シグルってたまるか   作:風袮悠介

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第36話・秘剣、敗れたり

 虎眼流門下生たちが呻き、失神し、倒れ伏す虎眼流道場で、立っているのはオレと虎眼の親父の二人だけとなった。

 この糞に一矢報いねば、オレの気が済まない。

 三重ちゃんの尊厳を傷つけた糞を、必ずここで倒す。

 

「よかろう」

 

 虎眼の親父は腰から太刀を抜き、構える。あの握りだ。

 

「裕次郎。お主には秘剣伝授は行っておらんかったな」

「勝手に覚えたからな」

 

 親父との毎晩の稽古で、オレは親父の戦い方から流れ星を見いだし習得した……とまぁ虎眼の親父は思っているが、ただ単に稽古の中で流れ星を扱えるようになったから使っただけだし、そもそも原作知識があるからできたことなんだけどな。

 

 親父の構えが、アレになる。右手は虎の握り、そして……左手は刀身を抑える形にと。

 

「拾え、裕次郎」

 

 親父の顔から笑顔が消えた。

 

「そこらに転がっている刀を取り、儂に見せてみよ。かねての凶つ星がどのように完成したか。そして、綺羅星もだ」

「あっそ」

 

 オレは親父の言う通り、転がっていた刀を拾ってから親父と同じ構えを取る。

 つまりは、流れ星の体勢。

 

「二輪ですらこんなことをしねぇぞ」

「あれは虎眼流秘太刀の型よ。奥義まで盛り込むわけなかろう」

「危険度の話なんだよなぁ」

 

 ぐぐぐ、と刀身を掴む左手の力が増していく。

 親父もまた、その全身に気を漲らせてオレの首を狙っていた。

 確実に、オレの首を取りに来るだろう。

 

 殺すつもりだが、殺さずに済む。

 オレを信頼し、たとえ殺されようとも必ず生き延びて殺しに来るだろうという、確信からの行動。

 

 反吐が出る。

 お前に信頼されて嬉しいものかよ。

 

「三重ちゃんが見てるが、いいんか」

「あれは裕次郎の種を受ける器であるが故に喃。今宵の事より、もう見ても――」

 

 オレの流れ星が、放たれた。

 凶つ星を放つと言ってからの騙し討ち、さらには会話の隙を狙う狡猾な手口。

 恥ずかしくないかって?

 相手は虎眼流開祖、シグルイ作中において老いなければ確実に最強と言ってもいい、自然災害か理不尽が人の形をした相手だ。

 手段なんぞ選んでられるか!!!

 

 同時に親父の流れ星が射出された。

 瞬き以下の時間の遅れ、しかし機先は制したぞ!

 秘剣、敗れたり!!

 

 瞬き以下の時間が圧縮された空気。

 その中で、オレは見た。

 

 親父の刀とオレの刀が、全く同じ軌道上に存在することを。

 そして、オレの後に放たれたはずの親父の流れ星が、オレの刀の速度よりも速いことを!

 

 があああん!

 

 オレと親父の刀が、刃と刃、ほんの僅かなその先を、全く同時に正面衝突する形となった。

 

 弾き飛ばされるオレと親父の刀、振り切った右手に激痛が奔る。

 二つの刀は道場の両端の壁に深々と突き刺さり、もはや抜いて戦闘を続けるなど不可能だ。

 

(これが本家本元、初代にして開祖、親父の流れ星か!)

 

 オレは驚愕で固まる。俺自身が予想していたものよりも、親父の流れ星は遙かに威力が高かった。

 会話の中で少しでも機先を制する形になってなかったら、オレの刀が押し負けていた!!

 

 右手の激痛は大丈夫、刀は放棄、すぐに傷は治るから木刀を拾って追撃を――。

 

 ぐしゃ。

 

 オレが次の行動に移る前に、すでに目の前にいた虎眼の親父の虎拳が、オレの右頬を打ち抜き頬骨を砕いていた。

 口から溢れる血と、鼻が折れて血が飛び散る感覚。激痛で朦朧とする頭の中で叫びが反響する。

 

 ありえない、なんで目の前にいる!?

 親父だって今の刀と刀の激突で右手がイカれたはずだ、なのになんで!

 

 そこでオレは気づいた。目の前の親父が右肘を振り上げようとして止まったところで、だ。

 親父もまた右手の手首がヤられている。骨はともかく激痛はあったはずだ。だから痛みのあまり追撃の肘打ち下ろしが放てずに固まったんだ。

 

 親父は一歩上をいった。

 あの状況下でオレと親父の流れ星が相殺されることを見抜き、瞬時に次の行動に移っていただけ。

 一発撃って終わっていたオレより、一発目の後の追撃を想定していたからこそ、親父の次の動きは速かった。

 

 朦朧とする意識の中で、親父の前蹴りがオレの鳩尾に突き刺さった。

 

「秘剣、敗れたり」

 

 砕かれる胸骨と背中がぶつかることで壊れた扉のことを考える中、親父のその声を聞いて、オレは意識を失った。




一旦、更新中止です。
試験勉強、頑張ります。
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