シグルってたまるか   作:風袮悠介

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9話・親子喧嘩の形にすれば、終わるかもしれねぇ

 幾度となく殴られ、

 幾度となく投げられ、

 幾度となく折られ、

 幾度となく潰され、

 幾度となく吹っ飛ばされ、

 幾度となく、幾度となくを繰り返す。

 

 いつの間にか部屋はオレの血と吐瀉物塗れになっていて、汚部屋と化していた。

 その只中に立つのは、オレと虎眼。

 

 オレも、虎眼も、息を切らしていた。

 

 オレは言わずもがな、この数時間虎眼に挑み続け、何度も何度も致命傷を与えられ、それでも挑み続けたからだ。チートを得た体であっても、ギリギリで躱していても受けていても、体力の快復が消耗に追いつかないほどになっている。

 砕かれた頬、折れた指が、徐々に元に戻っていく。何故か出血しても死なない体だが、もうどうでもいい。

 

 片や虎眼も息を切らしていた。

 

 子供相手とは言え、休憩なしの数時間稽古、しかもオレは何度も致命傷を与えても、即死でなければ立ち上がり襲いかかってくる。

 ゾンビ戦法を取るような相手と戦ったことのない経験が、未知の体験が、熟達に至った老剣鬼の体力を削っていた。

 

 それをジッと、正座しまま見る源之助アニキ。何も言わず、もう止めるようなこともせず、オレを見ていた。オレと、虎眼の戦いを見ていた。

 

「どうしても」

 

 虎眼が口を開いた。

 

「どうしても岩本にならぬと申すか」

 

 その言葉はどこか、怒りとは別の何かを感じる。肩で息をしながらも、その眼力衰えることを知らぬ。

 

「くどい。オレは源之助アニキの弟だ。たった一人、親に捨てられ兄弟に見放されたオレに残された、かけがえのないアニキなんだ。

 その繋がりを否定させねぇ、切れさせやしねぇ、ふざけんなじゃねぇぜこの野郎」

 

 ちょっとラッパーっぽくやってみた。ちょっと余裕が戻ってきた。

 体力も戻ってきてな、ヨシ!

 

「じゃあ」

「よい」

 

 ふ、と虎眼の体から闘気みたいなもんが消えた。

 

「ならば、もうよい」

 

 ……は?

 

「え、いや、いいのか……ジジィ……??」

「その代わりに、裕次郎。藤木家の嫡男となれ」

 

 ……? ん? 今、何を言われた?

 

「どういうこと?」

「裕次郎を藤木家の嫡男とし、源之助を弟とする」

 

 虎眼、いや、ジジィは言った。

 いや、その、意味がわからねぇ。

 

「なんでさ」

「藤木家は、うぬらによって子がおらぬ」

 

 うぐ、それは否定できねぇ。

 

「よって、藤木家に入るならばどちらかがお家を継がねばならぬ」

 

 否定できねぇな。オレは完全に構えを解いて腕を組む。

 

「そらそうだ」

「お家を継ぐに相応しきものならば、裕次郎、うぬが」

「いやジジィ、何を企んでる??」

 

 オレはキッパリと言ってやった。

 

「さっきは岩本家に来いといい、今度は藤木家を継げという。だから、なんだ? 源之助アニキの、とりあえず名ばかりの兄になれと? それはちょっとおかしいだろ?」

 

 オレの指摘に対して、虎がn……ジジィは何も言わない。

 さっきまで岩本家に入らないからこそ、こんな殴り合いの喧嘩……殺し合い? をしていたわけで。

 なのに岩本家に入らないなら藤木家を継げという。

 ちょっとわけがわからない。何を考えてるのかわからない。

 目的が見えねぇ。

 オレに何を見てる??

 ちょっと情報がなさ過ぎて判別しづれぇ。

 

「何を企んでる?」

「受けぬと申すか?」

「いや質問してるのはこっちだが……まぁ……それも嫌だし……」

 

 パシン、と虎眼がオレの頬を叩いた。

 さっきまでと違う殺す気のものではなく、ただ聞き分けのない子供をしかるような感じだ。

 

 さっきまで死ぬような打撃を受けてたから、もうこれを痛いと思わねぇ。

 

「うけぬと申すか」

「理由がわからなさすぎて……」

 

 パン、ともう一度叩かれる。おかしい、手加減をしてるのかこれは?

 

「叩いてもオレは言うこと聞かねぇぞ。言うことを聞くんなら、最初の一撃で言うことを聞いてる。ちゃんとした理由もわからねぇのにさ、引き受けるわけなくない?」

 

 オレが指摘しても、虎眼は黙ってオレの頬を叩くのみだ。ぺし、と……今度は、もっと軽い。

 幼子を躾けているような手応えだ。

 何がしたいのかわからなくて怖すぎない? 原作虎眼よりも不気味な何かを感じるよぉ!

 

「まぁ、その、なんだ。なら、親父と呼べばいいか?」

 

 ピタリ、と虎眼の手が止まった。

 お、これか? なんとなく言ったことだが、虎眼の望む何かに引っかかったかもしれねぇな。

 

「わーかった、わかったよジジイ。そのー、なんだ。名字や血の繋がりはねぇけどよ、オレはもう両親に捨てられた、親という親はいねぇ。

 だから、まぁ、あんたを親父と呼んで、そう慕わせてくれ。それでいいか?」

「それでよい」

 

 間髪入れずにジジィが答えてきた。

 なんだこいつ、何を考えてんだ? マジでわかんねぇ。

 

 ジジィは息を整えると、振り返ってアニキを見た。

 気づかなかったけど、アニキはオレの血反吐がぶちまけられた部屋の隅で、オレの血反吐に塗れたままだった。じっと正座をしたまま、オレをジッと見ていた。

 それに気づいて、オレは慌てた。

 

「ご、ごめんアニキ!! その、汚ねぇよな!? ごめん、拭くものを」

 

 アニキはオレに向けて手をかざして止める。どうやら、いらないらしい。

 しかし、どうすりゃいいんだコレ……部屋もボロボロでドロドロ、アニキとオレの服もめちゃくちゃだ……思わずジジィの顔を見た。

 

「ジジィ、これって」

「親父だ」

「え」

「親父と呼べ」

 

 ……。

 

「親父、これ、どうすんの?」

「金子を積ませて黙らせるのみよ」

「ダメだったら」

「切り捨てる」

 

 ……。

 

「ごめん、アニキ」

 

 オレは改めてアニキに謝ることしかできなかった。

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