三重は天井を見上げている。
虎眼流道場の冷たい床に、屈強な男四人がかりで手足を全力で押さえ付けられている形だ。
門弟と高弟たちにより無理矢理着物を剥ぎ取られ、襦袢一枚で床に貼り付けられたその姿は、まるで子供に弄ばれる前の蛙のようであった。
両手両足を全力で押さえ付けられた痛みはあるが、三重にとってはどうでもよいことだ。
(傀儡……)
三重はすでに、諦めていた。
(男はみな傀儡)
お家のためとはいえ、ここまであからさまな扱いを受け、さらには玩具のようにされれば怒りはおろか、笑いすら出てこない。
無表情のまま、三重は天井を見る。
(三重は産むための道具。産まれてくるのは蛭子)
男児であろうと女児であろうと、産まれてきた子は父親の意向に従わねばならず、当主となったものの命令に従うために意志をなくすことになり、世代交代をしても続く。呪われたお役目からの解放はない。
いずれ傀儡になるであろう子ならば、蛭子と呼んでも変わりはないではないか。
「い~」
父親、虎眼の呻き声が聞こえる。ボタボタと涎が落ちる音すらも聞こえた。
す、と伊良子が動く音が聞こえる。
不思議と、左腕を抑える手が震えていることに気づいた。伊良子の動きと同時だ。
確か……左腕は源之助が抑えていたはずだが、と視線を向けた。
泣きそうな顔のまま、鼻血を流していた。
先ほど必死に隠した顔を、もう隠せぬままに露わにしているのだ。
頭上の方にいる牛股の顔はいつもと同じだが、眉間に僅かにだが力が籠もっているようであった。
三重がそれを考える前に、伊良子が動き……止まる。
何をするつもりかはわからぬが、逡巡しているのか? とも思った。
三重の方からでは足下のことなので、押さえ付けられている状態では見ることすら叶わない。
だが、伊良子は動かなかった。
かしゃり、と音が鳴る。
幾度となく聞いた、父親が鞘から剣を抜かんとする音。
伊良子は何か溜め息を吐き、そして、
三重の股ぐらの間に、体を入れてくる。
怖気立つ感覚だった。そういうこともある、と思っていたものの、その相手が父親の意志とあれば傀儡となるような男であれば、嫌悪感が先立つ。
このまま三重は、望まぬまま蛭子を孕み、蛭子を産み、蛭子を育て、蛭子のまた子である蛭子を見ることになるだろう。
そこまでくれば、もはや三重の中にある意志は固まる。
死のう――。
――舌をかんで死のう。
――裕次郎様。おさらばです――。
三重は己の奥歯に舌を挟み、力を込めていく。死への恐怖と生から来る絶望の狭間で、三重は懊悩を繰り返した。その間にも、伊良子は股ぐらの奥へ、乙女の秘所へと迫る。
覚悟をせねば、だがしかし、と無限に繰り返し続け、とうとう内太股に伊良子の体が触れる。
ぐ、と三重の顔に力が籠もった。
逡巡してる暇はないと言わんばかりに。
だが、どうだろうか。
ふ、と。股ぐらにあった伊良子の感触が消えたのだ。
「お許したまわりますよう」