幾度となく殴られ、
幾度となく投げられ、
幾度となく折られ、
幾度となく潰され、
幾度となく吹っ飛ばされ、
幾度となく、幾度となくを繰り返す。
いつの間にか部屋はオレの血と吐瀉物塗れになっていて、汚部屋と化していた。
その只中に立つのは、オレと虎眼。
オレも、虎眼も、息を切らしていた。
オレは言わずもがな、この数時間虎眼に挑み続け、何度も何度も致命傷を与えられ、それでも挑み続けたからだ。チートを得た体であっても、ギリギリで躱していても受けていても、体力の快復が消耗に追いつかないほどになっている。
砕かれた頬、折れた指が、徐々に元に戻っていく。何故か出血しても死なない体だが、もうどうでもいい。
片や虎眼も息を切らしていた。
子供相手とは言え、休憩なしの数時間稽古、しかもオレは何度も致命傷を与えても、即死でなければ立ち上がり襲いかかってくる。
ゾンビ戦法を取るような相手と戦ったことのない経験が、未知の体験が、熟達に至った老剣鬼の体力を削っていた。
それをジッと、正座しまま見る源之助アニキ。何も言わず、もう止めるようなこともせず、オレを見ていた。オレと、虎眼の戦いを見ていた。
「どうしても」
虎眼が口を開いた。
「どうしても岩本にならぬと申すか」
その言葉はどこか、怒りとは別の何かを感じる。肩で息をしながらも、その眼力衰えることを知らぬ。
「くどい。オレは源之助アニキの弟だ。たった一人、親に捨てられ兄弟に見放されたオレに残された、かけがえのないアニキなんだ。
その繋がりを否定させねぇ、切れさせやしねぇ、ふざけんなじゃねぇぜこの野郎」
ちょっとラッパーっぽくやってみた。ちょっと余裕が戻ってきた。
体力も戻ってきてな、ヨシ!
「じゃあ」
「よい」
ふ、と虎眼の体から闘気みたいなもんが消えた。
「ならば、もうよい」
……は?
「え、いや、いいのか……ジジィ……??」
「その代わりに、裕次郎。藤木家の嫡男となれ」
……? ん? 今、何を言われた?
「どういうこと?」
「裕次郎を藤木家の嫡男とし、源之助を弟とする」
虎眼、いや、ジジィは言った。
いや、その、意味がわからねぇ。
「なんでさ」
「藤木家は、うぬらによって子がおらぬ」
うぐ、それは否定できねぇ。
「よって、藤木家に入るならばどちらかがお家を継がねばならぬ」
否定できねぇな。オレは完全に構えを解いて腕を組む。
「そらそうだ」
「お家を継ぐに相応しきものならば、裕次郎、うぬが」
「いやジジィ、何を企んでる??」
オレはキッパリと言ってやった。
「さっきは岩本家に来いといい、今度は藤木家を継げという。だから、なんだ? 源之助アニキの、とりあえず名ばかりの兄になれと? それはちょっとおかしいだろ?」
オレの指摘に対して、虎がn……ジジィは何も言わない。
さっきまで岩本家に入らないからこそ、こんな殴り合いの喧嘩……殺し合い? をしていたわけで。
なのに岩本家に入らないなら藤木家を継げという。
ちょっとわけがわからない。何を考えてるのかわからない。
目的が見えねぇ。
オレに何を見てる??
ちょっと情報がなさ過ぎて判別しづれぇ。
「何を企んでる?」
「受けぬと申すか?」
「いや質問してるのはこっちだが……まぁ……それも嫌だし……」
パシン、と虎眼がオレの頬を叩いた。
さっきまでと違う殺す気のものではなく、ただ聞き分けのない子供をしかるような感じだ。
さっきまで死ぬような打撃を受けてたから、もうこれを痛いと思わねぇ。
「うけぬと申すか」
「理由がわからなさすぎて……」
パン、ともう一度叩かれる。おかしい、手加減をしてるのかこれは?
「叩いてもオレは言うこと聞かねぇぞ。言うことを聞くんなら、最初の一撃で言うことを聞いてる。ちゃんとした理由もわからねぇのにさ、引き受けるわけなくない?」
オレが指摘しても、虎眼は黙ってオレの頬を叩くのみだ。ぺし、と……今度は、もっと軽い。
幼子を躾けているような手応えだ。
何がしたいのかわからなくて怖すぎない? 原作虎眼よりも不気味な何かを感じるよぉ!
「まぁ、その、なんだ。なら、親父と呼べばいいか?」
ピタリ、と虎眼の手が止まった。
お、これか? なんとなく言ったことだが、虎眼の望む何かに引っかかったかもしれねぇな。
「わーかった、わかったよジジイ。そのー、なんだ。名字や血の繋がりはねぇけどよ、オレはもう両親に捨てられた、親という親はいねぇ。
だから、まぁ、あんたを親父と呼んで、そう慕わせてくれ。それでいいか?」
「それでよい」
間髪入れずにジジィが答えてきた。
なんだこいつ、何を考えてんだ? マジでわかんねぇ。
ジジィは息を整えると、振り返ってアニキを見た。
気づかなかったけど、アニキはオレの血反吐がぶちまけられた部屋の隅で、オレの血反吐に塗れたままだった。じっと正座をしたまま、オレをジッと見ていた。
それに気づいて、オレは慌てた。
「ご、ごめんアニキ!! その、汚ねぇよな!? ごめん、拭くものを」
アニキはオレに向けて手をかざして止める。どうやら、いらないらしい。
しかし、どうすりゃいいんだコレ……部屋もボロボロでドロドロ、アニキとオレの服もめちゃくちゃだ……思わずジジィの顔を見た。
「ジジィ、これって」
「親父だ」
「え」
「親父と呼べ」
……。
「親父、これ、どうすんの?」
「金子を積ませて黙らせるのみよ」
「ダメだったら」
「切り捨てる」
……。
「ごめん、アニキ」
オレは改めてアニキに謝ることしかできなかった。