オレは見た。
親父の流れ星を。
シグルイの流れ星。
それを作中で使うものは岩本虎眼、藤木源之助、伊良子清玄、牛股権左衛門の四名。
藤木源之助と牛股権左衛門の流れ星はどこか似ている。人差し指と中指ではなく、親指と人差し指で挟む点と、身体の前に刀身を真横にして構えるところが。
岩本虎眼と伊良子清玄の流れ星は似ていて、刀身を少し左に振り上げてる格好だ。
実は眼前で見て気づいたのだが、虎眼式流れ星と牛股式流れ星、伊良子式流れ星と藤木式流れ星には、明確な違いがある。
足だ。
特に、右足。
右足をどれだけ前に出しているか、そこだ。
右足を意識して前に出すことで、刀身の力の溜めのとき、背中と腰にも捻りと溜めが生まれる。
左の指に関しては虎眼式にすることで刀を担いだときに、そっちの手首や肩関節に余計な力の意識が生まれることなく、自然としていられる。
だが、やはり右足だ。
デコピンばかりで見ていなかったしオレも意識していなかったが、右足をどのように前に出しているか。
そこにある。
袴の下に隠れた膝、足首、足の指にも術理があるとは思うが、そこは見えないから。
あとは、身体が自然となる形に任せた。
そうして放たれた白刃二つ。
無心にて撃った星は、再び親父の星と激突した。
だが、今度は刀が弾かれることはなかった。
二振りの刀は激突した瞬間、パァン! と刀が砕けてしまった。
同じ威力、同じ軌道、同じ速度の技が、ほぼ同じ硬度の刀とぶつかり合って相殺した形。
ありえるの? 目の前に起こっとんじゃいっ。
すぐに柄から手を離したオレは、半歩前に出る。
親父がすでに間合いを詰めていた。左の虎拳が迫ってくる。
その虎拳が頬に着弾した瞬間でも、オレはしっかりと目を見開いたままであった。
痛みは受け入れる。恐怖も受け入れる。
首を左に捻りつつ威力を逃がし、虎拳を流す。
親父の顔に、僅かな驚愕が浮かんだ。
スリッピングアウェーで捌き、右フックによるカウンター。
その拳を、親父の頬に叩き込む
ぐしゃ、と確実に親父の頬を打ち抜いた感触が確かに拳に伝わった。
ふらつく親父の姿を見て、勝ったと確信した。
だが、親父の身体が急回転。
親父の回転右肘打ちが、オレの首に叩き込まれた。
グキ、と変な音が鳴った。首への一撃はオレの意識を刈り取るに至る。
ちくしょう。
だが、一発叩き込んだぞ。
にやり、と笑って、オレは意識を手放した。
うぐ、と呻いて意識を取り戻す。
記憶が曖昧すぎて、オレがなんでここにいるのか、なにをしてたのか、ハッキリとしない。
徐々に徐々に意識が明瞭になっていき、体中のだるさに抗いながら目を開く。
疲労とだるさで動けないまま、視線を横に向ける。
そこには肩で息をする親父と、それを支える牛のおっさんの姿があった。
親父の頬には、オレが殴った青痣と口元からの血が見えて、ちょっと誇らしく思ったぜ。
何かの会話をしているが、よく聞こえない。
何を言ってんだ……だが、関係ない。
オレは意識を一気に覚醒させ、立ち上がる。がば、と、それまでの疲労や眠気など全て無視して、側に転がっていた刀の残骸に手を掛けた。
刀身半ばで折れて砕け、もはや小太刀より少し長めのなまくらと化したそれ。
「親父」
親父と牛のおっさんは、驚愕した顔でオレを見ていた。
「秘剣、確かに受け取った」
オレは構える。
無いはずの刀身を左指で挟み、虎の握りを行う。
流れ星。
親父のそれを見た。
親父のそれを受けた。
親父の星に、手を伸ばした。
「裕次郎」
親父はオレの姿を見て、涙を流した。
隣の牛のおっさんも、オレを見たまま固まっていた。
二人の顔を見て、頷いてから、言う。
「虎眼流流れ星」
オレの一言とともに、ひゅ、と軽い風切り音と共に、刀身は
ないはずの刀身を用いたデコピン剣術、流れ星は確かに再現されていた。
振り切った姿勢から、オレは残心を行い、姿勢を正す。
そして、親父と牛のおっさんの前で正座して頭を下げた。
「お世話に、なりました!!!! ありがとう、ございました!!!!」
オレの秘剣伝授、そして。
凶つ星と綺羅星が真に完成を見た瞬間であった。
それは同時に。
虎眼流道場からの巣立ちを意味していたのだった。
R7/6/19
申し訳ありませんが、リアルで問題が起こりましたので、解決まで更新をお休みさせてください。