シグルってたまるか   作:風袮悠介

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57話・反省した。ごめんよ……。ちゃんと頑張るからさ……。

 土下座して入れてもらった道場で、俺は大目玉を食らっていた。

 道場のド真ん中で土下座したまま、道場主の先生からこれでもかと大折檻を受けていたのだ。

 

 曰く、江戸建立許し虎参りなんてとんでもないことをやらかしたせいで知り合いの道場が閉じてしまったらしい。

 自信をなくした道場主のご友人が田舎に帰り、畑を耕しながらのんびりと子供に剣を教えてくらすよ、と目に光を無くした笑顔で言ったあと、何も言わずに江戸から消えたとのことだ。

 

 確かに実力は凄い。それをひけらかし名を上げるのは良い。

 しかしそれをやられたのが友人なら話は別だ、と般若顔で怒鳴られたわけである。

 

 弱い方が悪いじゃねーか! と反論できるものならするが、それをしたらさらに大変なことになるだろう。

 最後の最後に残ったこの、ここの道場すらも出禁にされる可能性がある。

 他の道場で金稼ぎができなくなるのは別にいい。なんなら別の土地でやらかすだけだ。

 

 しかし夕雲を育てることができない。

 

 なんだかんだで金がいる。

 オレの生活にも、夕雲の生活環境を整えて修行させるためにも、金はいる。

 オレだけならどうでもいいが、夕雲まで巻き込むことはできない。

 

 その後ろの弟子は、オレを冷めた目で見てやがるので、後で折檻な!!!

 

「聞いておるのか!?」

「すみませんでした!!」

 

 道場主先生は平澤という名前の人で、壮年でありながら背筋が伸びた人だった。蓄えた顎髭と皺が刻まれた威厳ある顔をオレに向けている。

 

「全く……! とんでもない男がいたものだ!!」

「はい! すみませんでした!!」

「反省せい!! 本当に……!!」

 

 平澤先生はオレにこれでもかと叱りつけ、落ちついたのか茶を飲んで喉を潤していた。

 

 ちなみにオレはこの後、同じようなことをやらかして再び大折檻を受けるのは別の話だ。

 

「……それで? 何が目的でこういうことをしておる?」

「あ、はい。虎眼流の道場を開く許可をいただいたので、どのように道場を運営すればよいのか、それと路銀と道場を開くための資金集めのためにやりました」

 

 こいつは……!! と平澤先生は額に手を当てて怒りを抑え込んでいる様子だった。

 本当にすまんて。そろそろ土下座が厳しくなってきた。

 

「……その江戸建立許し虎参りとやらは止めよ。道場運営に必要なことは、儂が教えてやる故」

「本当ですか!!」

「弟子のためにそこまで頭を下げられる男を、無碍にもできまいよ……とはいえこの平澤、常陸より流れてきたものでな。血筋で言えば分家の分家でしかも三男、これでは生きてはいけぬと出奔し、身に付けていた陰流でほそぼそと道場を続けておるだけだ。そこまで大層なことは教えられんぞ」

「十分です!」

 

 良かった……! これで夕雲の修行の場は確保できるし、オレの修行と目的のための拠点も得られるぜぐっへっへ!

 頭を上げ、もう一度礼をする。良い人に巡り会えてよかった……!

 

 ちなみに夕雲は後ろで涙ぐんで俯いてた。肩を震わせて「……とう、ございます……!」とオレに向かって言っていた。

 それを言うなら平澤先生に言え、オレはやらかした後始末をしてただけだよ……すまんな、夕雲……。

 

 

 

 

 その日から、平澤先生の道場でお世話になることになった。

 合間に平澤先生の道場以外で似たようなことをやり、ついでに江戸建立許し虎参りでやってた木刀の素振りも見せた。江戸建立許し虎参り事態はしてないんだ。

 なのに道場が閉じてしまったので、再び平澤先生にどやされた。すまんて……。

 

 夕雲も道場に来る門下生と平澤先生との稽古でめきめき腕を上げていっていた。

 よっしゃオレも、と平澤先生に稽古を頼んだが、

 

「お主と儂とでは実力差がありすぎて話にならん。儂が殺される」

 

 と断れた。そ、そんなこと言わないでくれよ……。

 

 合間に虎眼の親父に手紙を書いて近況を知らせておいた。当分、平澤先生にお世話になること、そして修行と勉強が終わったら帰る、とも。

 返事がないから怒ってるんやろうなぁ、と月見酒をしながら黄昏れた。

 

 そして、数年後。

 オレと夕雲は掛川に帰ることとなった。




 そろそろオリジナルエピソードが長くなりすぎたので、ここで一旦終わります。
 次回は閑話を挟んでから、原作本編に合流します。
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