シグルってたまるか   作:風袮悠介

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59話・状況確認の鵺

 役人たちを振り切り、檜垣陣五郎の家に辿り着く。すでに太陽は空に昇っていた。

 檜垣の死体は其処ら辺に転がっているのもなんなので、ちゃんと埋めて供養してやる。可哀想だからな。

 

 家に入り込んだオレは瓶から水を柄杓で掬って飲む。夜中からずっと走ってきたので、喉が渇いていたのだ。

 

「ぷはぁ」

 

 少しだけ活力を取り戻したオレは、そのまま柄杓の柄を強く握り……砕く。バキン! と手の中で砕けた木の欠片が、バラバラと土間に落ちた。

 

「許さねぇぞ伊良子清玄……! 必ずその首落としてやる……!」

 

 怨嗟塗れの声で伊良子への怒りをぶちまけた後……オレは冷静になって檜垣の家に上がり込む。布団が敷かれたままだったので、構わずその上に腰を下ろした。

 

「……しかし、ここからどうするか……」

 

 顎に手を当てて、思案する。

 

 悔しいが今回、伊良子の勝ちだ。原作知識を元に先制攻撃を喰らわして終わらそうと思ったが、まさかあそこで協力者を出すとは思わなかった。というか、囮か?

 そのせいで宗像の兄者は殺され、オレは宗像殺しの罪を着せられ、逃げるしかなかった。

 

 全員斬り殺して有耶無耶にして逃げれば良かったな、とあとで思ったのだが後の祭りである。

 役人を殺して宗像の兄者の死体を隠し、そのままこっそりと屋敷に戻って籠もってしまえば完全犯罪完成だ。目撃者ってのは、目撃した奴が全員死んだら口なしなんだぜ?

 

 と、冗談はここまでにして……もうオレは大手を振って掛川を歩くことはできないな。逃げてしまったことで、宗像殺しはオレで決まってしまってる。

 かといって大人しく捕まれば、きっと伊良子の策でオレは殺されてた可能性があった。

 

 オレが死ぬかはともかくだが。

 

 肉体的にはともかく、社会的には殺された。

 

「頭を切り替えよう」

 

 オレは胡座を掻いていた足を組みかえ、腕組みをして目を閉じる。

 今までの反省は終わった。

 これからのことを考える。

 

 まずここから起きるのは、間違いなく虎眼流への報復行為だ。伊良子の姿を見た以上、あいつは必ずやる。というか宗像の兄者をやった時点で決定してる。

 んで、順番としては山崎九郎右衛門、丸子彦兵衛と殺され、そこで興津の裏切りを察知した兄貴を殺して終了である。

 

 終了でいいわけないのだがっ?

 

「いや、そんなことになったら困る……せめて興津だけでも残って欲しい……」

 

 原作興津は未来がないと思って裏切りをしたのだが、今回の興津は裏切りの可能性をできるだけ潰してある。そして、字が書けて冷静に頭を働かせることができる興津がいれば、だいぶ事態が好転する……と思いたい。

 

 だが、これらの状況に対してオレが干渉できる余地がほぼない。

 なぜならばオレが社会的に殺されているからだ。表立って出れば役人が出てきてお縄だ。

 

 くそが。オレという不穏分子を排除するのにこれ以上ない手を打ってきやがった……!

 伊良子の奴、原作以上に策を巡らしてる……!

 しかもオレがこの状況になったせいで、虎眼流のみんなが迷惑を被る形になっちまった。このままだと涼之介殺しまでオレのせいにされかねない。

 

 一応、今回は三重ちゃんが八丁念仏を持って街を駆け巡る事件が起きてないくらいには三重ちゃんの精神は安定してるので、彼女の働きに期待したい。出来るか? するしかない。

 

 だが、ここで天啓を得た。

 

「そうか、オレは社会的に死んでるから。これ以上何かをしても落ちる名声がないのか」

 

 逆転の発想である。

 虎眼流の名を汚す行為かどうかを考えて行動することが求められることがあるが、もうオレの地位と名誉と名声は落ちない。だって同門を殺した悪い奴で、下手したら人相書きがばらまかれてるかもしれないのだ。

 

 もうマイナスに振り切ってしまってるのだがらね。

 

 気にする必要はないか。

 

「よし、そうとなれば」

 

 オレはパン、と膝を叩いて立ち上がり体を伸ばして、気合いを入れ直した。

 

「ここで畑を作って隠れ家にして拠点にしてから、検校と伊良子を殺しに行くかー!!」

 

 正面から検校屋敷に押し入って全員を皆殺しにすれば全て解決だな!!

 

 そのための拠点の作りのために、とりあえず検校の息のかかったところから金やら鍬やらの畑作業に必要なものをかっぱらってくるかー、とオレは切り替えて、拠点を出るのだった。




 ケルバン氏病で手首を痛め、喉風邪を引いて完全ダウンしてました。
 というか完全ダウンしてます。治ってません、どれも。

 だからってエタるのも嫌なので書きました。お待たせしてすみません。
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