シグルってたまるか   作:風袮悠介

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39話・例え勝てないとわかっていても、男には意地を張らねばならぬ時がある

 ぞろぞろと門弟たちが道場を出て行く。みんな、一様に無表情だ。

 虎眼の親父がそう命じたから、みんな命じられたまま道場を出る。刀を持った剣士二人と虎眼流印可を受けた牛のおっさんの三人が道場に残る、という意味を理解してるだろう。

 

 オレと親父は、秘奥を用いた殺し合いを行う。

 あるいは秘剣伝授のそれかもしれない、とも。

 

 ここは親父が秘剣を開眼した昆嶽神社ではない。虎眼流にとっての聖地ではない。

 それを考えれば、秘奥を用いた殺し合いだと考える、というのが高弟たちにとっても門弟たちにとっても、道理の考えだと思う。

 

 だが、出て行く源之助アニキの顔はどこか悲しそうであった。

 同時に、伊良子の兄者の顔はどこか悔しそうであるのだ。

 

 二人はわかってる。ここで殺し合いも行われるが、秘剣伝授も行われるのだろうと。

 オレは名目上、門弟の末席に名を連ねる程度の下っ端だ。

 名目上それであるため、昆嶽神社という虎眼流の聖地で秘剣伝授を行うことができない。

 だから、ここでやるのだと。

 そして、伝授に失敗すればそのまま虎眼の親父はオレを殺すというのも、二人は理解してる。

 

 と、思うんだけど、実際はどうだろうな。どう考えてんだろ?

 シリアスに考えてみたけど、よくわからん。

 

 というか、そうやって思考を逃避してないとこれから起こることに心が追いつかねぇ。

 

 オレと親父と牛のおっさんの三人だけが残った道場で、親父は刀を片手にしたまま、再び虎の握りを行う。

 初っぱならから出すか、流れ星。

 親父は何も言わぬ。眉間に皺を寄せ、ギリギリギリギリと刀が軋むほどの力が込められている。

 

 右手はネコ科が爪を立てるが如き握りで柄を掴み、

 左手は指で刀身を挟んで固定する。

 

 ファンからデコピン剣術と言われた、虎眼流の奥義、流れ星。

 

 その混じりっけのない本気が、眼前に顕現していた。

 いやマジで怖いわ。

 

 これを伊良子は、最初にキン〇縮こまる思いで対峙して、次には勝ったのか。やっぱあいつ、天才だわ。

 で、その伊良子に勝ったのがアニキか。やっぱ凄いな。

 

 凄い二人と一緒にいるオレはなんだ?

 原作知識とチートに頼り切ったオレはなんだ?

 

 なんだか無性に、悔しいというか情けなくなってきた。

 

 オレもまた、流れ星の構えを取る。目の前の親父のそれを、できるだけ模倣する。

 

 姿も、力も、気も、何もかもを。

 

 全て盗んで、流れ星を手に入れる。

 

「ほぅ」

 

 親父は一言だけ、それだけ言うと、再び口を閉ざして機を待つ。

 オレもまた同様に、一つでも多くの流れ星の骨子を盗むように、観る。

 

 道場に、オレと親父の流れ星が奏でる金属異音のみが、鳴っていた。

 

 模倣では勝てぬことは分かってる。超えねば勝てぬ。だが、まだ模倣を超えることができない。

 

 だけどなぁ、男には例え勝てないとわかっていても、男には意地を張らねばならぬ時がある。

 

 今度は余計な言葉は話さない。

 騙し討ちはしない。呼吸を合わせる。

 相手の気が抜けた瞬間を狙う、いや。

 

 圧倒する。

 

 そして、オレと親父の流れ星は同時に放たれた。

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