シグルってたまるか   作:風袮悠介

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第九景・傀儡 異聞譚 表面 その二

 師走(しわす)の夜が過ぎ、元旦(がんたん)の夜に移り変わる寸前の時間。

 虎眼(こがん)(りゅう)道場は、煤払いと大掃除が終わったとは思えぬほどの荒れ具合であった。

 

 道場の戸は破壊され、床には負傷(ふしょう)した門弟と高弟(こうてい)たちが倒れ伏している。あるものは肩を折られ、あるものは木剣を打ち据えられ、あるものは気を失い、あるものは鼻血を流して呻いている。

 一人とて無事な門弟と高弟たちはおらず、全員が何かしらの重傷を負っていた。

 そのため、床には折られた歯や飛び散った血で汚れてしまっている。

 

 だが、二人だけ無事な人物がいる。

 一人は虎眼流の当主、岩本虎眼。

 震える右手を左手で押さえ、壊れた道場の戸の向こうを見据えている。

 虎眼は、自身の右手をちらと見た。

 

(裕次郎め……ようやく剣の筋が整いおったか)

 

 ふ、と笑いながら、虎眼は再び戸の向こうを見る。

 

 最後の流れ星の撃ち合い。

 会話の間を狙った拍子の一撃であったが、虎眼にとってはお見通しであった。

 

 そも、(まが)(ほし)対流れ星(・・・・)特攻(・・)の奥義ではない。

 流れ星(・・・)()特攻(・・)の奥義である。

 流れ(・・)()対策(・・)を潰す(・・・)ための(・・・)奥義(・・)なのだ(・・・)

 だから綺羅星(・・・)()なかった(・・・・)時点(・・)()偽計(・・)()計っていた(・・・・・)のだろう(・・・・)

 

 あとは剣士としての勘が、裕次郎の狙いを見抜かせた。

 虎眼としてはそんなものはお見通しであるが故に、先を取って終わらせても良かった。

 

 良かったのだが、裕次郎の流れ星が思いの他高められており、剣筋や練度も虎眼の目から見て他の弟子たちよりも優れていたため、つい見てしまった。

 故に遅れただけで、あとは自身の流れ星で潰すのは容易い。

 

 そも、流れ星は虎眼が最初に開眼せし奥義である。

 練度など他のものと比べるべくもない。

 流れ星の全ては虎眼の四肢に刻まれ理解している。

 

 なのだが、裕次郎の流れ星は虎眼の予想よりも良かった。

 相殺する形で潰したものの、あまりの威力に右手首が痛みで痺れるほどだ。

 

 その後は良くなかった。

 一撃で全てを出し切り次の手がなかったため、裕次郎は己の攻撃を受けることになったしまった、この未熟ものめ、と虎眼はほくそ笑む。

 まだまだ伸びる余地があるということだ。

 

 同時に考える。家老孕石様によって裕次郎の跡目の線は消えている。

 孕石様による裕次郎の評価は最悪だ、跡目にすることは叶わない。だからこそ表向きは源之助か伊良子を跡目にし、裕次郎を種として三重を器とするつもりであったが、別の線を考える。

 

 裕次郎は宣言した。

 

 虎眼(・・)()()オレが(・・・)継ぐ(・・)

 

 ならば、別の線を考える。

 

 虎眼は壁に突き刺さった剣を左手で掴み、一気に引き抜く。刀身を確認し、鞘にしまった。

 深く深く突き刺さり、簡単に引き抜けぬはずの刀を容易く引き抜く膂力を見た三重が、改めて父の実力を知ることで戦慄する。

 

「三重よ」

 

 虎眼は三重の方を見ることなく、言葉を掛ける。

 

「裕次郎は、破門じゃ」

 

 三重は驚きで目を見張った。

 

「なん、」

「同門を手に掛けた」

 

 虎眼は一言、

 

「故に、裕次郎は破門とする」

 

 それだけ言って口を閉ざし、道場を後にした。

 道場に残ったのは、未だ乱れた衣服のままへたり込む三重と、気絶する門弟たちのみ。

 だが、三重は虎眼に言われた言葉の意味を理解しようとして……そのまま動けなかった。

 

 虎眼の言葉を聞いていたのは、三重のみ。

 

 いや……三……。




お待たせしました。
本日より更新再開です。

試験、疲れた……頑張ったけど、受かってるといいな……。
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