シグルってたまるか   作:風袮悠介

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58話・敗北×逃走×敵の狙い

「宗像の兄者!!」

 

 オレは振り向きざま、感じた殺気の方向を見た瞬間に宗像が斬られるのを見た。

 右肘から先を断ち切られ、股間から額に掛けてまで一閃で振り向かれた剣閃。そこで見た、幽鬼のような格好に長髪。

 

 そして、散々原作で見たことがある、特有の構えと斬撃、あの技は!!

 

「っ、伊良子ぉぉぉぉおおおお!!!」

 

 オレが咄嗟に宗像と伊良子に駆け寄ろうとしたとき、後ろでドボンという音が聞こえた。

 思わず、もう一度振り向いたオレが見たのは、さきほどまで伊良子のような格好をした囮が、川に飛び込んで逃亡した姿だった。霧が深い中だ、もう川の中に逃亡した奴の背格好が見えない!

 しまった、視線を逸らした! と伊良子の方を見れば、すでに伊良子の姿は無かった。しかし、遠くで誰かに抱えられて走る姿を見た。

 あれは、あの格好は、まさか検校の手下か!? あの手下が、伊良子を背負って走って逃げる、ここまでが作戦だったのか!

 

 オレは完全にやられた、と確信した。

 なまじ原作を知っているからこそ、原作通りだろうと過信し、それ以外の可能性を全く考えてなかったんだ。

 

 今から伊良子を追うべきか?! それとも宗像に駆け寄るべきか!?

 いや、宗像は確実に死んでしまってる、ちくしょう! 伊良子を追跡する!

 

「そこを動くな!!」

 

 そのときだった。

 オレの後ろ、橋の向こう側から役人が走ってきてる姿だった。

 良かった、これで宗像パイセンを任せて、オレは伊良子を追跡――。

 

「通報があった! 虎眼流の宗像を、同門の裕次郎が闇討ちしてると!! そこに留まれ!!」

 

 ――は?

 オレが、宗像を、殺した?

 誰が、誰がそれを? オレは殺してない。オレは――。

 

 ここに来て、ようやくオレは悟った。

 

 完全に罠だったんだ。

 これは、宗像を狙った罠じゃない。

 オレを、オレに宗像殺しの罪を着せて、復讐劇から弾くための罠だったんだ!

 

 だが、だが誰だ? オレが宗像と一緒に檜垣を討ち取りに行くのを決めたのは、直前だ。伊良子たちがこの情報を掴んだとしても、それを知る術を持つ奴はいないはずだ。

 考えられるのは――。

 

 考えられる可能性は――。

 

「そうか……お前か……っ! 興津ぅぅぅうう!!!」

 

 叫んでは見たものの、正直この可能性は低い。オレは事前に、興津に対しては結構な話をしていた。

 例えこの先岩本家がなくなっても、興津の兄者なら文字の読み書きに算術、そして剣術を教える塾を開設すればいい、その資金なら出す、仮にオレに子供ができた場合、是非とも協力したいとも。

 裏切りの可能性は限りなく低くした。低くしていたはずだ。興津が裏切った原因も、虎眼の親父が曖昧な状態で、三重ちゃんが病んでいたのを見て、岩本家に未来がないと割り切ったからだ。

 

 だが、岩本家は未だに大丈夫。三重ちゃんは少し体調を崩し気味だが原作よりもマシだし、虎眼の親父に至っては曖昧な状態になる時間が凄く短くなった。

 

 興津が裏切る理由は、ない。

 

 伊良子に唆されない限りは。

 

 しかし興津に注目してきたが伊良子が接触したような痕跡はなかったはずなんだ!!

 

「裕次郎! 宗像殺しと涼之介殺しにて着いてきてもらおうか!」

「くっそ、涼之介の罪までオレに着せる腹づもりだな……!」

 

 もはや役人が駆けつけるまでごく僅か、オレが考えられる時間は短い。

 

 ああ、認めよう、伊良子。

 この勝負、オレの負けだ。

 ここから挽回する目はない。

 

 だが、次の勝負では負けねぇぞ。

 

「捕まるわけにはいかねぇから、じゃあな!!」

 

 オレはすぐに役人に背を向け、霧の中、粟ヶ岳の方面に向けて走り出す。

 死んだ檜垣の拠点を間借りするしかない。

 

 伊良子、絶対に許さねぇぞ!!

 

 

 

 オレは役人から逃げるしかなかった。

 そして、敗北したことを痛感させられた。

 

 この恨み、必ず晴らす。

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