シグルってたまるか   作:風袮悠介

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34話・運命の日、お前ら殴る。

 愚痴を聞いてもらってスッキリして幾日かの時が流れた。

 だいぶ精神的に楽になったおかげで、オレはいつも通り稽古して、とうとう描いていた草双紙の連載全てを終わらせる事ができた。

 その稼いだ銭も相当で、あちこちに隠して回る

 

 もし、もし岩本家が落ちぶれたとき。

 隠した銭が役立つ時が来ると思うから。

 

 そして訪れた師走。

 

 この日オレは親父から「稽古納めの無刀取りをせぃ」と言われたが「忙しいから嫌だ」と断った。親父に殴られたがそのまま逃走したぜ。

 そして、オレは知ってる。

 

 この師走では、三重ちゃんが虎眼流門下生たちによって押さえ付けられ、女としての尊厳を汚されかけるんだ。それを伊良子の兄者が断ることで、三重ちゃんは傀儡にならない伊良子の兄者に執心していく。

 悲劇に至る一歩目だ。

 

 だがオレは確信している。

 今まで生きてきて、一緒に育ってきた源之助アニキならば、このバカ騒ぎをきっと止めてくれる、と。

 なので信頼して、稼いだ銭を隠す作業ができるのだ。

 

 

 

 

「これで、ヨシ」

 

 オレは掛川宿の外れにある廃堂に忍び込み、床板を剥がして地面を掘り、銭を入れた壺を隠す。

 あとは埋め戻して床板を戻せばできあがり。

 ちなみに壺の中身は一杯だウッハッハ。

 

「ふぅ……銭隠し作業がだいぶ時間が掛かっちまったな……」

 

 廃堂から出ると外はすっかり暗くなり、雪がちらちらと降っていた。

 早く帰らないと外が真っ暗になって大変なことになりそうだ。夜目が利くものの、それでも暗闇はヤバい。

 

 この時代の秩序とかはまだまだ荒れてるし。

 

 牢人者はうろつくし追い剥ぎは平気で現れる、しかもそいつらは武器持ちだ。

 倒すのは簡単だが時間が掛かるのは嫌だからね、さっさと帰ろう。

 

 廃堂を出て山を下り、木々の間を駆け抜けて町に戻る。すっかり静かな夜になっちまった、さっさと帰るっぴ!

 町を走り、道場の前に辿り着く。

 道場はとても静かだった。すす払いとかも終わってるはずだし、これだけ静かなら無刀取りも終わってるだろうなー。

 念のために道場に顔を出すか、と思い直して道場の方に回る。

 うーん本当に静か。

 

 だが、妙だった。

 

 道場の中で息遣いが聞こえてる。それも複数人。

 ぎぎ、と道場の床が軋む音も聞こえた。

 

 まさか、嘘だろ。

 

 オレは恐る恐る、道場の扉に手を掛けた。

 止めてくれ、嘘だろ、嘘だと言ってくれ。

 あの未来は避けた筈だ、アニキだったら止めるはずだ、伊良子の兄者はあれだけ忠告したんだから変なことはしてないはずだ。

 

 扉を持つ手が震えた。ま、嘘だろ、と思ってるオレがいる。

 きっと中にいる人たちはオレを驚かそうとしてるだけで、扉を開けたらみんな大声を出してオレを脅かして――。

 

 

 扉を開いた先を覗いて見えたのは。

 男四人に両手足を道場の床に押さえ付けられている三重ちゃんの姿。

 右手を押さえてるのは源之助アニキ。鼻血と涙を流し、手が震えてた。

 他のみんなは感情の死んだ顔をしてた。

 上座に座るのは胡乱な顔をした虎眼の親父。

 

 頭が冷える感覚がした。

 

 伊良子の兄者はその中で、なんと三重ちゃんの股に身体を入れようとしていた。

 

 原作では打算有りとは言え三重ちゃんの尊厳を守ろうとした奴が。

 

「やはり、お許したまわりますよう」

 

 だが伊良子の兄者は三重ちゃんから離れ、虎眼の親父に頭を下げた。

 

「今、この場にて事に及べば、三重様は命をお絶ちになりましょう、さすればお家が絶えまする」

 

 何を言ってる。

 あそこまでやっといて、何を。

 

「先生のお言葉で某、契りを結ぼうとしましたが、やはり虎眼流と三重さまのため、この儀、祝言の後にあらためて」

 

 背筋が凍った。

 お前、原作よりも事に及ぼうと寸前までいっておきながら。

 何をいけしゃあしゃあと言ってやがる?

 

「そして、裕次郎を越えたとき。祝言を挙げさせてください」

 

 虎眼の親父が立ち上がる。腰の刀に手を掛けた。

 他の虎子たちからも剣呑な雰囲気が流れる。

 

 大丈夫だ、この後は三重ちゃんが泣いて、虎眼の親父が胡乱なままに有耶無耶に終わって――。

 

「うわああああああん!」

 

 三重ちゃんが泣いた。

 

「うわーーっ! うわーん!!」

 

 泣いて、これで、終わりに。

 

 終わりに?

 

 これで、終わりにしていいのか?

 

 このまま?

 

「てめぇら何をしてやがる!!!!!」

 

 無理だ。

 無理だっ。

 無理だった!!!!

 

 三重ちゃんが泣くのを見て、オレは堪えられなかった。扉を蹴破り、中に入る。

 道場内にいた全員が、驚いてオレを見ていた。源之助アニキはオレを見て、涙と鼻血を流しながら困惑していた。

 オレはアニキを睨んだあと、一気に道場内を走る。

 

 こちらを振り向いた伊良子の兄者の顔面を蹴り抜いた。

 足の甲で、鼻を砕いた感触があった。

 

 血を撒き散らして吹っ飛んだ伊良子の兄者を見て固まった他の門下生たちを蹴り飛ばす。

 最初に左手を押さえていた奴の肩に踵を落として砕き、

 次に右足を押さえていた奴を振り向きざまの後ろ回し蹴りで胸骨を蹴り砕きながら吹っ飛ばし、

 そして左足を押さえていた奴が顔面を防御した瞬間に後ろの襟首を掴んで乱暴に投げて壁に叩きつけた。

 

 最後にアニキの前に立つ。オレの顔を見て、アニキの顔が悲しみに歪んだ。

 

「裕次郎、己は」

「アニキ」

 

 オレは兄貴に向けて拳を上げ、

 

「今は黙って寝てろ」

 

 顔面を殴った。腕を上げて咄嗟に防御したようだが、防御をすり抜けて顎を打ち抜く。

 脳しんとうでアニキは意識を狩られ、気絶した。

 

 オレは虎眼の親父を睨み、他の門下生たちを睨んだ。

 三重ちゃんの顔を見ると、オレの登場に呆気を取られているようだった。

 

 だが、オレは見逃さなかった。

 その両手足に、大の男が無理矢理抑えつけたせいで痣ができていたのを。

 

 頭が冷え、胸の内で炎が燃え上がった。

 

「大丈夫だ、三重ちゃん。助けに来たよ。遅くなってごめんね」

 

 オレが精一杯安心させようと笑みを浮かべたあと、他の奴らを憤怒の表情で睨んで叫ぶ。

 

「大の男が揃いも揃って女子を手籠めで良い気分に夢気分、ご機嫌に浮かれた気分ってかぁ?

男の風上にもおけねぇ、全員ぶん殴るから覚悟しやがれぃ!!」




再び会社から資格試験を受けろという指示が出たので、申し訳ないのですが一旦更新は中止します。
学科試験と実技試験があり、学科試験の勉強のために時間を使わせてください。
次回更新予定日は学科試験が終わって落ちついたであろう6月16日を予定してます。
去年落ちた試験なので、これで落ちたら大変なことに……。
学科試験は合格したのですが実技試験で落ちましてね……実技の前の学科で落ちたら話にならんのです。
明るい話題で戻ってこられるよう、頑張ります。

あ、更新予定日の話はもう予約投稿してます。
次の日からの更新予定の話をちょいちょい書いて準備はしておきますので、お楽しみに。
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