糸師冴の相棒 作:まっしゅないも
「ナイスだぞ居駒ァ!!」
「っす」
イエーイ!
閃堂さんが駆け寄ってグータッチをしてくるので、反射的に返す。やっぱサッカー楽しいわ。馬鹿みたいに走ってゴールを決める瞬間が一番すっきりする。
チームガタガタでもゴール決めると雰囲気良くなるし!逆もあるけど。
「お前最後よくシュート打ったな!」
「いい感じだったんで」
さすがに"なんも考えてませんでした"とか言えないので直感型風で誤魔化しておく。
この調子でよろしく頼むぜ!と閃堂さんが笑う。士道くんと喧嘩してて苦手な人に入ってたけど、優しい人だこの人。少なくとも糸師冴よりはいい人である。
そういえばナイスアシスト、と手を上げて俺は大魔王を見たことを後悔した。
弟の首掴んで、すっげえ怖い顔してるよあの人……。
なんかくどくど語ってるけど100%精神攻撃してる。もう経験でわかる。
スペイン行ってからただでさえ悪い目つきが100倍くらい悪くなったよな。久しぶりの日本で溜まっていた鬱憤が噴き出てるのかもしれない。こないだもグラサンかけて歩いていたら一緒に職質されたし。
ちびまる子ちゃんの録画を20周以上してる以外はいつも通りだったから気にしてなかったけど、厨二化といい、近くにいる俺がもう少し労ってあげるべきだったのかもしれない。まる子一気見付き合ってたんだけど。もう一周やるべきだったかも。
凛の顔は怖すぎて直視できないのでそのまま前に走る。遠くで手を振る愛空主将の笑顔が太陽のように輝いて見えた。
潔はボールを持った瞬間、糸師冴のプレッシャーを正面から受けていた。
凛と凪とのラインを維持しながら潔はゴールの感覚を探る。凛は居駒の近くに待機しつつも、潔を視界に入れている。作戦通りの連携を取るつもりに潔は少しホッとする。
千切豹馬が前線に上がり、対象的に蜂楽廻が後ろへ下がった。
凛のゴールが決まった瞬間、潔は確信していた。
(やっぱりU-20日本代表の強みは連携を活かしたゾーンディフェンス)
事前の分析通りだった。ならば──。
("
潔はDFライン、仁王和馬と音留鉄平の間にできたスペースを見逃さなかった。スルーパスを放つと同時に、自らも前線へ飛び出す。
日本代表陣の最終ラインを引き裂くボールが転がり、"
「リベンジだ、怪獣」
凛はすぐにドリブルを仕掛けず、ポストプレーの体勢を取り、愛空との間合いを見極めた。下手に突っ込んでも、この相手には通用しない。仁王がカバーに走るのを見て、凛は即座にボールを後ろへ戻した。
「……さっきみたいに取られんなよ」
「ごめんって」
受けたのはST凪誠士郎。彼はボールを足元に収める瞬間、ほんのわずかに浮かせるようにトラップした。LSB
少しだけ体をひねり、ボールを優雅に操る。無駄のない所作で蛇来のプレッシャーを躱す。
「頑張れ、スプリンター」
スルリと球をサイドへ流す。
「言われなくても!」
DFラインが中央に寄ることで生まれたスペース。そこへ疾風のように駆け込むのは、"
相手のサイドをなぞる様に千切が走る。超攻撃型"
トップスピードのままではなく、一度だけ、わずかに減速する。
(詰めた瞬間、千切の勝ちだ)
若月が距離を詰めた、その刹那──千切は一気にトップギアへ切り替えた。 U-20日本代表のDFが一歩遅れたのを確認すると、千切はライン際をぶち抜く。視線の先には、ペナルティエリアに走り込む凛の姿があった。
千切は迷わずクロスを上げた。精密な弾道で放たれたボールは、ゴール前へ飛ぶ。日本代表の守備陣が対応しきれないまま、凛が勢いよく飛び込んだ。
(決まる!)
潔の意識は、完全にゴールに向いていた。"
白い影が、突然飛び込んできた。
ボールはゴールへ向かう軌道を変え、大きく跳ね上がる。凛の足が空を切る。
目の前には、飄々と立ち上がる、日本代表のRW──居駒真澄の姿があった。
「クソっ、邪魔くせえんだよハゲカスが!」
「ハゲじゃねえ……俺は前髪を労ってる」
衝動的に悪態を付く凛に対しても、居駒は動じない。
潔は奥歯を噛み締める。
(なんで居駒は、"走る前"に動いてる……!?)
普通のDFなら、クロスが上がった瞬間に動く。だが、真澄は
これは単なる反射ではない。まるで未来が見えているように、そこにいた。
さっきのゴールと同じだ。自身の行動を先読みされている気持ち悪さ。
しかし、冷静に考えれば、この動きに合理的な説明がつく。
(いや……違う。アイツは凛の動きを"予測していた")
潔の頭の中で、過去のプレーがフラッシュバックする。
『俺がボールを持つとき、選択肢がどう変わるか』
『千切がクロスを上げるとき、どこに誰が動くか』
『凛と凪がゴール前でどう動くか』
"
──居駒は、それを
(そうだ。アイツは俺たちと一緒に戦ったことはない。でも、全て見ていた)
潔の記憶の中に、一次選考、二次選考、三次選考の光景が蘇る。
自分が凛と組み、決勝点を決めた試合。
その戦術、空間認識、
(それぞれのゴールパターンを、最初から記憶して対策してる……!?)
潔の背筋が震えた。だがそれなら異次元の反射速度も納得がいく。
事前にシミュレーションして対策を立て、それを身体で覚えていれば凛のシュートコースを想像するなど容易だろう。理論上は潔でもできることだ。
(毎回それをやってるのか!こいつは!?)
脳内で各選手の動きをシミュレーションし、それを自分の身体に記憶させ
人外じみた動きだ。だが、この仮定が正しければ──。
次の瞬間、潔は動いた。
千切のクロスを回収した雪宮がボールをつなぎ、凛へ展開。
凛が愛空と対峙し、外側へ持ち出す。
(居駒の動きは決まってる。俺が
(なら、"そこにいさせたまま"ズラすだけ!)
潔は、ゴール前へ走り込んだ。
凛が狙いすましたように出すパス。
居駒の視線が鋭く動き、潔がシュートを打つタイミングに合わせてポジションを取る。
これまでなら、ここで居駒がカットする。
だが──潔は蹴る直前で、一瞬だけ動きを止めた。
「思い通りに動くと思うなよ、ポンコツルーチン野郎が!」
「っ──!?」
居駒の姿勢が崩れる。反射的に取った動きを急停止させようとしたからだ。
ここで潔がシュートを打つ──それが居駒の中で確定していたから、居駒は"止めに行く動き"を完璧に読んでいた。
だが、その動きを潔は"させたまま"、時間差でズラした。
(行ける!)
潔は確信した。
この試合で何度も壁として立ちはだかった"日本一のストライカー"に、初めて勝った瞬間。巨大な敵を出し抜いた高揚感が、全身を駆け巡る。
脳内で組み立てていた戦略が、完璧に刺さった。
潔の口元が自然と吊り上がる。
過去の経験を捨てた、新しいプレー。
この戦いを経たからこそ生み出せる、"適応能力の天才"が生み出せるプレー。
潔の目が鋭く光る。
居駒真澄と、はじめて目が合った。
「お前、分かるのか?」
糸師冴のカットイン。"双玉"の片割れがフォローに入る。
「遅えよ"双玉"、急所は見えてんだ──」
居駒の作った0.5秒の隙を、潔世一は逃さない。
「ポンコ……ーチン野郎が!」
俺はあまりに火力の高いレスバに集中をかき乱された。
今こいつ俺のこと 『ポコチン野郎』 つったぞ。
カスとかクソとか、いままで散々言われ慣れてきたけど、ポコチン野郎……?
え? ポコチン……そんなひどいこと言われたことないかも。
やばい、足が震える。動揺して潔くんを見る。
歯茎むき出しで、めっちゃ笑ってた。
コワ。
ベロ出しっぱなしの凛はパニックホラー的な怖さだとすれば、潔くんの怖さはサイコパス的なヤツである。
完全に「やったぜ」って顔してる。確信犯のレスバ野郎じゃねえか。
さすがに俺の異常に気付いた冴がフォローに入る。
あの糸師冴が、俺にフォローを入れる……?
日本においてサッカーの実力とレスバ力の強さは比例する。これは間違いない。
だが凛の悪口は「コロス」とか「死ね」とか、そういう直球で中学生レベルの罵倒だし理論的に切り返せる。
冴も、「うるせぇ黙れカスぬりぃ調子に乗んなMFの俺より得点力の低いヤツを俺はストライカーとして認めねぇ」くらいは普通に言うけど、"糸師冴暴言集"ってスレ立てしたら一人で埋められるくらいには慣れていた。
でも、初対面でポコチン野郎は……!
シンプルで汎用性の高い低俗な暴言が、ここまで口撃力の高いモノだと俺は知らなかった。これは言葉が全く分からないままスペインでプレーしていた故の欠点。
しかも、なまじ素のコミュ力もあって、試合前は「緊張するな~」みたいにそわそわしていた潔くんから出たので、ダメージもひとしおである。
(くそっ、意識が散る……集中しろ、俺!)
玉……急所狙い……
『"双玉"、急所は見えてんだ──!』
つまり潔くんにとってサッカーは
潔くんが足を振り切る。
ドライブシュートが頭の横を通りすぎた。
ネットの揺れる音がした。
(この短時間で、真澄に適応した?)
糸師冴は潔世一への驚きを隠せずにいた。
冴の理解できない真澄の変則型ポジショニングを読み、加えて反射能力を潰すフェイント。技術そのものは未熟で凛に及ばないが、頭の使い方で真澄を越えて見せた適応力。
真澄は自分が止められることを、理解していなかった。
(あいつ、初めて攻略されたんじゃないのか?)
そう思った瞬間、冴の中でわずかに高揚するものがあった。
自らが育てた"無自覚の怪物"が、初めて他者に蹂躙される瞬間。
その相手が凛の怪物を目覚めさせた潔世一というのがまた面白い。
(で、どうする?)
これまでの真澄なら、自分の動きが"読まれる"という概念すらなかったはずだ。
常に直感で動き、結果的に最適解を取る。それが居駒真澄という選手のスタイル。
だが今、このピッチの上で、その直感が後手に回った。
(今のお前は、たった今、"自分を攻略しようとする敵"と対峙した状態だ)
潔に出し抜かれ、精神的にも動揺している。
このまま崩れるのか、それとも……。
冴は真澄をちらりと見た。
そこには、何かを考え込むようにわずかに伏せた視線。
(──いや、こいつはそういうタイプじゃないな)
「冴」
次の瞬間、真澄は冴の方を向いた。
まるで「どうすれば勝てるか?」と問いかけるような、鋭い目をしていた。
「……あぁ、いいな」
自分が育てた選手が、今この試合で一つ壁にぶつかり、それを乗り越えようとしている。
となれば、冴がやることは一つしかない。
「立てよ、
視界がすべてを捉える。
ボールの位置、選手たちの配置、動きの癖、呼吸のリズム──
ピッチに存在するあらゆる情報が、瞬時に整理され、戦術へと変換される。
潔世一の適応力が、居駒真澄のバランスを崩した。
ならば、その 「適応力」すら計算に組み込めばいい。
冴は思考を切り分ける。
俯瞰する視点──戦場を見渡し、最適解を弾き出す冷徹な計算機としての眼。
掌握する視点──真澄の動きを把握し、己の支配に組み込む操縦者としての眼。
利用する視点──潔世一の思い上がりすら、ゲームの駒に変える支配者としての眼。
そのすべてを統合する瞬間、冴の戦術は完成する。
(着いて来い、潔世一)
お前が”適応”するのなら、俺は”支配”する。
ピッチにいる限り、すべての動きは俺の計算の内側だ。
「日本の至宝」──糸師冴は、戦場を計算し、支配する天才だ。
居駒真澄
自分の思う短所:適当なところ
自分の思う長所:器が大きいところ
勘違い度数
真澄>潔=凛>冴
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U20前だが途中までは知っている
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