シグルってたまるか   作:風袮悠介

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第六景 鎌鼬・その四 異聞譚

 話は源之助と兵馬、伊良子と数馬の果たし合いに乱入してきた変態こと裕次郎が、さらに乱入してきた騎馬武者牛股権左衛門の一撃を食らって吹っ飛んだ、昨晩の辺りに話は戻る。

 

「痛いな牛のおっさん!?!? 何をしやがる!?」

「裕次郎ぉぉぉぉぉおおおお……!」

 

 カパラ、カパラ、と騎馬を歩かせ、憤怒の表情を浮かべる騎馬武者鎧姿の牛股は、両手のかじきを握り直して裕次郎を睥睨する。

 その目は憤怒のあまり、目の奥から炎が噴き出しそうだった。

 

「貴様ぁぁぁああああ……何をしておるぅぅぅぅううぅう……?」

 

 地獄の底から響くような鬼の声に、さすがに裕次郎自身も震えてしまった。

 

「え、その……舟木流に、留学を……」

「虎眼先生に黙ってかぁぁああああ……???」

 

 びく、と裕次郎が怯えた。

 

 この牛股の一言で、源之助と伊良子は悟った。

 こちらの手の内を知っていてやたらと強いこの二人、舟木兵馬と舟木数馬はそういうことか、と。

 流れを見極められ、跳躍からの斬撃すらも反応される。

 虎眼流の秘技は基本的に道場稽古での使用を禁じられ、表に出ることは滅多にない。出たとしても、大概の敵は死んでいて広めるものはいない。

 いるとしたら舟木一伝斎……かつて師、虎眼と戦って生き残った剣の名人であり、賤ヶ岳の戦いから生還し舟木流を興した古強者ならそうではあるが、だとしてもこの強さは異常だ。

 そこに裕次郎が手を貸した、という事情が加わるなら、納得もする。

 

 つまり、裕次郎は虎眼流の秘伝を余所に流出させるというとんでもない禁忌を犯した、と言ってもいい。

 

「いや、でも! オレにも理由があって!!」

「それは虎眼先生の前で言うがいい!!!」

 

 ずどん、と。

 牛股のかじきの一撃が、裕次郎の脳天に叩き込まれた。常人ならば頭蓋が砕けて死んでいるだろう一撃。だが、裕次郎は目を回しながら仰向けにぶっ倒れて気絶するに留まった。

 

 牛股は馬から下りると、なんと裕次郎に馬乗りになって顔面に鉄槌を喰らわして折檻を繰り返した。

 

 どぉん、どぉん、と。

 牛股の容赦ない折檻? が繰り返される。

 

「やめ、ぶへ、いて、ごほお」

「反省せい! 反省せい! 反省せい! 反省せい!!」

 

 もはや裕次郎を反省させる生き物と化した牛股は、ひたすら裕次郎に鉄槌を叩き込んでいた。

 

 この光景を見た伊良子はその凄惨さに、思わず吐き気を覚えた。なんで裕次郎が死なないのか、というのも気味悪さに拍車を掛けている。

 

 そこに数馬が寄ってきた。

 

「ふむ、ここに虎眼流の腕利きが揃ったわけか」

 

 数馬の隣に兵馬が立つ。

 

「さて、何故我らを襲ったのか、説明してもらおうか」

 

 バッ、と伊良子が双子に顔を向けると、剣呑な顔つきをしていた。

 油断していた。すでに戦う空気ではなかったものの、敵をこんな近場まで接近するのを許すとは、と伊良子は後悔した。

 

「説明が欲しいのはこっちだ」

 

 そこに源之助が話し掛けてきた。太刀を鞘に納め、じろりと双子を睨んだ。

 

「何故裕次郎がここにいるのか、お前らと何をしていたのか。説明をしろ」

「ふむ、互いに説明が必要なようだ」

 

 数馬は頷いた。

 

「そろそろ折檻も終わる頃だろう。虎眼流と舟木流の事情を、話し合わぬか」

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