糸師冴の相棒   作:まっしゅないも

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U-20日本代表戦 前半3

 

「ナイスだぞ居駒ァ!!」

「っす」

 

 イエーイ!

 

 閃堂さんが駆け寄ってグータッチをしてくるので、反射的に返す。やっぱサッカー楽しいわ。馬鹿みたいに走ってゴールを決める瞬間が一番すっきりする。

 チームガタガタでもゴール決めると雰囲気良くなるし!逆もあるけど。

 

「お前最後よくシュート打ったな!」

「いい感じだったんで」

 

 さすがに"なんも考えてませんでした"とか言えないので直感型風で誤魔化しておく。

 

 この調子でよろしく頼むぜ!と閃堂さんが笑う。士道くんと喧嘩してて苦手な人に入ってたけど、優しい人だこの人。少なくとも糸師冴よりはいい人である。

 そういえばナイスアシスト、と手を上げて俺は大魔王を見たことを後悔した。

 

 弟の首掴んで、すっげえ怖い顔してるよあの人……。

 

 なんかくどくど語ってるけど100%精神攻撃してる。もう経験でわかる。

 スペイン行ってからただでさえ悪い目つきが100倍くらい悪くなったよな。久しぶりの日本で溜まっていた鬱憤が噴き出てるのかもしれない。こないだもグラサンかけて歩いていたら一緒に職質されたし。

 

 ちびまる子ちゃんの録画を20周以上してる以外はいつも通りだったから気にしてなかったけど、厨二化といい、近くにいる俺がもう少し労ってあげるべきだったのかもしれない。まる子一気見付き合ってたんだけど。もう一周やるべきだったかも。

 

 凛の顔は怖すぎて直視できないのでそのまま前に走る。遠くで手を振る愛空主将の笑顔が太陽のように輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 潔はボールを持った瞬間、糸師冴のプレッシャーを正面から受けていた。

 凛と凪とのラインを維持しながら潔はゴールの感覚を探る。凛は居駒の近くに待機しつつも、潔を視界に入れている。作戦通りの連携を取るつもりに潔は少しホッとする。

 千切豹馬が前線に上がり、対象的に蜂楽廻が後ろへ下がった。

 

 凛のゴールが決まった瞬間、潔は確信していた。

 

(やっぱりU-20日本代表の強みは連携を活かしたゾーンディフェンス)

 

 事前の分析通りだった。ならば──。

 

("青い監獄(ブルーロック)"フォーメーションでDFラインに穴をあければ、一気に展開が変わる!)

 

 潔はDFライン、仁王和馬と音留鉄平の間にできたスペースを見逃さなかった。スルーパスを放つと同時に、自らも前線へ飛び出す。

 日本代表陣の最終ラインを引き裂くボールが転がり、"青い監獄(ブルーロック)"のエース、凛がそのスペースに入り込んだ。潔、凛、凪。三角形のフォーメーションは完璧に機能している。

 

「リベンジだ、怪獣」

 

 凛はすぐにドリブルを仕掛けず、ポストプレーの体勢を取り、愛空との間合いを見極めた。下手に突っ込んでも、この相手には通用しない。仁王がカバーに走るのを見て、凛は即座にボールを後ろへ戻した。

 

「……さっきみたいに取られんなよ」

「ごめんって」

 

 受けたのはST凪誠士郎。彼はボールを足元に収める瞬間、ほんのわずかに浮かせるようにトラップした。LSB蛇来弥勒(だらいみろく)がすかさずゴールとの間に身体を入れ、進路を遮る。しかし、凪は焦らなかった。

 

 少しだけ体をひねり、ボールを優雅に操る。無駄のない所作で蛇来のプレッシャーを躱す。

 

 

「頑張れ、スプリンター」

 

 スルリと球をサイドへ流す。

 

「言われなくても!」

 

 DFラインが中央に寄ることで生まれたスペース。そこへ疾風のように駆け込むのは、"青い監獄(ブルーロック)"の韋駄天──千切豹馬だった。

 

 相手のサイドをなぞる様に千切が走る。超攻撃型"青い監獄(ブルーロック)"システムは、日本代表陣の守備を完全に崩し始めていた。DMF若月樹が距離を詰めてくる。しかし、千切はそれすら計算のうちだった。

 

 トップスピードのままではなく、一度だけ、わずかに減速する。

 

(詰めた瞬間、千切の勝ちだ)

 

 若月が距離を詰めた、その刹那──千切は一気にトップギアへ切り替えた。 U-20日本代表のDFが一歩遅れたのを確認すると、千切はライン際をぶち抜く。視線の先には、ペナルティエリアに走り込む凛の姿があった。

 

 千切は迷わずクロスを上げた。精密な弾道で放たれたボールは、ゴール前へ飛ぶ。日本代表の守備陣が対応しきれないまま、凛が勢いよく飛び込んだ。

 

(決まる!)

 

 潔の意識は、完全にゴールに向いていた。"青い監獄(ブルーロック)"の攻撃が、理想の形で完成する。その瞬間──

 

 白い影が、突然飛び込んできた。

 

 ボールはゴールへ向かう軌道を変え、大きく跳ね上がる。凛の足が空を切る。

 目の前には、飄々と立ち上がる、日本代表のRW──居駒真澄の姿があった。

 

「クソっ、邪魔くせえんだよハゲカスが!」

「ハゲじゃねえ……俺は前髪を労ってる」

 

 衝動的に悪態を付く凛に対しても、居駒は動じない。

 潔は奥歯を噛み締める。

 

 

(なんで居駒は、"走る前"に動いてる……!?)

 

 普通のDFなら、クロスが上がった瞬間に動く。だが、真澄は()()()()()、凛が走り込むよりも早く、その位置に飛び込んでいた。

 

 これは単なる反射ではない。まるで未来が見えているように、そこにいた。

 

 さっきのゴールと同じだ。自身の行動を先読みされている気持ち悪さ。

 しかし、冷静に考えれば、この動きに合理的な説明がつく。

 

(いや……違う。アイツは凛の動きを"予測していた")

 

 潔の頭の中で、過去のプレーがフラッシュバックする。

 

『俺がボールを持つとき、選択肢がどう変わるか』

『千切がクロスを上げるとき、どこに誰が動くか』

『凛と凪がゴール前でどう動くか』

 

 "青い監獄(ブルーロック)"は、全員がゴールを狙う怪物たちだ。彼らの動きにはパターンがある。

 

──居駒は、それを()()()()()のではないか?

 

 

(そうだ。アイツは俺たちと一緒に戦ったことはない。でも、全て見ていた)

 

 潔の記憶の中に、一次選考、二次選考、三次選考の光景が蘇る。

 

 自分が凛と組み、決勝点を決めた試合。

 その戦術、空間認識、直撃蹴弾(ダイレクトシュート)を組み合わせたプレーを──居駒真澄は全て見ていた。

 

(それぞれのゴールパターンを、最初から記憶して対策してる……!?)

 

 潔の背筋が震えた。だがそれなら異次元の反射速度も納得がいく。

 事前にシミュレーションして対策を立て、それを身体で覚えていれば凛のシュートコースを想像するなど容易だろう。理論上は潔でもできることだ。

 

(毎回それをやってるのか!こいつは!?)

 

 脳内で各選手の動きをシミュレーションし、それを自分の身体に記憶させ反射(アウトプット)する。

 人外じみた動きだ。だが、この仮定が正しければ──。

 

 

 次の瞬間、潔は動いた。

 

 千切のクロスを回収した雪宮がボールをつなぎ、凛へ展開。

 凛が愛空と対峙し、外側へ持ち出す。

 

(居駒の動きは決まってる。俺が()()()()と思った瞬間に、ポジションを取っている!)

 

(なら、"そこにいさせたまま"ズラすだけ!)

 

 潔は、ゴール前へ走り込んだ。

 凛が狙いすましたように出すパス。

 

 居駒の視線が鋭く動き、潔がシュートを打つタイミングに合わせてポジションを取る。

 これまでなら、ここで居駒がカットする。 

 

 だが──潔は蹴る直前で、一瞬だけ動きを止めた。

 

「思い通りに動くと思うなよ、ポンコツルーチン野郎が!」

「っ──!?」

 

 居駒の姿勢が崩れる。反射的に取った動きを急停止させようとしたからだ。

 

 ここで潔がシュートを打つ──それが居駒の中で確定していたから、居駒は"止めに行く動き"を完璧に読んでいた。

 

 だが、その動きを潔は"させたまま"、時間差でズラした。

 

 

(行ける!)

 

 潔は確信した。

 この試合で何度も壁として立ちはだかった"日本一のストライカー"に、初めて勝った瞬間。巨大な敵を出し抜いた高揚感が、全身を駆け巡る。

 

 脳内で組み立てていた戦略が、完璧に刺さった。

 潔の口元が自然と吊り上がる。

 

 過去の経験を捨てた、新しいプレー。

 この戦いを経たからこそ生み出せる、"適応能力の天才"が生み出せるプレー。

 潔の目が鋭く光る。

 

 居駒真澄と、はじめて目が合った。

 

「お前、分かるのか?」

 

 糸師冴のカットイン。"双玉"の片割れがフォローに入る。

 

「遅えよ"双玉"、急所は見えてんだ──」

 

 居駒の作った0.5秒の隙を、潔世一は逃さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポンコ……ーチン野郎が!」

 

 俺はあまりに火力の高いレスバに集中をかき乱された。

 今こいつ俺のこと 『ポコチン野郎』 つったぞ。

 

 カスとかクソとか、いままで散々言われ慣れてきたけど、ポコチン野郎……?

 え? ポコチン……そんなひどいこと言われたことないかも。

 

 やばい、足が震える。動揺して潔くんを見る。

 

 歯茎むき出しで、めっちゃ笑ってた。

 

 コワ。

 

 ベロ出しっぱなしの凛はパニックホラー的な怖さだとすれば、潔くんの怖さはサイコパス的なヤツである。

 完全に「やったぜ」って顔してる。確信犯のレスバ野郎じゃねえか。

 

 さすがに俺の異常に気付いた冴がフォローに入る。

 あの糸師冴が、俺にフォローを入れる……?

 

 日本においてサッカーの実力とレスバ力の強さは比例する。これは間違いない。

 

 だが凛の悪口は「コロス」とか「死ね」とか、そういう直球で中学生レベルの罵倒だし理論的に切り返せる。

 冴も、「うるせぇ黙れカスぬりぃ調子に乗んなMFの俺より得点力の低いヤツを俺はストライカーとして認めねぇ」くらいは普通に言うけど、"糸師冴暴言集"ってスレ立てしたら一人で埋められるくらいには慣れていた。

 

 

 でも、初対面でポコチン野郎は……!

 

 シンプルで汎用性の高い低俗な暴言が、ここまで口撃力の高いモノだと俺は知らなかった。これは言葉が全く分からないままスペインでプレーしていた故の欠点。

 

 しかも、なまじ素のコミュ力もあって、試合前は「緊張するな~」みたいにそわそわしていた潔くんから出たので、ダメージもひとしおである。

 

(くそっ、意識が散る……集中しろ、俺!)

 

 玉……急所狙い……

 

『"双玉"、急所は見えてんだ──!』

 

 つまり潔くんにとってサッカーは 金球蹴り(サッカー) ってコト……!?

 

 潔くんが足を振り切る。

 ドライブシュートが頭の横を通りすぎた。

 

 ネットの揺れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

(この短時間で、真澄に適応した?)

 

 糸師冴は潔世一への驚きを隠せずにいた。

 冴の理解できない真澄の変則型ポジショニングを読み、加えて反射能力を潰すフェイント。技術そのものは未熟で凛に及ばないが、頭の使い方で真澄を越えて見せた適応力。

 

 真澄は自分が止められることを、理解していなかった。

 

(あいつ、初めて攻略されたんじゃないのか?)

 

 そう思った瞬間、冴の中でわずかに高揚するものがあった。

 自らが育てた"無自覚の怪物"が、初めて他者に蹂躙される瞬間。

 

 その相手が凛の怪物を目覚めさせた潔世一というのがまた面白い。

 

(で、どうする?)

 

 これまでの真澄なら、自分の動きが"読まれる"という概念すらなかったはずだ。

 常に直感で動き、結果的に最適解を取る。それが居駒真澄という選手のスタイル。

 だが今、このピッチの上で、その直感が後手に回った。

 

(今のお前は、たった今、"自分を攻略しようとする敵"と対峙した状態だ)

 

 潔に出し抜かれ、精神的にも動揺している。

 このまま崩れるのか、それとも……。

 

 冴は真澄をちらりと見た。

 そこには、何かを考え込むようにわずかに伏せた視線。

 

(──いや、こいつはそういうタイプじゃないな)

 

「冴」

 

 次の瞬間、真澄は冴の方を向いた。

 まるで「どうすれば勝てるか?」と問いかけるような、鋭い目をしていた。

 

「……あぁ、いいな」

 

 自分が育てた選手が、今この試合で一つ壁にぶつかり、それを乗り越えようとしている。

 となれば、冴がやることは一つしかない。

 

「立てよ、特別(シンデレラ)待遇だ。俺が魔法をかけてやる」

 

 

 視界がすべてを捉える。

 

 ボールの位置、選手たちの配置、動きの癖、呼吸のリズム──

 ピッチに存在するあらゆる情報が、瞬時に整理され、戦術へと変換される。

 

 潔世一の適応力が、居駒真澄のバランスを崩した。

 ならば、その 「適応力」すら計算に組み込めばいい。

 

 冴は思考を切り分ける。

 

 俯瞰する視点──戦場を見渡し、最適解を弾き出す冷徹な計算機としての眼。

 掌握する視点──真澄の動きを把握し、己の支配に組み込む操縦者としての眼。

 利用する視点──潔世一の思い上がりすら、ゲームの駒に変える支配者としての眼。

 

 そのすべてを統合する瞬間、冴の戦術は完成する。

 

(着いて来い、潔世一)

 

 お前が”適応”するのなら、俺は”支配”する。

 ピッチにいる限り、すべての動きは俺の計算の内側だ。

 

 

 「日本の至宝」──糸師冴は、戦場を計算し、支配する天才だ。

 

 




居駒真澄

自分の思う短所:適当なところ
自分の思う長所:器が大きいところ


勘違い度数

真澄>潔=凛>冴

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  • 漫画を見た(ネオエゴ編も知っている)
  • アニメだけ見た(U20戦まで)
  • U20前だが途中までは知っている
  • 全く知らない
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