シグルってたまるか   作:風袮悠介

46 / 110
4章・シグルっちまう世の中で、シグルってたまるかと叫ぶ。
25話・掛川貝殻殺人事件(未遂で未定の未来)を乗り越えろ!


 やあみんな、シグルイライフ、送ってるかな? 毎日シグルイを読んで男たちの物語に浸っているかな?

 オレこと裕次郎は舟木流の留学を終えて、虎眼流道場に帰ってきたよ!

 牛股のおっさんにどぉんどぉん折檻を喰らって気絶して、気づいたらいつもの座敷牢だ!

 見慣れた家具から服を取り出し、身支度を調えてさぁ出発だ!

 外に出たらちゃんと座敷牢の鍵を閉めて戸締まりを確認したら、目的地は虎眼の親父の元だぞ!

 

「ただいま戻りました、虎眼先生!」

「そこに直れっ」

 

 部屋に入ったら、憤怒の顔をして正座する虎眼の親父と、隣には嬉しいのか怒りたいのかわからない顔をしている三重ちゃんがいた。こっちも正座だな。

 

「えぇ……あ、いや、座ります座ります」

 

 ちょっとふざけようとしたんだけど、三重ちゃんの顔に怒りが見えたから慌てて座った。

 

「なんでしょうか虎眼の親父殿」

「……牛股から話を聞いている」

 

 あ、なるほど、あれのことか、とオレは憮然とした顔になって、正座を崩した。

 

「あぁ、流れの技法を流出させたことか?」

「違う」

「あれは仕方が無い。あっちで兜投げの術理と鎧断ちの技法の習得の代わりに、流れの技法を見せる必要があったんだ。貰いっぱなしは通用しないんだ、むしろ流出することは避けられないような世の中なんだから、対策を考え技を発展させて、さらなる技法をちょっと待った違うの? この話じゃないの??」

 

 なんだよ、流れの流出や秘技が白日の元に晒されたことに怒ってるのかと思ってた。

 牛のおっさんの話からは、そこに怒ってると思ってたし。

 つか、ずーっと虎眼の親父と三重ちゃんはオレを睨んだままだ。すっげぇ怖い。

 

 というか気づいた。なんでここに三重ちゃんがいる??

 

「じゃあなんの話よ?」

「……舟木の小娘と良い仲であるらしい喃」

「夜這いされた仲です」

 

 ちゃきり、と虎眼の親父が腰の刀に手を掛けたのを見て、慌てて言った。

 

「待った待った、夜這いはされたが行為には至ってない。純潔、オレは純潔のまま」

「それはそれで情けない喃」

 

 うるせっ。

 

「ふむ……実際、舟木の小娘とはどういう仲じゃ」

「うーん、ちーちゃんとは……友達だなぁ。一緒に稽古をしてた。恋愛感情は一切ない。むしろ、そういう仲を疑われてることに驚いたぞ」

 

 ほんとね。ちーちゃんは原作だと頑之助の暴走に巻き込まれて行き遅れになってたわけだし。

 この世界だと、どういう形になるのかな。舟木流との関係を改善させ、いずれ訪れるかもしれない伊良子による破滅を回避させたい。

 伊良子を殺せば終わりなんだろうけど、あいつなかなか強いんだよなぁ。闇討ちで殺すってのもちと無理かも。どうしたもんか。

 

 オレが思案していると、なんか三重ちゃんの顔が前よりも明るくなってる気がする。なんだろうか。

 

「もう良い。下がれ」

「はーい」

 

 オレは立ち上がって部屋を去ろうとしたとき、ふと気になって振り返った。

 

「そういえば親父よ。牛のおっさんの顔が大変なことになってたが、あれはどうした」

 

 オレは睨むようにして虎眼の親父に言った。

 事情はどうせ原作そのままだろう。だが、あえて聞く必要があった。

 虎眼の親父は平然として言った。

 

「儂が切った」

「……門弟の、それも自身に忠節を尽くす師範にすら、んなことをするべきじゃねぇぞ」

「出来ておらぬ故に喃」

 

 オレはその瞬間、虎眼の親父に向かって前蹴りを放った。三重ちゃんに当たらない軌道で、顔面を蹴り飛ばすつもりで。

 しかし、オレはすぐに足を引っ込めた。オレの足があったところを、虎眼の親父の抜刀が通り過ぎる。

 

 あのままだったら、オレの足は切り落とされていただろう。

 恐るべし岩本虎眼。ほとんど動かぬまま、神速の抜刀を繰り出すとは。

 右足に強烈な寒気を感じてなかったら、避けれなかった。

 

「いつか必ず、その顔を蹴っ飛ばす」

「やってみるがよい。そのときこそ虎眼流の跡目に据えて問題のない業前であるから喃」

「けっ……跡目なんぞ継ぐつもりはないって、夜の稽古でハッキリ言ってただろうが」

「継ぐつもりがなくとも継がせる。お家を守るとは、そういうことじゃ」

 

 オレが虎眼の親父を睨む間、親父はオレを優しい笑みで見ていた。

 いつかの、オレとアニキがこの家に迎え入れられた、あのときの笑み。

 

 今ならわかる。

 まだオレはこいつの手のひらの上だ。

 こいつの狙い通りだからこそ、あんな笑みを浮かべられるわけだ。

 

 この残酷無惨な世界をどうにかするには、やっぱり根本の問題として虎眼の親父の性根を叩き直さないとダメかもしれない。

 

「あっそ。……もう行くぞ」

「裕次郎」

「なんだ?」

 

 オレと虎眼の親父の間にある剣呑な雰囲気に戸惑う三重ちゃんを余所に、虎眼の親父は言った。

 

「そろそろ虎眼流の水練の時期である。お主も参加することだ」

「あ? オレは参加させてもらえてなかっただろ。いつもは九朗右衛門の兄弟子と彦兵衛のおっさん、牛のおっさんとアニキが参加してて、なんでいきなりオレも」

「そろそろ良い時期である、それのみ。もう下がれ」

「へいへい。……三重ちゃん、水練が終わったらまた町に遊びに行こうね」

「は、はい」

 

 三重ちゃんはぱぁっと笑ってくれたので、これでよしとしておこう。

 部屋を出て、自分の部屋こと座敷牢に向かうなかで、オレは思い出した。

 

「ん? 牛のおっさんの頬が切られたタイミングで水練? ……まさか、あの貝殻事件の水練か!?」

 

 思わずオレはその場で叫んでしまっていた。

 そう、シグルイでも屈指の名場面にして考察される場面であり、主要人物達の人生を変えてしまった悲しき事件。

 

 通称、掛川貝殻殺人事件の現場である!

 通称はオレが勝手に考えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。