シグルってたまるか   作:風袮悠介

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第三十六景・同胞 異聞譚 その四

「とりあえず源之助アニキは反省した方が良い」

 

 裕次郎は伊良子の横を通り過ぎ、源之助の隣に座る。波打ち際で兄弟が二人並ぶ。

 

「アニキはぶきっちょだからな。しかも言葉が少ない。こみゅしょうて奴じゃん。

 そうだ、アニキは五言以上少ないから、一言二言くらい多くてもよくね?」

「裕次郎。それはただの多弁だ。あとこみゅしょうってなんだ?」

「あとさぁ、言葉のたいみんぐがおかしいんだよな。言うところで言えっての。そんなだから、伊良子の兄者をイラつかせんだよなぁ。そうだ! アニキはさ、三回話したら二言くらい会話を続けろ! 少しはマシになるだろ! さっさとこみゅしょう直して、三重様と祝言を上げろ!」

 

 三重様との祝言、という話が出ると源之助は少しだけ頬を紅くして黙り込む。

 

「虎眼先生が決めることだ」

「そっか。ま、親父が決めるなら伊良子の兄者も可能性があるわけだしな。競争か、競争」

 

 フッと笑って裕次郎は振り返る。

 虎眼が三重との婚姻を決めるならば、伊良子にとっては絶望的状況だ。

 立身出世を狙って婿入りを目指したとしても、すでに三重の心は裕次郎にあり、実力そのものも虎眼に認められている。

 ここから伊良子が、裕次郎に勝るやり方など、限られているだろう。

 

 だが、どこかで仕方がないと思う自分もいて、やはり裕次郎は違うという結論になる。

 

「さて、そろそろ帰ろうか。なぁ、伊良子の兄者」

「あ、あぁ」

 

 裕次郎は伊良子の隣を過ぎ、小屋に戻ろうとする。

 そのままにしておくつもりであったが、堪えきれず、伊良子は裕次郎の背に声を掛けた。

 

「裕次郎は、これからどうするつもりなのだ」

 

 要領を得ない質問だ、何を聞きたいのかよくわからない。

 源之助もそれを無表情で見ていた。

 

 裕次郎は振り返ることなく、プラプラと手を振ってから、

 

「身の丈にあった生き方を続けるだけだよ」

 

 とだけ告げ、去って行った。

 その後ろ姿を見て、伊良子は苦笑しながら溜め息を吐く。

 

 身の丈に合うなどと、裕次郎の身の丈に合うなどそれこそ徳川家剣術指南役にでもならなければ無理だろう。

 もしくは相応の家に召し抱えられるかだ。

 剣の腕、知恵、人格、能力と、どこでだってやっていける。

 性格は、まぁ、お察しではあるが。

 

 仕方が無いなどと言ってられぬ。

 身の丈にあった生き方というならば、己は裕次郎を超えねばならぬ壁と見るしかあるまい。

 あの男を、剣の腕で勝ってみせよう。

 

 

 

 

 

 

 伊良子はその日の夜、再び砂浜に来ていた。

 ジッと、掘り返した海亀の卵を見る。

 その卵に向けて、右手の刀を振り上げ――。

 

 卵を壊すのを止めて、大きく息を吐く。

 

 威勢良く超えるとはいえど、絶望的な差である。

 嫉妬するほど、輝かしい男だ。と認めていた。

 

 こんな八つ当たりをして何になるのというのか。

 

 伊良子は海亀の卵を埋め直すと、さっさと小屋に戻っていくのだった。

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