シグルってたまるか   作:風袮悠介

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待たせたな。
すまんな。疲れてるのは事実なんだ。でも、この話を書いたときにどうするか、ものすごく迷って筆が止まってしまってたんだ。
迷った末にこう書いたんだ。

というわけで、よろしくお願いします。


23話・夜這いするキミへ贈る言葉

 そろそろ寝るかと思って座敷牢の布団に入り、うつらうつらとした頃のこと。

 何やら座敷牢の外の鍵がガチャガチャとイジられる金属音に意識を覚醒してた。

 

「なんで裕次郎は座敷牢に籠もって自分で鍵を掛けるんだ……!」

 

 女性の声だな、とオレが完全に目を覚ますと、なんかこの展開覚えがあるなぁ、と脳裏に浮かぶイメージ。

 そうだ、これ、この声は確かちーちゃんのもので、確か原作だと夜這いだったな――。

 

 気づいた瞬間一気に身体を跳ね起きて布団から出た。

 壁に立てかけてあったオレの刀を手に取り、いつでも抜刀できるように構える。

 

 がちゃり、と開いた座敷牢に入ってきたちーちゃんは、なんと襦袢一枚じゃないか。しかも肩からはだけさせてこちらに近づいてきていた。

 のだが、オレの様子を見て少したじろいている。

 

「え、あ、ちーちゃんか……どったの? こんな夜中にそんな薄着で」

 

 正直夜這いってのも気づいてるし、敵が闇討ちを仕掛けてきた以上に心臓がめちゃくちゃ鼓動を早めているのだけど、薄暗い座敷牢なので膝の震えを誤魔化すように平気な声で答えた。

 刀を壁に立てかけて、あえてわかんないって面で布団に戻って横になる。あえてちーちゃんに背中を向ける形にした。

 

「早く戻りなよ、夜は冷えるし。それともなんか用事?」

 

 嘘です、夜這いを掛けられたのかと思ってドキドキしてます。

 でもここで行為に及ぶのは抵抗がある。だってここ、座敷牢だし。

 あと女性経験が前世と今世、どちらもないので精一杯平気なフリをしてるだけ。

 

「気づかぬふりか?」

 

 ちーちゃんはオレの布団の側に座ると、しゅるりと何かを脱いだ音が。いや、襦袢しかないんだが。ないんだが!

 

「裕次郎……」

「ち、ちーちゃんっ」

 

 さすがにここまで来たら誤魔化すのはムリだ、寝返って落ち着けという前に、ちーちゃんの両手がオレの顔面を掴んだ。

本人は優しく添えてるつもりだけど、なんか力が籠ってる。

 又八くん。キミは原作で感動してたけどさ。実際にやられると瓜のように潰されるんじゃないかと恐怖で一杯だよ。凄いね、キミは度胸に溢れているよ。

 んでさ、死の恐怖で我が愚息が生存本能全開になるんだ。怖いね、男って。

 

「千加が全力で当てても平気な男は、裕次郎が初めてじゃ。裕次郎だけじゃ」

 

 そらそうだろう。あんな腕力の全力で当ててたら又八くんの内臓がひっくり返っとるわ。

 だが、薄暗いちーちゃんの、千加の裸はうっすらと筋肉が浮かび、健康的かつ活動的な妖しさを放ってる。正直、綺麗だと思うほどの健康美溢れる肢体なんだ。

 又八くんが興奮するのもわかる。

 

 凄いよね、両手で顔面を掴まれてる状況、オレにとっては本当にいつ潰されるかわかんなくて怖さしかないんだ。

 又八くんはすげぇよ。この恐怖を微塵も感じてないんだからさ。

 

 身体を起こして抵抗する前に、ちーちゃんの顔面が目の前で一杯になった。

 唇と唇が触れる――前に、その間にオレは人差し指を挟んだ。

 

「ちーちゃん。そういうのは好きな奴とやるべきだ」

「……女が夜這いをかけてるのを、好きではないというのか?」

「あ、いや、そらそうなんだけどさ。もっとこう、なんというかさ」

 

 しどろもどろになりながら答えるのだが、ちーちゃんはさらにオレの身体の上に来るようにしてきた。いかん、抑え込まれる形になってるっ。このままだと潰されるっ!

 女性が夜這いを掛けてくるってかなり興奮するシチュだと思うけどさぁ!

 

「大丈夫。営みの手順は兄から十分にされてる」

「あんの双子がっ」

 

 そういや原作でも小さいちーちゃんを相手に、双子が手ほどきしてたわ!

 保健体育の授業だってもうちょっと段階を刻んで教えるだろうがっ。

 

 オレが葛藤していると、とうとうちーちゃんがオレの上に乗っかってくる。腹の上に馬乗りになる形だ。さらにオレの両腕を上から押さえてきた。

 抵抗しようとするが、さすがに体勢が悪すぎるのと状況が状況で頭が回らず身体に力が入らない。

 

 そのまま、オレの唇は奪われた。

 

 興奮する間もなく、なんか貪られてるとしか思えないようなキスだ。脳裏に源之助アニキと三重ちゃんの姿が浮かぶ。

 

(あぁ、裕次郎は大人になりますってか――)

 

 ああ、このままオレは女性に襲われて花びらを散らすのか……と考えた瞬間、この状況で忘れていた、大切なことを思い出した。

 ちーちゃんがオレの両腕から手を離し、オレの襦袢に手を掛けて下を脱がしてきた。すまん、死の恐怖なんだ、それ。

 そのままちーちゃんが事に及ぼうとした瞬間。

 

 ちーちゃん自身、思いもよらぬ異変が起こった。

 事に臨まんと欲したとき、乙女の一部位が男子と化す。

 

 ちーちゃん自身が戸惑いながらその部位を隠し、涙目になっていた。

 そして、オレを見る。

 

「ち」

 

 ちーちゃん、と呼ぼうとしたとき、その右手が動こうとしていた。

 あ、これ。又八くんのあれかも。

 殺されるかも。

 

 咄嗟に身体が動いた。半裸状態のオレが身体を起こし、、裸の状態のちーちゃんを強く抱きしめた。

 

「ちーちゃん」

 

 そのまま背中をぽんぽん、と優しく叩く。

 

「大丈夫、大丈夫。落ち着いて」

 

 耳元で優しく言った。

 

「大丈夫。ちーちゃんは女の子だ。可愛い女の子だ。深呼吸して、ゆっくりまばたきするんだ」

 

 少し暴れたちーちゃんではあるが、オレが繰り返し言い聞かせると段々と身体の力が抜けてくる。ぐったりとオレにもたれかかる形になった。

 

「そう。それでいんだよちーちゃん。ちーちゃんは女の子、可愛い女の子。オレが知ってるちーちゃんは、道場で一緒に剣の稽古をして、普段は素直じゃないけど時折優しい女の子。疲れたときに濡れた手ぬぐいを渡してくれてありがとう。オレと一緒に稽古をしてくれてありがとう。なんだかんだで仲良くしてくれるちーちゃんは、良い子だよ。大丈夫」

 

 かなり歯が浮く台詞ではあるが、興奮状態で己の身体の異変を知られた恐怖をやわらげるには、これしかなかった。

 あと、オレは正直に言うと又八くんに対して怒りはある。

 ちーちゃんを、千加を、自分を慕ってくれた女性を、あんな形で恐れ拒絶した、へっぴり腰のへたれ野郎と。

 同時に、当時の時代で陰核肥大なんて体質は知られてないだろうから、彼の恐怖もわからんでもない。

 

 だけどなぁ、目の前で戸惑って泣いてる女の子、あれはねぇだろ、と思うんだよ。

 

 かなりの時間が経つと、いつの間にかちーちゃんがオレの背中に手を回していた。抱きしめ合う形になる。

 正直興奮とか、死の恐怖とか、もうどこにもない。

 ただ胸の中にいる女の子が、悲しくなってないかとか気になるばかりだ。

 

 ちーちゃんは肩を震わせて、オレの肩に顔を押しつけていた。

 

 なんか冷たい水で肩が濡れてる気がしたが、オレは知らないフリをする。

 女心のわからんオレでも、それぐらいの優しさはあるんだ。

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