シグルってたまるか   作:風袮悠介

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26話・掛川貝殻殺人事件、概要(探偵漫画風)

 掛川貝殻殺人事件とは!

 

 原作シグルイ7巻第三十六景「同胞(はらから)」で描かれた源之助アニキと伊良子の兄者の仲が決定的に裂かれて修復不可能となった事件だ。

 後々になって互いに互いへの理解が足りなさすぎて後悔し、源之助アニキは伊良子の兄者に向けて誇りのような気持ちを、伊良子の兄者は源之助アニキを虎の中の虎と認めていたことを、もうどうあっても戻りようのない時点で気づいてしまった悲しき事件でもある。

 

 さて、この事件の概要を述べよう。

 

 まず時期の話だけど、まだ牛股権左衛門こと牛のおっさんの頬が虎眼の親父に切り裂かれて、まだ塞がってない頃の時期だ。つまり、今の頃。

 何があったかというと、まず源之助アニキが袋井宿の遠州灘にて水練のために南蛮胴を身に付けて海に飛び込む。

 これは素早く鉄の鎧を脱ぎ捨てて浮き上がるというものだが、目的としてはいついかなる時でも平常心を保つためらしい。死にかけていても不慮の事故の間でも、冷静に生き残るための手段を模索し実行に移すってことだ。

 

 ちなみにこの訓練、虎眼流の中では安全な部類に入るんだってさ。

 労基署に駆け込んだら虎眼流を潰せるかもしれない。

 ないけど、この時代に。

 

 しかし、誰かが源之助アニキの緒の結び目を締め付けて解けないようにして殺そうとしたのだ。

 それを助けたのが伊良子の兄者だった。

 

 ちなみにこの事件、犯人は誰かはわからない。

 作中では明らかにされてなかったし。

 容疑者とは丸子と九朗右衛門と伊良子の兄者の三人だと思ってるが、正直牛のおっさんも虎眼の親父に命じられたらやりそうなので、結局誰かはわからん。

 予想はしてるが予想だけだし、最後の最後まではっきりとそれを示唆する描写はなかった。

 なので犯人捜しは省略する。

 

 その後、助かった源之助アニキと他の四名と共に海亀の産卵を見てノスタルジーに浸り、そこで伊良子の兄者が源之助アニキに言うんだ。

 

「我らとて己の腕で成り上がり、天下を取って人の上に立つことが出来る!」

 

 今まで伊良子の兄者は我「ら」という言葉は使わなかったし、自分のことしか考えてなかった。

 夜鷹の子として生まれ、他の誰も頼ることができず、己の腕のみで生き延びて、こうして虎眼流に入門して腕を磨いてきた。

 

 全ては憎悪する士たちの頂点に立つために。

 矛盾する生き方であるが、伊良子は最後までそれに気づくことはなかったけど。

 

 だけど、源之助アニキは貝殻を拾ってこう言っちまった。

 

「藤木源之助は生まれついての士にござる。士は貝殻のごときもの。士の家に生まれたる者のなずべきは、お家を守る。これに尽き申す」

 

 源之助アニキとしては貧農の三男で愚鈍と呼ばれて不遇の幼少を過ごしていた自分を、士分に取り立ててくれた虎眼の親父への大恩に報いる覚悟を述べただけだった。

 貧農三男の自分を士として生まれ直させてくれた。だから、生まれながらの士となれた。

 士は貝殻のごときもの。自分が住まう家の将来を安泰にするため、そこに生まれたからには家を守る。家族を守る。取り立ててくれた岩本家を守りとおす。

 自分の生き方をよくしてくれた虎眼の親父に報いるにはこれしかない。

 

 多分こういう意味であったんだと思う。

 

 だが、夜鷹から生まれ最下層の身分出身だった伊良子の兄者にとって、この言葉は何よりも屈辱的だった。

 

 仲間だと認めようとしていた男が、よりにもよって士の家に生まれたことを誇り、己を見下している奴らと同じ立場であることを守ろうとしている。

 さらに仲間意識を持とうとしていた相手の言葉が「己は生まれてから士の身分であってお前と同じじゃない」ととんでもない誤解を生む受け取り方ができる最悪の返しだった。

 己の生まれにコンプレックスを抱く伊良子に対して、これは最低の返しだったんだ。

 

 結果、伊良子の兄者は源之助アニキを他の士と同じ糞野郎と判定、決定的な確執に繋がる。

 それが伊良子の兄者が虎眼の親父への復讐を果たしたあとでも虎眼流に固執し、仇討ち場での戦い、そして御前試合へと繋がったんだと思ってる。

 虎眼の親父を倒した時点でさっさと検校の力を借りて遠くに行き、そこで手柄を示して仕官してしまえば良かったわけだし。仇討ちを引き受ける理由はない。

 まぁ徳川忠長の危うさを知らなかったらそうもなるけどさぁ……。

 

 それ以前に、藩庁ですら仇討ちは引き受けられないよ! と言ってるくらいだったから。

 そもそも仇討ちってのは当主を殺されて家督が立ち行かなくなった場合に提出された書類を受領されることで許可されるんだけど、当時はすでに虎眼の親父によって源之助アニキが跡目として届けられていたんだし。

 だが、ここで源之助アニキが虎眼の親父を嘲笑したことに対して瞬時に殺害、孕石が「虎眼流錆びてはおらぬな……」とか抜かして仇討ち免状を発行しちまったのよ。

 

 馬鹿野郎!!

 確かに士として立派かもしれんが城内で殺人事件が起こってんだぞ!!

 見事と言う前にしょっぴかんかい!!

 

 当時の価値観としても滅茶苦茶過ぎると思うし、こんなもんを許してたら、そら虎眼流が負けたときに責任取って切腹するわ。

 牛のおっさんが仇討ち場で暴れたからって切腹までするこたぁねぇわ。

 全部、これまでの虎眼流贔屓のせいじゃろがい!!

 

 とまぁ、こんな感じで最終的に仇討ち、御前試合、バッドエンド直行だ。

 

 シグルイファンこと虎子の間でも「どうすればこの悲劇を回避できますか?」の問いに対して「源之助のコミュ障を直す」、「貝殻事件の時に詳しい事情を話しておく」などなど、貝殻事件をなんとかすれば! という意見が多かった記憶がある。

 

 え? 「いくとの浮気を阻止すればいい?」って? つまり伊良子の股間を切除しろってことやな。もう無理やで。

 いくとの浮気を阻止しようにもいつ頃そこに行ってたのかわからんし、そもそも男女の仲をなんとかしようにも伊良子の兄者はあの美貌なので、結局シモ関係で問題を起こすんだよな。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 オレは座敷牢の壁に紙を貼り、そこに時系列を書いてみていた。

 今回の貝殻事件を乗り越えれば、バッドエンドは避けられるはず。

 しかし、どうすれば良いのか……と思案していた。

 

「オレたちの出自をさっさと語る。まずはこれが一つ」

 

 伊良子の兄者の誤解の元は、そもそも源之助アニキが自分の出自を語らず、過去の話をしないままだったからだ。

 だから生まれついての士、の部分で誤解させた。

 なのでオレたちの出自を詳しく話しておかないといけない。

 

「源之助アニキは言葉が少なすぎる人だと伊良子の兄者に伝えておく。これが二つ」

 

 源之助アニキは言葉が少ない。本当に少ない。何度も何度も注意するが、本当に寡黙な男である。

 そこが格好良いところでもあるのだけど、今回は別だ。コミュ障はダメ、この方針で行く。

 もっと言うことを言え! と注意しておこう。

 こういうとき、オレの知らないところで問題が起こる可能性も考慮したい。

 フォローするオレがいない状況で、源之助アニキがまた言葉が少なすぎて伊良子の兄者をブチ切れさせるなんて事態を阻止せねば。

 

「追加として、源之助アニキを殺そうとした奴を突き止めたい。これが三つ」

 

 できればだが、あの四人の中で誰が源之助アニキに対して殺意を抱いていたのかを知りたい。

 丸子と九朗右衛門のどっちかだと思ってるが、外部犯の可能性も考えておこう。

 最近判明した範囲では、他の高弟たちもこの時期にはいるし。

 侠客の出で体中切り傷だらけの握力オバケな上に伊良子の兄者に橋の上で殺された宗像進八郎。

 このときまだ十歳ちょいのショタっ子な才能持ちだが知らぬ間に殺されていた近藤涼之介。

 源之助アニキとオレに文字を教えてくれていたが最後に裏切ってアニキに殺された興津三十郎。

 

 他にも師範クラスで他道場を任されている高弟たちはいるが、ここは除外。容疑者の範囲を広げすぎていたら大変なことになるし、オレの手が足りない。

 

 なので、オレは決意する。

 

「よし。初手必殺でいこう」




ゴールデンウィークなのに風邪を引いてダウンしてました。
せっかくの連休を病気快復のために費やされる、どこか損した気分だよ……。
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