シグルってたまるか   作:風袮悠介

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32話・お前いい加減にしろよ!?

「いや、もう、その帰るから」

「嘘吐けぇ! どうせいくさんの所に行くんだろぉ!? 男同士の飲み会をしようぜぇ!?」

「店内で騒ぐでない!」

 

 ごちん、とオレの頭に牛のおっさんのゲンコツが落ちた。目の前に火花が散るような感覚。

 あまりの痛さに涙目になっちゃったよ!

 

「何すんだよ牛のおっさん!」

「店内で変な絡み方をするからだっ。……裕次郎、今の話」

「全部聞いてたけど他言無用だろ? 別にいいよ、誰かに言う話でもないし。アニキも言わないし」

 

 と、源之助アニキの方を指さすと、アニキは気まずそうに会釈していた。牛のおっさんはびっくりしていたので、その隙に伊良子の兄者の元へ。

 とっくりと盃を持って、盃を差し出す。

 

「ほら呑めよぉ。兄弟子の勧めだぞぉ?」

「いや、己はもういいから……」

「いやん、兄者がつれない!! オレ、寂しいわ!! いつからそんな冷たい人になったの!? アタイにもう飽きたの!?」

「そんな関係では断じてなかろうっ?」

 

 伊良子の兄者がめちゃくちゃ慌てていたが、無視する。

 

「じゃあ真面目な話」

「お、おぅ」

「なんでいくさんの所に通ったの?」

 

 す、と目を細めて聞いた。

 

「オレ、散々忠告してたし止めてたよな? 女遊びはほどほどにしろ、先生の愛人に手を出すのはいけないことだ、いずれ身を滅ぼすぞ、と」

 

 低い声が出る。

 

「人が必死に忠告して、止めてたのに、無視してたのか?」

「己は、その」

「惚けるなよ」

 

 ずん、と殺気が店内に満ちる。

 

 伊良子が刀に手を伸ばした瞬間、オレは両手のとっくりと盃から手を離す。

 そして、抜刀した小太刀が伊良子の喉と額を切り裂く。

 抜き打ち勝負は、オレの圧勝で終わった。

 血を払い、納刀したときにはまだ伊良子の手は刀に掛かってすらいなかった。

 どう、と倒れ、オレはそれを冷たい目で見下ろしていた。

 

 

 という、イメージが双方の頭の中に浮かぶ。伊良子の兄者もわかったのだろう、オレの前で惚けて抵抗しても、一瞬で斬り殺される、と。

 伊良子の兄者の額から汗がとめどなく流れる。

 誤魔化すことは不可能だと、思い知らせる。

 どんな抵抗をしようが、無駄だ。全て読めるからな。

 その全てにカウンターを合わせるイメージを殺気に乗せて叩き込む。

 

「お、己は、」

「お前いい加減にしろよ!?」

 

 オレはこの期に及んでも言い訳をしようとする伊良子の兄者の胸ぐらを掴んでいた。

 両手から離したとっくりと盃が地面に落ちて、砕けた。

 

「人の女に手を出せば、後に残るのは破滅だ!! よっぽど力関係に差が無い限り、世の中が、社会が、女の恋人が! 必ず反撃や復讐をするんだ!! しかも相手は先生の、虎眼の親父の愛人だぞ!? 無事で済むと思ってるのか!?」

「ち、違う、違うのだ。己は本当に、手を出していないっ」

 

 睨み付ける先の伊良子の兄者の目に、揺れがあった。怯えと恐怖だ。

 流れる汗と表情、目の動き、呼吸。これらを見て、オレは再び聞く。

 

「最後の最後で、信じていいんだよな? 本当に手を出してない、やましいことはないんだと?」

「ないっ。誓っても、ない……っ!」

 

 伊良子の兄者の言葉を聞き、再び観察する。

 溢れる殺気が伊良子の兄者とオレの至近距離の間で濃密になる。

 

 一瞬。

 一瞬だけ、オレが伊良子の兄者の指搦みにより投げられ、頭を踏み砕かれるイメージが湧く。

 

 こいつ、この一瞬だけで成長しやがった、殺気と想像の中、机上の空論とも言える脳内の読みで、オレを上回った!

 

 ふん、とオレは胸ぐらから手を離し、とっくりと盃の破片を拾う。

 

「行け……信じるから。これを裏切ったら、もう、次はないからな」

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