シグルってたまるか   作:風袮悠介

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10話・娘さんと出会ってみる

 結局、虎眼は藤木家に金子を多めに積んで黙らせ、オレとアニキを連れて旅立つ。

 正直逃げたくて、というか逃げようとしたのだが逃げられなかった。

 旅の途上で逃げようとするたびに虎眼こと親父が襲いかかってきて反撃せざるを得ないので、止めた。アニキに迷惑が掛かるし周辺にも被害が出る。

 

 だが、オレの体の把握は大分できた。

 

 まず、即死しなければあっという間に体が快復する。

 これは体力を消耗し、損傷箇所が元に戻るような感じだ。目玉が潰れようが骨が折れようが肉が裂けようが関係なく、死なければ再生が開始する。数秒もすれば元通りだ。

 だが、体力は消耗する。子供の体であることも関係してると思うんだが、にしたって疲労感はある。普通とは逸脱してるけど。

 もちろん、即死すれば死ぬ。試す気にはならないが。

 そして、再生すれば体が適応して身体能力が少し上がる。

 あくまでも少しだけな。劇的に上がるわけじゃない。一回再生したからって完璧に相手の攻撃に対応できるわけじゃない。でもとっかかりができると思う。

 親父の攻撃を何度も何度も受けたとして、結局親父に一撃叩き込めなかったしな。

 

 次に、殺気や致命傷に至るような敵意ある攻撃に対し、その体の部分に寒気を感じることだ。

 例えばジジイこと親父の斬撃が袈裟切りで切りつけられるなら、肩口から脇腹に掛けて氷を当てたような冷たさを一文字の形で感じるわけだ。

 拳の場合は氷の塊を当てたような感じになる。だから殴り合いの喧嘩のときに、拳が来るなってわかったんだよな。

 ただし、そこにいつ来るかはわからない。

 感じた時点で来るのは確定してるんだが、例えばフェイントを掛けてきたら一拍子ほど遅れてくるわけだ。感じました、はい来ます! とはならんわけだ。

 あと、感じたからって確実に避けられるわけでもないのもポイント。

 来るのはわかる、でも避けられない拍子や防げないタイミングだってあるわけだ。

 虎眼の親父の攻撃は実際、来るとわかっててもどうしようもなかったし、防御した腕や足の方が破壊されてたし、その後に体勢を崩されて拳を顔面に喰らったりもした。

 

 チートと言えばチートかもしれないけど、完璧なチートじゃない。

 なんせ、これだけの能力があってもシグルイキャラは強い。

 

 日本刀をぶった切るわ、木刀で肉体を粉砕するわ、素手で相手の骨を粉砕するわと極まった暴力を持ったやつらばかりだ。

 生き残れる確率が上がっただけで、即死攻撃を喰らえばその時点で死ぬ。

 首を切られるとか、四肢を切り落とされて一瞬で血液が流れ出て出血性ショックになるとか、心臓に刀をぶっ刺されて捻られて破壊されるとか、そこまでやられたら死ぬ。

 簡単に言うと、虎眼の親父の流れ星で首を切り落とされるとか、源之助アニキの鍔迫りで胸骨や心臓を一気に破壊されるとか、伊良子の無明逆流れで股から脳天まで一気にぶった切られたら死ぬだろうな。

 

 だけど、死なずに意識を保てるなら死なないだろう。

 もしかしたら、シグルイによくある「三寸切り込めば死ぬ」を避けられるかもね。試したくないけど。

 

 眼に関してはよくわからん。敵の攻撃を受けて真似ができるのもチートかと思ったが、なんか違う気がする。

 いつの間にか親父の攻撃を受けて真似はできてたが、これはチートとかじゃないと思う。

 源之助アニキ曰く「痛くなければ覚えませぬ」理論で、痛すぎるし死にかけたから覚える速度が速いから、かもしれない。

 それに、オレは簡単には死なない。

 死なない以上、敵の攻撃をしっかりと見て判断できる余裕がある。痛みや傷を無視して攻撃を眼でしっかり見て判断して、それを受け入れる頭ができていればこその技能だろうな。

 

 そんなことを考えながら日々を過ごしていると、いつの間にか遠江国掛川藩に着いたらしく、立派な武家屋敷と道場の前に立った。

 ちなみに遠江国(とおとみのくに)ってのは静岡県西部辺りにことな。掛川藩はそのまま掛川市になってる。

 有名な話だと戦国時代にこの地を支配していたのは今川氏だったりとかね。

 だけどまぁ、今川義元が織田信長によって桶狭間の戦いで討たれ、跡を継いだ今川氏真の力不足もあって今川氏が衰退した結果、よそから侵攻されたりと散々なことがあったりする。

 

 虎眼の親父に案内され、オレとアニキは門を潜る。

 

「おかえりなさいませ、先生」

 

 と、潜った瞬間に横合いから話しかけられた。

 この、この野太い声は……!!

 

「うむ、帰ったぞ権左」

 

 この長身に大柄な体、朴訥に見えるようで作中屈指の狂人、虎眼流の師範を務める男……!!

 こ、これが本物の牛股権左衛門!

 ぶっとい首にぶっとい体、手の内には巌のような剣ダコができてる。

 

 見ただけでわかる、強い人だと!!

 

「お勤めは無事に……そちらの童は?」

「親に捨てられたようだから、儂が拾ってきた。藤木家に養子を承知させてな」

「新しい虎子ですか」

 

 でかい、でかい顔がオレと源之助アニキを観察している。オレの体を、源之助アニキの体を見て、どれだけできるかを計ってるんだろう。

 思わずビビったオレだが、源之助アニキは牛股をジッと見ている。視線を逸らすことはない。

 

 やっぱすげぇぜ源之助アニキは、胆力が半端ねぇ!

 

 牛股は源之助アニキを見て満足そうに頷いている。どうやらビビらないアニキの方を気に入ったらしい。

 良かった……こいつに気に入られても困る……素手去勢するような奴に気に入られても……。

 

「うむ」

「稽古はいつから」

「明日より」

「わかり申した」

 

 牛股は虎眼の親父に礼をすると、道場の方へと歩いていった。

 道場の方からは気勢の良い声が響いてくる。どうやら稽古中だったらしい。

 牛股の後ろ姿をボーッと見てると、虎眼の親父が歩き出していた。源之助アニキも着いていってしまっている。

 オレは慌てて追いかけた。

 

「おい、虎眼の親父」

「うむ」

「いきなりオレたち、明日から稽古しないといけないのか!?」

「当たり前だ」

 

 虎眼の親父が玄関に入ると、小間使いの人たちが出てきた。

 

「おかえりなさいませ」

「うむ、帰った」

「そちらの童は?」

 

 小間使いの人がオレたちを見て虎眼の親父に訪ねている。

 虎眼はオレたちをちらと見たあとに言った。

 

「虎子になる。良きに計らえ」

「はい」

「ちょっと待てよ親父」

 

 ここまでいきなりすぎて話に着いていけない。

 明日から稽古になるわ、ここでの振る舞いを聞かされてないわで困惑するわ。

 虎眼の親父に呼びかけたものの、親父は小間使いの人に草鞋を脱がせてもらっていた。

 

「!?」

 

 だが、俺以上に驚いたのは小間使いの人たちだ。

 オレが親父と呼んだ瞬間に、全員が驚いてオレを見た。何を言ってんだこいつ、どういう態度してんだ!? と思ってるんだな。

 あ、やべ、と思ったが遅かった。

 

「旦那さま……こちらの童は?」

「儂の養子にする」

「呼び方だけな」

 

 虎眼の親父の言葉を遮るように言ったら、再び小間使いの人がめちゃくちゃ驚いた。驚きすぎじゃねぇか……いや、驚くか。

 

「一応、オレも藤木家の次男坊として養子になったんだろうが。親父を親父と呼ぶが」

「ならば、儂の養子と変わらぬ」

「そうかなぁ……そうなのか???」

 

 よく考えたら、今は徳川家光の治世。江戸時代初期だ。

 戦国時代が終わって戦を知らない将軍が世を統べる日の本。世の中では強烈な封権社会制度のままだ。

 そんな世の中で、よその家の養子になった子供が、三百石の武芸師範役当主にタメ口を利いて親父呼びとか、失礼ってレベルじゃない。

 

「身なりを整えて、儂の元に来い」

 

 虎眼の親父は草鞋を脱ぎ終わると、さっさと奥へ行ってしまった。

 源之助アニキも、いつの間にか草鞋を脱いでいた。早い早い。

 

「あ、待ってくれアニキ、おい」

 

 だが源之助アニキは小間使いの人の案内で奥に行ってしまった。こっちをチラチラ見ていたが、小間使いの人の案内で渋々って感じだ。

 一人だけ残された……え? オレ、一人だけで草鞋を脱いでどうにかしろと??

 

「あ、くそ、これどうやって脱ぐんだ……よし、脱げた!」

 

 急いで草鞋を脱いだオレは、玄関から奥へと早足で急ぐ。

 しかし廊下の角を曲がったところでこの先どこへ行けばいいかわからない。

 似たような内装だからさぁ! マジでわかんね!

 

「くっそ、どこに行けばって」

「きゃ」

 

 曲がり角を急いでいたら、向こうから来た人とぶつかってしまった。

 

 咄嗟にその人物が倒れる前に手を差しのばして抱き寄せる。体が小さかったから、こちらへ引っ張ったら勢い余ってしまった。

 

「あ、ご、ごめん……なさい……」

 

 慌てて離れたところにいた人は、オレが今世で一番会いたくなかった人物。

 虎眼も牛股も伊良子も、確かに会いたくない。下手したら死ぬ。

 だがこの人物は死ぬというよりも不幸になるとしか思えないほど、周囲に不運を撒き散らす美少女。

 

「あの、あなたは……?」

「え、あ、はい」

 

 岩本三重。

 虎眼の一人娘、可憐な美少女で死神が、オレの前にいた。

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