15話・目指せ、舟木流攻略ルート! そして屈木、お前は殺す
やぁみんな、元気にしてるかな?
虎眼流の藤木裕次郎くんだよ。
元和九年、
「おはよーございます! 今日も一日宜しくお願いします!!」
「帰れ」
えぇ……牛のおっさん……どうして……。
道場に来たら門弟のみんなと源之助アニキ、伊良子の兄者と牛のおっさんが勢揃い。
勢いよく挨拶したら牛のおっさんから帰れ宣言されちゃった……。
「牛のおっさん、冗談はつまんないぞっ? ほら、前にちゃんと稽古に参加しろって言ってたぴょん? だから裕次郎、この一年間ちゃんと参加してるぴょん?」
「その気色悪い喋りを止めぃ。おぬし、何を考えている?」
「何をって……ちゃんと稽古に参加してるじゃん……? ちゃんと稽古で指導してるじゃん……? 何が不満なのよ! 倦怠期なの!? アタイに飽きたの!?」
「やかましい! そのわけのわからぬ言葉使いを止めんか!! おぬし、いちいち伊良子と稽古をしようとして伊達にしようとしておるだろうが!!!」
あ、バレた?
「てへ……」
オレはお茶目に頭を小突いてウィンクして舌を出し、可愛さアピールをしてみる。
「ふん」
ぐしゃ。
そんなオレの右頬を、牛のおっさんの虎拳が突き刺さった。手加減一切無し、舌を深く噛んで顎が砕ける感触と激痛のまま、オレは吹っ飛んだ。
明らかに血を撒き散らして倒れたオレに、伊良子が駆け寄ろうとした。
「卍しゅ、裕次郎、だ、大丈夫か?」
「伊良子、心配せんでいい!」
それを牛のおっさんが止めた。なんだよ、もう、容赦ないな。
すでに傷は完全に癒えており、オレは血を拭って立った。
「いてぇな! 容赦なさ過ぎだぞ! オレじゃなきゃ死んでる!」
「死なぬ裕次郎を信頼して殴っておる」
「え? そう? えへへ……信頼か、嬉しいじゃないかっ」
「裕次郎。それは信頼じゃないと思う」
源之助アニキが冷静にツッコんでくるが、とりあえず話を戻さねば。
「た、確かに伊良子を伊達にしようとしてるけど……そ、それはもう止めるから……」
「裕次郎、己はさすがに命まで狙われておると思うから、己も裕次郎との稽古は」
「黙れ伊良子の兄者!!!!! この理性蒸発キン〇マ服従剣士が!!!!! オレは知ってるぞ、お前、今度は銭湯のおやっさんの娘に手を出そうとしやがったな!!!!」
オレの指摘に、伊良子は明らかに動揺した表情を浮かべた。
「オレの知り合いにはお前のキン〇マ服従思想を伝えておいたからな……みーんな警戒してるぞっ。だが罰だ、貴様のキン〇マに消えない傷を」
「道場でキン〇マキン〇マ叫ぶでないわ馬鹿者!!」
今度はゲンコツをくらった。いてぇ、頭蓋骨が砕けそうっ。
「牛のおっさん、オレが士不適格ならこいつはどうなんよ!? 伊良子はこの美貌を利用して女の子を引っかけてるんだよ!?」
「そこは注意しておる」
「でも守ってないじゃん!! こういう美剣士が町の女の子を片っ端から引っかけるからオレのような凡人は女の子に好かれないんだ……凡人の敵ですよ! オレのように女の子に好かれない男の天敵っす!!」
「え」
なんだよ、牛のおっさん……その顔はなんだよ??
「いや、それは、まぁ、あとで伊良子にも注意しておく。伊良子も、やたらと女人を引っかけるでない、よいな?」
「いや、己はひっかけてなど」
「ほら、誤魔化してますよ! キン〇マに屈してるんだ!!」
「そろそろ本気で怒るから止めろ、裕次郎」
「ゴメン、源之助アニキ」
「ほんと、ほんっと、お前はなんで藤木の言うことなら……!! もうよい、さっさと稽古を始めるぞ!!!」
はぁ、とオレは溜め息を吐いて伊良子を見る。彼の肩がビクッと震えた。
「とにかくっ。オレの知り合い周辺で女の子を引っかける真似は止めろ。あと、変に女の子を誘惑するな。いいな?」
「だから己は」
「い、い、な?」
オレがギロリと睨むと、伊良子は何も言わずに俯いてしまった。
返事がない、こいつ必ずどこかでやるな?
伊良子清玄が入門して一年が経とうとしている。
初期の頃からオレは伊良子を伊達にするついでに殺そうとするが、悉くを牛のおっさんに止められてしまっていた。
まぁ同門同士で殺し合いとか殺人行為なんて許容されるわけがないんだが。
伊達にしようとしなければ牛のおっさんは稽古を許可してくれるから、殺すつもりはなく屈服させるつもりでキツめで完全勝利する形かつ指導の
全戦全勝、とにかく折れさせるつもりだが、こいつなかなかガッツがある。そこは見所はある。
それはそれとして、伊良子の女グセの悪さを前に、本当に辟易としているんだよ。
まず、道を歩いているだけで女性が振り向く。イケメンだから。
すれ違う時も顔を紅くして照れてる女性だらけ。イケメンだから。
そして伊良子も、そうやって魅了された女性を引っかけてしまう。イケメンだから。
ヤリ〇ン糞野郎だよ、本当に。
源之助アニキに対しては舐めた態度を取るし、牛のおっさんには媚びつつも下に見てるし、他の門弟たちなんて眼中にない態度。
稽古は真面目にやってるんだけど、原作のように稽古が終わったら涼しいところで寝てる。改めて見たけど、寝ながらも手と足が動いてた。
多分だけど、寝てる最中、夢の中でさえも稽古をしてるんだろう。だから体の各所が反射してしまっている。
ここら辺はマジで天才なんだな、と思った。
それはそれとして、やはり伊良子の態度は舐め腐ったもんだ。時折、オレを介してならみんなと仲良くできなくもないが、それがなければとにかく己のことしか頭にない。
実際、牛のおっさんの注意も馬耳東風だしな。
ただ、オレの警告はよく聞くところはある。
女性を引っかけるな以外、態度や挨拶は結構改善が見られている。
さすがに最初のように仮面を被ったみたいな態度ではなくキチンと挨拶してるな、とは思うけど、それはオレがいるときだけなんだ。
他の門弟に聞いたけど、オレがいないときはいつもと変わらんだとか。
なので、できるだけ稽古に参加して伊良子と試合をしようとするが、牛のおっさんのせいで上手くいかない。どうしても指導稽古に留まって叩きのめす三歩前程度に終わる。
これはダメかもなぁ……と内心諦めてる。
どこかで伊良子はいくを引っかけるわこれ、と。
で、親父がキレてボッコボコにするだろうな、と。
そうなったら復讐ルート突入でどうしようもない。
伊良子は伊良子で天才だから、なんだかんだで強くなって虎眼の親父を殺すだろう。
虎眼の親父も強くなってるが、それでも老齢だからな……。
復讐ルート突入ならば、どこにいるかわからない伊良子を探すよりも親父の側で警護して、襲いかかってきたところを返り討ちにしてやればいい。
だが、最悪の想定は必要だ。
「どうしたもんかなー」
オレは自室と化した座敷牢で考える。
どうすれば伊良子の復讐を止められるか、そして貝殻事件を上手く乗り越えるか、もし虎眼流が落ちぶれたときどうするか、と。
「もし伊良子がやらかしたら……でも虎眼流を助けてくれる他流派ってのがないからな……」
改めて思うが、本当に虎眼流は味方がいない。
オレが伊達にするのを止めたり周辺の人たちと交流してるから味方を増やしてるとは思うが、いざという時に助けてくれるか? と思うと不安だ。
なんせオレはともかくとして、他のみんなは骨の髄まで虎眼流。
やらかすところは変わってないしなぁ。
となればオレがやるべきことは、と思って机の前に座って、紙に墨で図解を書く。
簡単に時系列と関係性をメモって、整理してみる。
まず虎眼流にほぼ味方がいない。
次に伊良子が来て一年。
そろそろ起こるイベントとしては……。
「半年後に
すっかり忘れてたオレは、思わず叫んでしまった。
そうだ、そろそろあの事件が起こるんだ!
結局二人は双子を殺したのだが、肝心の虎眼は曖昧な状態で認識してなかったんだよな。
で、この兵馬と数馬ってのは有名な「ぬふぅ」ミームの奴だ。ホモ双子やな、ホモはやべぇって……止めよう、この世界に来てまであんな営業はしたくない。
しかし、強さは本物……の筈だった。
双子が使う剣術は、舟木家特有の怪力の特性で繰り出される兜割、て奴だ。上段構えから振り下ろすだけの単純な剣なんだけど、ほぼ防御不可能。間合いに入るのは死を意味する。
受けたら受けた刀ごと頭に剣がめり込むハメになる。
しかも二人とも大柄な体型をしてるもんだから、威圧感まで凄いんだよ。
でも結局、源之助アニキの秘伝技「流れ」と伊良子の兄者の不意打ちであっという間に負けたから、強いって印象がないのよ。
一瞬でやられたからね、いわゆる虎眼流チュートリアルだよ。憐れだね。
そこでオレはさらに考えた。
確か舟木流は屈木頑之助って奴に娘の千加を執着され、最終的に行き遅れて徳川忠長のところにやられて悲惨な目に遭う。
オレ、実は結構千加のことは好きなんだよ。あの豪放磊落さとか。
あとで調べたけど、あの娘の体は陰核肥大という病気というか体質というか、ちゃんと名前があるもので、ちゃんと向き合えばなんとかなるものなのよ。
よし、とオレは決めた。
「虎眼流の味方作りのために、舟木流に留学して兜割を習得しつつ、屈木頑之助をぶっ殺して舟木流に恩を売って、虎眼流に対する悪感情を払拭して味方になってもらう! これだ!
そういや舟木のじいさんは虎眼の親父と因縁があったはずだけど、なんか……たしか下顎を吹っ飛ばしたらしいからちゃんと謝っておこ! オレ、一応虎眼の親父の義理息子って立場だし! なんとかなるなる!」
勢いのまま予定を決めて、部屋を片付け置き手紙をし、誰もが寝静まる夜中に出発した。
人生は勢いだ! 行くぜ、日坂!!
裕次郎くんは全てをその場の勢いで決めてます。
追記:申し訳ないのですが、資格試験のためお休みさせてください。
次回更新は4/14からです。宜しくお願いします。