シグルってたまるか   作:風袮悠介

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涼之介が死んだことですっげぇ~スッキリしてるぜ~。
元旦の朝に太陽の光を浴びながら、洗濯したばっかの下着を着てる気分だよ~。

そんな心境でシグルイ二次が書けるようになりました。
宜しくお願いします。


第十七景・面目 異聞譚 その一

 涼之介の首が見つかったその後、すぐに屋敷に控えていた虎子たちによって首は回収された。

 全員が一室に集まっている中で、牛股がその首を持って廊下を歩いている。

 その顔は、険しいものであった。汗が一筋流れてすらいる。

 

 虎眼流邸内で死体が発見された場合、その犯人として最初に疑うべきは外部のものではない。

 

「先生……」

 

 牛股が虎眼の部屋の前で正座をし、声を掛ける。しかし、中から返事はない。

 それどころか中からボリッ、ボリッ、と奇妙な音すら聞こえる。

 

 何が中で行われているのか……ふと牛股が障子戸の隙間を見ると、何やら赤黒いものが見えた。

 まさか……血糊か……?

 

 牛股の脳裏に嫌な予感がよぎる。

 裕次郎が帰ってきて以来、虎眼が曖昧な状態になることは明確に減った。

 減ったが、それは無くなったと同義ではないのだ。

 

 つまりは――。

 

御免(ごめん)(つかまつ)る……」

 

 強烈なまでによぎる嫌な予感に、牛股は冷や汗を流しながら戸を開く。

 すす、と開いた中で牛股が見たものは、一心不乱に魚を喰らう虎眼の姿であった。

 

「なんじゃ権左」

 

 皿に盛られた骨付き焼き魚の表面に、何やら赤黒い汁がかかっていた。

 

 どうやら虎眼はこの料理を喰らう際、骨ごと食べていただけらしい。

 しかも川魚だ……と牛股は呆然としていた。

 

「その……先生」

「これか。これなるは、裕次郎がわざわざ川から取ってきた新鮮なものよ。どうやら夜通しかけて釣ってきたとのことでな。珍妙な汁と一緒に喰らうと、なかなかに美味である」

 

 あいつ、なんでそんなことを? と牛股は思ったが、虎眼は曖昧な状態ではなく、普通に箸で食事を取っていただけであった。

 

「先生……涼之介のことは……」

「権左」

 

 べきり。

 

「必ず下手人を仕留めよ。良いな」

 

 虎眼の目が、かつて裕次郎が虎眼の元に来る前の、強烈な憎悪と敵意と殺意が宿ったものへと代わった。

 握られた箸が折られ、虎眼の手の内に刺さったのか血が滴る。

 

 虎眼は、その痛みを歯牙にも掛けない。

 あるのはただ、虎眼流に土をかけた下郎へ制裁を下すことへの執念だ。

 

「はは……かしこまりました……先生はごゆるりとお待ちください……」

 

 牛股は平然として言葉を受け止め、障子を閉める。

 幸い、虎眼は曖昧では無かった。そして方針を示された。

 ならば、やることは一つ。

 

 

 

 

 

 

 虎子の間では虎眼流の高弟たる虎子たちが揃っていた。

 宗像進八郎、興津三十郎、山崎九朗右衛門、そして藤木源之助の四人だ。

 丸子彦兵衛はこの件について役人と話をしている最中であり、不在だ。

 そして藤木裕次郎は、この場にいない。

 しかし、そのことについて追求する者は誰もいない。そんな場合ではないからだ。

 

 弟弟子をやられた皆の心中は察するに余りあるもので、源之助は包帯を巻いた手を握っていた。

 すると、戸が開いた。

 

 全員が師範たる牛股の姿を見て、心中を乱した。

 

「涼を殺めたるは虎眼先生にあらず」

 

 源之助以外の全員が、ほっ、と息を吐いた。

 曖昧な状態になる頻度が少なく、時間が短くなった虎眼といえども曖昧な状態のときは本当に危うい。気が気でなかったのだ。

 

「この儀、役人に知らせてまいれ」

 

 

 

 

 

 

 ほどなくして役人と話をしていた丸子と合流した虎子たちと、役人たちによる捜索によって涼之介の胴体は近藤家のほど近い藪の中にあった。

 最初に発見したのは涼之介が飼っていた犬であった。

 

 竹を背に預け座り込む、涼之介であった胴体を役人と虎子たちが見聞する。

 胴体に傷は付いておらず、なくなった首から上が、痛ましいなどという言葉を軽くするほどに、無惨なものである。

 

「襟元が血に染まっておらぬ……」

「首を落としたるは脈が止んだ後……」

 

「されば涼が命を奪ったは、柔い顔を縦に割ったあの一刀……!!」

 

 涙を流して悲しむ九朗右衛門を、虎子が背を撫でて慰めていた。

 泣くなど武士にとって恥ずべきことなのかも知れないが、それが身内の、可愛い弟弟子のことであるならば、それを咎めぬ優しさが虎子にあるのだ。

 

 役人が涼之介の胴体を観察しながら、牛股に質問した。

 

「前日……涼之介は牢人者を一匹、成敗してござる」

「牢人者か……」

 

 役人の返事には諦念(あきらめ)があった。

 関ヶ原(せきがはら)以後、幕府によって取り潰された大名の数おびただしく、それによって生じた牢人者は二十二万余にのぼっていた。

 寛永(かんえい)の始め、彼らによる辻斬りが全国的に大流行し、すでに町方に治められる規模ではなかったのだ。

 

 それはつまり……町方役人の力では涼之介を殺めた下手人を捕らえることは、不可能であるという証明である。

 

「そして……この」

 

 役人は胴体の側に落ちていた刀に目をやった。

 その刀はどうやら涼之介のものであったらしく、腰の鞘から抜かれたものであるらしい。

 しかしその刀には大きな皹と亀裂が入っており、とてつもない衝撃が加わったのだというのがわかる。

 

「これは……いったい……」

 

 役人にはわからなかったらしいが、源之助は見抜いていた。

 

 涼之介は下手人と相対した際、技を受けたのだ。

 初見で、一撃で刀をほぼ使用不可能状態に追い込むほどの、謎の技を。

 見事に防いだのだろう。

 しかし、その反撃は届くことなく、涼之介は殺られてしまったのだ。

 

 裕次郎の手ほどきを受けた涼之介ですら葬る謎の下手人を、源之助は脳裏で切り刻むことしかできなかった。

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