太陽が空に昇った頃、さらし首となった進八郎が発見された。
さらに進八郎の口には竹光が咥えられていたとのこと。
町方の検死を終えた宗像進八郎の骸は青みを帯び始めていたが、虎眼流高弟たちは死に装束を着せようとはしなかった。
「太刀筋はやはり下から上……」
「下手人は鈴を殺めた奴と同じ」
「となれば、やはり裕次郎の仕業ではござらん」
興津、九朗右衛門、丸子の三人がそれぞれ、進八郎の骸を観察して出した結論を口にした。
町方役人からは裕次郎が進八郎を殺した、と聞かされていた。
なんでもそういう通報があり、現場に駆けつけると死んだ進八郎と裕次郎以外の誰もいなかったからだ、とのことだ。
しかし虎眼流高弟たちは動じない。そんなはずがないと信じていたし、骸を見て確信した。
この殺し方は、裕次郎のそれではない。
もし裕次郎が同じような殺し方をするならば、そも進八郎の顔すらも真っ二つにして殺している。骸が二つに分かれていない時点で、裕次郎ではない。
だがそれはそれとして、町方役人としては裕次郎の仕業だと断定し、人相書きをばらまいて必ずお縄に掛けると息巻いていた。こうなっては、止めようがない。
いくら虎眼であれど、町方役人を止めることはできない。
止めようと思うなら孕石に進言せねばならないが、裕次郎は孕石にこれでもかと嫌われている。
助力は期待できない。
裕次郎は必ず生き延びてどこかに潜伏し、いつかこっちに連絡を寄越すだろう。それだけの信頼感はある。だから、ここで裕次郎への心配は頭にない。
「宗像は術許しであったな」
牛股が口にまいた布をおろしながら言った。
剣法の奥技の許しには金許し、義理許し、術許しの三つがある。
金許しは多額の金子を受けて、未熟と知りながら免許を与えるもの。
義理許しは主従のあいだ、または何かの情実のために剣技十分でなくとも免許を与えるもの。大名の腕前などは大部分がこれにあたる。
涼之介の中目録も、本来は祖父・伝蔵が虎眼の旧知のために義理許しとして与えられる予定であったが、これを裕次郎が止めた。きちんと術許しとしての腕前になるまで裕次郎が鍛えたのだ。
そして術許しは実際にその技量によって与えられるもので、宗像進八郎の中目録は間違いなく術許しの領域なのだ。
故に、それだけの腕前を持つ進八郎を正面から討ち果たした下手人に対しての警戒が高まる。
「油断したか宗像……正中線を抜かれるとは……いや、これが今の伊良子なのか……?」
だからこそ、高弟たちからはこのような困惑の声があがるのだ。
進八郎の腕前は良く知ってる。それを討ち果たした下手人――伊良子は相当の実力を持つ。
だからといって綺麗に正中線を抜くような斬撃を、防御創一切なしの状態で殺されるというのが信じられないのだ。
「各々、気を引きしめい。敵は相当の者ぞ」
「師範」
牛股の注意に、源之助が冷静に声を挟んだ。
「裕次郎はどうなるのでしょうか」
「放っておく。どうせ町方役人にどうにかできるものでもないし、裕次郎自身が役人に不覚を取るようなものではない。それは藤木、お前が良くわかってるはずだ」
この場で誰も言わずに終わらせようとしていたが、源之助があえて口に出したことで牛股が答える。
「……」
「裕次郎はこのようなことはせぬし、相手方の策に嵌まっただけである。涼之介殺しまでおっ被せられるのは防がねばならない。しかし、あえて助けるような真似はせん。裕次郎は裕次郎で勝手に動くであろう」
「伊良子清玄を仕留めるために、と」
宗像と共に出る前に、裕次郎は今回のことを伊良子清玄の仕業だと断定していた。
「ですが、何故町方役人に言わなかったのですか。今回の件、伊良子ゆかりの可能性がある、と」
「今から言っても信じてもらえんだろうし、それ以上に裕次郎が宗像の死体と一緒にいたという事実を役人が目にしている。これを覆すことはできん。裕次郎の罪を伊良子に着せるための流言、と思われるだけよ」
源之助の意見に九朗右衛門が冷静に返した。
実際に目にされた犯行現場と、予測から発せられた証言。
この二つのうちどちらのほうに信憑性があるかと言えば、間違いなく前者なのである。
今から何を言ってもどうしようもない。
それなら、逃げた裕次郎の動きに合わせてこちらも動くのが一番である。
「わかったか、源之助」
「ですが……」
源之助は納得してない顔だ。
それはそうだろう、裕次郎は源之助の弟だ。源之助としては何が何でも助けたいと思う。
証言を信じられない、という話だが何か手はあるはずだろう、とも思う。
例えば伊良子を捕まえるて証言させるとか、だ。
しかしこれができれば苦労はしない。
ダメだ、と源之助は溜め息を吐いた。己の頭では解決策が浮かばん、と。
結構キツいので、ここまで。
体を治してから、また更新をします。すみません。