師冴!彼の正確無比なパスとピッチ全体を見通す能力は世界級!凱旋した"日本の至宝"がどんなプレーを見せてくれるのか、目が離せません!』
観客席から大きな歓声が上がり、続いて背番号9の居駒真澄がスクリーンに映る。肩を軽く回し、リラックスした様子の彼は、冴とは対照的な雰囲気を漂わせていた。
『そんな糸師冴と並ぶゴールメーカー!右サイドを任されるのは、スピード特化型フォワード、居駒真澄!その驚異的な加速力で、敵のディフェンスを切り裂く姿を見せてくれるでしょう!』
次々と紹介されるU-20日本代表の選手たち。その中でも、国外で実績を上げる冴と真澄が圧倒的な注目を集めていた。
『対するは挑戦者、
大型ビジョンには"青い監獄"11傑の選手たちが映し出される。観客の反応は控えめだった。彼らの名前を知る者はほとんどいない。だが、一人だけ、その存在が異彩を放っていた。
背番号10、糸師凛。糸師冴の実弟である。
『注目すべきはこの男。"青い監獄"チーム背番号10番、糸師凛!U-20日本代表のエース、糸師冴の弟であり、"青い監獄"内成績は堂々の一位です!』
観客席がざわめく。兄弟対決という構図が、両チームの激突にさらなる興奮を呼び込んでいた。
選手入場口にて。
俺は9番のユニフォームをまとい、待機していた。
U-20日本代表VS"青い監獄"11傑
来るU-20W杯出場権をかけた戦いになぜかゲストで参加することになった。ちなみに知ったの一週間前ね。
「ルーキー、調子はどうだ?」
「絶不調っす」
「まあ……そうだよな」
ここ一週間を思い出して憂鬱になる。
顔合わせのミーティングは大魔王のナチュラル日本サッカー差別発言と士道くんの暴行で乱闘騒ぎ。俺も同類だと思われてチームで浮きまくった。
挙句の果てにはチーム内で練習試合したら、相手の冴・士道くんチームにボロ負けしてすっげえ気まずい雰囲気出るし。
しょうがないだろ、冴が強すぎんだよ。俺へのパスは全部止めてくるし、思考先読みワープすんのやめてくれマジで。誰も俺にパスを出さなくなったので相手から無理やり奪うしかなくなった。
当たり前だが冴サポが無いと俺はシュートが全く入れられない。あいつゲームで言ったら一人だけ最高レアが上がってるタイプだから。サポカ欄全員糸師冴になるから。
他にも士道くんがキレて先輩に殴りかかったりしてた。慣れって怖いね、主将が冷静に拘束してたよ。
このように愛空
まあそれは良いのだ。スペインでもスペイン語分からなすぎて浮いてたし、何より嫌なのは──
「コロス……!」
すんげえ憎しみをぶつけてくるやつが敵チームにいることである。
糸師凛。かつては糸師兄弟の善担当だったやつ。反抗期を越えてバーサーカーと化したようである。
長男の暴言シャワーを普段から浴びているため無表情を装える。次男だったから我慢できたがだいぶキマってて怖い。
前にストリートサッカーを仕掛けてきた時も怖かったが、"青い監獄"で一皮剥けちゃったみたいだ。子どもの時からその面影はあったけどさ。
正直凛が来るってわかってたら仮病使ってでも辞退してた。
ごく自然な動作でぶん殴ろうとしてきたので、反射的に避ければ隣の11番君に当たる。「大丈夫か潔!」チームメイトが駆け寄った。ごめん潔。
「凛、試合前に人を殴ったら退場だぞ」
潔くんはやれやれといった風に当たった箇所をさすり「大丈夫、かすっただけ」と苦笑を浮かべる。
この子大物すぎるだろ。
「すみません、居駒選手」
非行少年なのにめっちゃ良い子だ。"うるせぇ"、"黙れ"、"クソ"とか言わなそう。どうか世界で活躍してサッカー界の民度向上に努めてもらいたい。
首を振って気にすんなと意思表示。ごめん、隣のやつが怖すぎて声でねえんだわ。
ガンギマ凛から距離を置き、素知らぬ顔で前を向いた。冴は凛に目もくれない。
でもおデコが輝いているので今日はかなりやる気を感じる。
こういう時は味方として頼もしい反面、超次元サッカーに片足入れることがあるので警戒が必要である。意味わかんねぇパスして意味わからんゴールコースを走らせてくるから。
試合を知らされた後に凛との関係を聞いてみれば、案の定反抗期食らって
100%冴が変なことを言って突入した反抗期なので兄弟間でどうにかしてほしい。
凛も冴の厨二化の責任を押し付けないでくれよ、もともと天然発言多かったし厨二病の素質あったじゃん。
リラックスするように手足をぶらぶらと揺らす。
大丈夫、凛がバーサーカーしなければ勝てる。
バーサーカーしたら帰る。
そんなことを考えていると、珍しくウキウキ(当人比)して試合開始を待っていた冴がこちらを向いた。
「あ、真澄」
本当に機嫌良いな今日。
「ハットトリック決めなかったら
「ふざけんなお前」
俺と冴は5年間同じ部屋で過ごしてきた仲である。途中まではPCも共有だったし布団も二段だったし、おおよそプライバシーなど保護されていない環境だった。俺の弱みを握ることが趣味の大悪魔が同じ部屋にいたのだ。
どの黒歴史だ?
好きな子に送って国境越えられず返送された手紙のスキャンデータか?
ホームシックで号泣しながら母ちゃんに電話した録音データか?
それとも枕の下に隠してた写真集か?
クソっ!心当たりが多すぎて特定できない!
俺の黒歴史が“性癖曝露がもはや性癖”そうな
「俺は平等だ。悪魔くんが決められなかったらお前に悪魔くんの黒歴史をバラす」
「いらねえよ、その配慮」
知った瞬間人生を後悔しそう。
入場の合図が出されて、扉が開く。
愛空さんが肩に手を置いた。
「真澄くんは、いじめられてるのかい?」
「いや、そういうわけでは……」
「まあ、安心しな。日本の守備力は世界トップレベルだ。後ろは任せて前だけ見てろ」
慰めるように愛空さんが背中を叩き、ついでにウインクまで決めてくれた。
ヤダ、かっこいい……。
今度から『好きなサッカー選手』にオリヴァ・愛空って書こう。
各選手が配置につき、凛がセンターサークルに立つ。傍にはOMFの潔くんだ。
どうか凛が滅殺バーサーカーモードに入りませんように──!
いるかいないかもわからんコートの神に俺は祈ったのであった。
──3分後。
目覚めちゃった……。バーサーカー……。
ゴールを決められたくせして満更でもない冴さんを横目に、俺は虚しく空を仰いだのであった。