雪が積もり、晴れ渡る青空の下で伊良子清玄が歩いていた。
片手には土産となる箱を携えている。
歩いていると、子供二人が雪だるまを作って遊んでいた。立派な大きさの雪だるまを前にして、伊良子は立ち寄った。
二人の前で膝を曲げ、伊良子は拾った松ぼっくりを雪だるまに装飾する。
松ぼっくり二つで、雪だるまに目を飾りつけた形になった。
それを前にして伊良子は満足そうに微笑んでから、伊良子はその場から立ち去る。
ここは逆川に面した貧民集落。年の瀬の賑やかさはここにはない。
その一つの家に入り、中に上がる。
布団の中で眠っている女性に、伊良子は話しかけた。
「お袋……」
女性……清玄の母の
壮年の女性がにこりと笑っていった。
「い、いらしゃんせ〜」
着ていた襦袢をはだけさせる。
蓉は夜鷹であり、その声は少女そのものであった。
さらにその頭は七年前より、脳梅に侵されて曖昧な状態となり、今では息子と客の区別すらままならない。故に、こうして
伊良子ははだけた襦袢を戻し、蓉の前に手拭いで包まれた箱を差し出した。
蓋を開けると、そこには銀鐔があった。
焼餅で中に餡子が詰められた高級菓子である。
「いつか死ぬほど食ってみたいと言っていた、もちやの銀鐔」
箱いっぱいにある銀鍔を見て、蓉は「ヒグ……」と声を漏らし、銀鐔に齧りついた。
次々に銀鍔を喰らう母を前に、伊良子は懐からさらに一冊の草双紙を出した。
「あとこれ。卍手裏剣先生の草双紙。お袋、卍手裏剣先生のこの本、好きだったもんな」
伊良子は母の前に出したが、蓉は首を傾げて草双紙を見てから、再び銀鐔に喰らいつく。もう興味は失っているようだ。
当たり前である。蓉は別に、卍手裏剣の草双紙が好きなわけじゃない。
確かに面白くて読んではいたが、伊良子ほどではないのだ。
「……もうじき、三百石の屋敷が手に入る。ぬかるみ長屋とはこれ切……」
す、と伊良子が立ち上がる。銀鐔を食べる、幼児退行した母の後ろへ移動。
卍手裏剣の草双紙を一瞥して、頭を下げる。
(ありがとう、裕次郎。ありがとう、卍手裏剣先生。あなたの思想、主義、その考えは己を救ってくれた)
親に縛られなくてもいい、権力に縛られるのなんてクソ喰らえ、夢を叶えるために頑張る。
立ち塞がるものは権力者だろうが強者だろうが立ち向かう。
それが、たとえ、肉親であろうとも。
——只今より、清玄の身分は、士にござる。
伊良子の腕が、蓉の首に回る。
まるで草双紙に、いや、卍手裏剣に見せるようにして、そして……。
完全にダウン中。
皆様も体に気を付けてくださいね。