シグルってたまるか   作:風袮悠介

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多分、トラブルを乗り越えたので更新を再開します。
このトラブル、いつ再発するかわからない……。


41話・いや巣立ちとは言ったけどさ

 その後、門弟たちと高弟たちが呼び戻された。

 道場両脇には高弟のみんなと門弟のみんなが正座してる。そこには源之助アニキと伊良子の兄者もいた。二人とも、こっちを見ようとせずに宙空を見るばかりだ。

 

 上座には親父と、三重ちゃんがいる。その後ろの隅には牛のおっさんが控えていた。

 

 なに、この状況?

 

 流れ星を受け取り、他の星も完成したと感じてたんだけど、なんか知らん間にこんなことになっている。何故だ、何故みんなここにいる。

 

 オレは道場の真ん中で正座して、この空気のド真ん中に置かれているわけだ。

 何故だ。

 

「裕次郎」

 

 親父が厳かに口を開いた。

 

「今、この場を持って虎眼流印可を授ける」

 

 牛のおっさん以外のみんなが驚いた顔をした。

 そうだよな、オレは名目上で門弟の末席に名を置く下っ端だからな。

 指導とかしてたけどさ、新参者は知らないだろうし他の人たちだって昨日のことを考えたら、どうしてこうなったんだと理解しにくいんだろうなぁ。

 

 オレもそうだよ。

 

「そして、三重との婚儀を許す」

 

 ……んぅ!?

 

「先生! それは!」

「裕次郎よ、どうだ」

 

 親父の顔を見るが、そこにおふざけは一切ない。いや、今までふざけてたことはないけどさ。

 本人は真面目だが言われた当人にとってはふざけるなってことは多かったけど。

 

 ふと、親人の隣に座る三重ちゃんを見る。

 彼女自身はどう思っているのだろう、気になったからだ。

 嫌とか思ってないだろうか、とか。

 

 彼女の顔はどこか嬉しそうだ。心待ちにしてた、と言ってもいい。

 これは、あれじゃな? オレ、やっちまってたかな?

 

 いやモテてるなんて自惚れたことは言わねぇけどさ!

 

 ま、オレの答えは決まってる。三重ちゃんには悪いが、オレは婚儀を受ける気はない。

 それをするのは、源之助アニキこそが相応しい。そこは牛のおっさんの言う通り、三重ちゃんを慕っているからな。

 

 なので、オレの行動も決まってる。

 その場で深々と頭を下げて言った。

 

「ありがたい申し出ではございますが、その婚儀、慎んでお断り申し上げまする」

 

 ハッキリと、オレは断りの文句を告げた。

 ちらと視線を上げて三重ちゃんの顔を見ると、傷ついているようだがどこか納得したような、悲しそうな笑みを浮かべていた。ごめんね。

 平伏したままで待機していると、親父がこちらへ言う。

 

「何故だ」

 

 親父は親父で複雑そうだけど、こっちも納得してる感じだ。

 ……ちゃんと言わねぇとダメだな。平伏したまま、オレは言った。

 

「三重様にとってオレがその相手と望まれることは、凄く光栄なことと存じます。しかし、それは言葉を変えればオレしか知らぬ、見えておらぬと同義であります」

 

 そら、町に一緒に出て遊ぶような奴なんて、オレしかいなかっただろうな。

 一応、アニキを連れて一緒に行動してたこともあるけど、あくまでも主体はオレだ。だから、オレが特別に見える。

 

「世の中には、オレよりも三重様に相応しく、岩本家虎眼流の跡目を引き継ぐに足る相応しい方もいらっしゃるかと」

「……儂は」

「オレでは、ダメなのです」

 

 顔を上げて言った。

 

「オレでは虎眼流を継ぐことはできても、掛川藩武芸師範役岩本家虎眼流の跡目を引き継ぐことができないのです」

 

 これしか言いようがないんだよな~本当のことだからさ~真顔で言うけど心では悔しさで一杯だわ。

 この世界に生まれて結構経つけどさ、武芸師範のというかお家を継ぐ、というか家の経営を回すってのは知らねぇ。自分で金稼ぎはできても家を保つというのができない。

 やり方もわからんし、この時代やこの世界の常識を、オレはまだよく知らない。

 

 知らないというか知っても実践ができない。

 

 そういう性分だから。無理なものは無理!

 なので、オレができるのは一つだけだ。

 

「もし、それでも三重様がオレが良い、とおっしゃるのならば」

 

 改めて三重ちゃんの顔を見た。

 

「それは三重様がもっと大人になり広い世界を見て、相応しき相手を見つけて決めることにて。

 俺はその日を、心待ちにします」

 

 最後の最後は源之助アニキに丸投げってことよぉ!

 相応しき相手、ということならば源之助アニキ以外に相応しい人はいないだろ!

 岩本家に忠誠心があって、三重ちゃんを裏切らず、虎眼流を大切にし、お家に誇りを持ち、相応しい実力を持っているともなれば、アニキしかいねぇ。

 伊良子の兄者はダメだ。何度も何度も考えたが、やっぱり最後は岩本家を踏み台にして出世することしか考えねぇ。

 そうなったら残された人たちが悲惨だ、あいつは残っている人のことなんて考えねぇからな。

 

 考える頭があったらそもそも師匠の愛人に手を出そうなんぞ考えないけどな。

 

「そうか」

 

 虎眼の親父は少し目を伏せた。

 その間、だーれも何も言わない。ふと横目で源之助アニキを見る。

 

 スッゲェ虚な目だな。あれだ、虎の握りを習得した原作の夜みたいな目。

 隣の伊良子の兄者は目を閉じているから、どう考えてるのか分かりにくい。難しい、どう考えればいいんだ?

 

 誰も彼もが黙りこくった道場で、ようやく親父は目を開いた。

 

「裕次郎」

「何?」

 

 親父はオレを見て言った。

 

「ここより別なところに新たな虎眼流道場を持て」

 

 ……へ?

 

「つまり、出て行けってこと??」

「以上。下がれ」

 

 え、え? 何を言われた、オレ? なんのこっちゃ?

 周りを見ても高弟も門弟も、源之助アニキも牛のおっさんも、みんな驚いている。隣の三重ちゃんなんて、目を見開いて親父を見てる始末だ。

 

「お父上、それは」

「気が変わったまで」

 

 親父はそういうと、再び言った。

 

「下がれ」

 

 二度目の下がれには、力が籠もっていた。

 

 三重ちゃんも含めたみんなが、道場から出て行く。オレを見て、何がどうなってるのかわかってない感じだ。

 オレもわからない。どうしてこうなったのか。

 呆然としたままその場で正座していたが、親父も立ち上がった。

 

「ま、待て、待ってくれ親父」

「儂は」

 

 親父はオレを見て言った。

 

「始めは、お主を破門にしようとした」

 

 オレの頭の中に、再びハテナマークが飛び交う。

 ??? 破門? え、虎眼流を名乗ることも語ることも禁止されるわけ?

 

「破門にし、お主自身の手で新たな流派を興させ、別口の形で三重への種とする、と」

 

 こ、こいつ、こいつとんでもねぇことを考えてやがる、そんなことが許されるわけがあるか!!

 オレが眉をつり上がらせて立ち上がる前に、さらに親父は続けた。

 

「だが、もうよい」

 

 段々と、親父の顔が穏やかになっていった。

 

「儂の剣は、もうお主に引き継がれた。流れ星も全て」

「親父」

「裕次郎」

 

 オレの声が震えてる。何を言われるかわかるからだ。

 

 親父は、あの日のような、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「出来上がった喃」

 

 それだけ言うと、再び顔から笑みを消し、道場から出て行った。

 座ったまま、その場から動けず、オレは親父が道場から出て行くのを見送ることしかできなかったんだ。

 

 一人残されたオレは、困り果ててしまっていた。

 

「え……え、これ、巣立ちってこと?? いや、そう言ってるようなもんだけどさ」

 

 確かに秘剣を伝授され、師匠から、なんというか、のれん分け? みたいなのを言い渡された。

 剣士としてこれ以上無く出世した形になったわけだけどさ。思わずやっちまったけどさ。

 

「どうしよう……このままだとシグルイ本編から追放ってことにされちゃう……源之助アニキと三重ちゃんを助けられないってこと……?」

 

 こうなるって思ってなかったよっ!!

 勢いだけで親父に戦いを挑んで秘剣伝授までされたけど、そこからどうしようなんて考えてなかったんだもん!!

 

「えー……その……あ、撤回、は、無理ですよねー……?」

 

 ほんと、勢いだけで行動するもんじゃないわ! 舟木道場での反省が生かせてねぇ!!!

 

 オレは再び心底後悔しながら、どうしたもんかと頭を捻るハメになってしまった。

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