障子を破壊しながら、オレの身体が宙を舞う。
思い切り蹴飛ばされたせいで、腹部と背中に激痛が奔った。
啖呵を切ったは良いものの、親父の一撃一撃は読むには難しく、避けるには速く、受けるには重すぎる。
ものの見事に一撃でグロッキーになったオレは、再び中庭で胃の中のものをリバースするハメになった。
とはいえ、昨日の夜から何も食べていないために、血痰混じりの胃液しかでないわけだが。
「うげぉぇぇぇ……!!」
親父の蹴りは常軌を逸してる、これで本当に四十代なのかよ!?
あの脚力で四十代って、絶対に年齢詐欺かなんかだろうが!!
ふらつく身体を叱咤して立ち上がると、親父は部屋の中にあっただろう刀を持っており、縁側からオレを見ていた。すでに鼻の血は止まり、曖昧な状態からは脱している。
そして、刀を抜いた。白銀の刃が、オレの目に映る。
「裕次郎」
親父は鞘を捨て、虎の握りにて刀を持つ。
「止めるならここまでじゃ」
最後の最後で慈悲のつもり、か??
あの虎眼が? 作中屈指のイカれっぷりを見せた、あの虎眼が??
だが、オレの答えは決まってる。親指で首をかっ切るようなジェスチャーを見せたあと、
「ありえねぇな」
と、笑みを浮かべて返した。
オレの手元に刀はない。木刀すらない。となれば、どこかで刀を調達せねばならん。
……となれば、道場か。あそこになら槍も刀もある。
親父の攻撃を凌ぎながら道場に駆け込み、刀を調達し、同時に門弟たちとバトる。
分の悪い賭けだなぁ、と思わず苦笑いが出た。
「オレは虎眼流を継いで、お前ら全員破門にしてやると決めたんだ。ここで逃げてたまるかよ!」
「裕次郎様!?」
中庭に響く、乙女の声。
そちらを見れば、三重ちゃんがオレを驚いた目で見ていた。まだ寝間着襦袢の姿で、正直下着類がないせいでだいぶ肢体がうっすらとなってるから目に毒だ。
そして、今更気づいた。まだ早朝か。
あんな朝速くから盛ってたのか、この親父。
お屠蘇をいただいて穏やかに過ごす日に、何やってんだお前ぇ!
オレは努めて冷静に、三重ちゃんに笑顔を向けた。
「大丈夫だ三重ちゃん。オレが」
親父を指さして言った。
「あんなことをした糞親父の鼻っ柱に、一撃入れたやったからな。んで、もう一発入れて、三重ちゃんの怒りをわからせてやるから!」
「裕次郎様……」
三重ちゃんが胸の前で手を組んで、目を伏せた。
「男は拳を握らなければならないときがある。女子供泣いて悲しんでるときがそうだからな!」
例え勝てる見込みがないとしてもやらないとな。
瞬間、オレの首に冷たい感触、瞬時に屈むと、親父の流れがオレの首があった場所を通り過ぎていた。
親父を見ると、愉快そうである。その面、もう一回叩きのめす。
オレは道場に向けて走り出した。
勝てる見込みがないのなら、勝てる見込みを手に入れるまでよ!!