シグルってたまるか   作:風袮悠介

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40話・秘剣伝授

 オレは見た。

 親父の流れ星を。

 

 シグルイの流れ星。

 

 それを作中で使うものは岩本虎眼、藤木源之助、伊良子清玄、牛股権左衛門の四名。

 藤木源之助と牛股権左衛門の流れ星はどこか似ている。人差し指と中指ではなく、親指と人差し指で挟む点と、身体の前に刀身を真横にして構えるところが。

 岩本虎眼と伊良子清玄の流れ星は似ていて、刀身を少し左に振り上げてる格好だ。

 

 実は眼前で見て気づいたのだが、虎眼式流れ星と牛股式流れ星、伊良子式流れ星と藤木式流れ星には、明確な違いがある。

 

 足だ。

 

 特に、右足。

 

 右足をどれだけ前に出しているか、そこだ。

 

 右足を意識して前に出すことで、刀身の力の溜めのとき、背中と腰にも捻りと溜めが生まれる。

 左の指に関しては虎眼式にすることで刀を担いだときに、そっちの手首や肩関節に余計な力の意識が生まれることなく、自然としていられる。

 

 だが、やはり右足だ。

 

 デコピンばかりで見ていなかったしオレも意識していなかったが、右足をどのように前に出しているか。

 

 そこにある。

 

 袴の下に隠れた膝、足首、足の指にも術理があるとは思うが、そこは見えないから。

 

 あとは、身体が自然となる形に任せた。

 

 そうして放たれた白刃二つ。

 無心にて撃った星は、再び親父の星と激突した。

 だが、今度は刀が弾かれることはなかった。

 

 二振りの刀は激突した瞬間、パァン! と刀が砕けてしまった。

 

 同じ威力、同じ軌道、同じ速度の技が、ほぼ同じ硬度の刀とぶつかり合って相殺した形。

 ありえるの? 目の前に起こっとんじゃいっ。

 

 すぐに柄から手を離したオレは、半歩前に出る。

 

 親父がすでに間合いを詰めていた。左の虎拳が迫ってくる。

 

 その虎拳が頬に着弾した瞬間でも、オレはしっかりと目を見開いたままであった。

 痛みは受け入れる。恐怖も受け入れる。

 

 首を左に捻りつつ威力を逃がし、虎拳を流す。

 親父の顔に、僅かな驚愕が浮かんだ。

 

 スリッピングアウェーで捌き、右フックによるカウンター。

 

 その拳を、親父の頬に叩き込む

 

 ぐしゃ、と確実に親父の頬を打ち抜いた感触が確かに拳に伝わった。

 ふらつく親父の姿を見て、勝ったと確信した。

 

 だが、親父の身体が急回転。

 親父の回転右肘打ちが、オレの首に叩き込まれた。

 

 グキ、と変な音が鳴った。首への一撃はオレの意識を刈り取るに至る。

 

 ちくしょう。

 だが、一発叩き込んだぞ。

 

 にやり、と笑って、オレは意識を手放した。

 

 

 

 

 うぐ、と呻いて意識を取り戻す。

 記憶が曖昧すぎて、オレがなんでここにいるのか、なにをしてたのか、ハッキリとしない。

 徐々に徐々に意識が明瞭になっていき、体中のだるさに抗いながら目を開く。

 疲労とだるさで動けないまま、視線を横に向ける。

 

 そこには肩で息をする親父と、それを支える牛のおっさんの姿があった。

 親父の頬には、オレが殴った青痣と口元からの血が見えて、ちょっと誇らしく思ったぜ。

 何かの会話をしているが、よく聞こえない。

 

 何を言ってんだ……だが、関係ない。

 オレは意識を一気に覚醒させ、立ち上がる。がば、と、それまでの疲労や眠気など全て無視して、側に転がっていた刀の残骸に手を掛けた。

 刀身半ばで折れて砕け、もはや小太刀より少し長めのなまくらと化したそれ。

 

「親父」

 

 親父と牛のおっさんは、驚愕した顔でオレを見ていた。

 

「秘剣、確かに受け取った」

 

 オレは構える。

 無いはずの刀身を左指で挟み、虎の握りを行う。

 

 流れ星。

 

 親父のそれを見た。

 親父のそれを受けた。

 親父の星に、手を伸ばした。

 

「裕次郎」

 

 親父はオレの姿を見て、涙を流した。

 隣の牛のおっさんも、オレを見たまま固まっていた。

 

 二人の顔を見て、頷いてから、言う。

 

「虎眼流流れ星」

 

 オレの一言とともに、ひゅ、と軽い風切り音と共に、刀身は射出(・・)される。

 ないはずの刀身を用いたデコピン剣術、流れ星は確かに再現されていた。

 振り切った姿勢から、オレは残心を行い、姿勢を正す。

 

 そして、親父と牛のおっさんの前で正座して頭を下げた。

 

「お世話に、なりました!!!! ありがとう、ございました!!!!」

 

 オレの秘剣伝授、そして。

 

 凶つ星と綺羅星が真に完成を見た瞬間であった。

 

 

 

 それは同時に。

 虎眼流道場からの巣立ちを意味していたのだった。




R7/6/19
申し訳ありませんが、リアルで問題が起こりましたので、解決まで更新をお休みさせてください。
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