シグルってたまるか   作:風袮悠介

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6話・ここからアニキが旅立つんだな。だが逃げられない!

「あ、こっちでーす」

 

 オレはさらっとアニキを売った。アニキはめちゃくちゃ驚いてオレを見ていたが、知ったことか。

 まさかここで虎眼とエンカウントするとは思わなかった……! 失敗した、本来はアニキが吊されて虎眼に持っていかれるはずだった。

 だが、吊されてるのはオレ。しかし殺したのはアニキ。

 

 すまねぇアニキ、オレのために原作へ連れて行かれてくれ!!

 

「ふむ」

 

 虎眼はこちらに来ると、アニキの前に立つ。背丈の違いから、見下ろすようにしてアニキを観察していた。

 よし、虎眼は原作通りアニキの才能を見つけるな。

 

「オレたち親に見捨てられてましてねぇ……へっへっへ、アニキは」

「……」

 

 虎眼は腰の刀に手を掛けた。

 特徴的な六本指、これがかの徳川に召し抱えられようとしたけど、指を隠したことで出世を絶たれた奴かぁ、と原作ファンとして見ることができて嬉しいぜ。

 

 それが目にも留まらぬ速さで動く。

 

 音も無く閃いた白刃は、オレを木に吊していた縄を断ち切った。

 オレが地面に落ちるより早く、納刀される。

 

「!」

 

 オレは両手両足を縛られていたものの、咄嗟に体を丸めつつ着地の体勢を整えた。

 ど、と地面に落ちたとき、振り上げた足の勢いと丸めた背中の動きで、転がるようにして勢いを殺した。

 しかし、両手は使えず両足は縛られたことで満足に動かせないから、この受け身が不十分になってしまった。

 

「いって!」

 

 思わず口から漏れた言葉だった。

 

「……捨てられた、と言ったな」

「ヒィ!」

 

 あれ? お袋の声? 体をよじって声のした方を見ると、そこには両親がいた。

 何故ここに? と思ったが、確かに原作だと吊された源之助アニキの側に両親がいたな。

 おおよそ、オレの様子を見に来たってところか。

 で、オレは生きてるし(さむらい)は来てるしで混乱してる、と。

 

「ならば、この童。いらぬなら貰うぞ」

 

 虎眼は源之助アニキの前に立ち、そう宣言した。

 他ならぬ(さむらい)の言葉だ、オレたち農民が逆らえるなんてできねぇ。

 え? 悪童くんはなんなんだって? 仕方ないんだ、彼は害獣なんだ。そういうもんだと思ってくれ。

 

「……」

 

 源之助アニキは虎眼を見上げ、コクンと頷いた。

 良かった……本来の原作だと、吊されてボロボロだったアニキを助けて、そのまま連れて行ってたからな。今は吊されていないものの、アニキがどう連れ去られるかわからなかったからな。

 どうやらアニキは着いて行くと決めたらしい。

 

 よし、これでシグルイ、完!!

 

 オレはこのまま原作からフェードアウトさせてもらうでぇ!!

 すまねぇなアニキ、ぐっへっへ!!

 

「……そこの童もだ」

 

 ふぇ?

 

「そこの童もいらぬならもらうぞ」

「まままままままま、待って待って!」

 

 なんと、虎眼はオレの方にまで視線を向けて、連れ去る発言をしやがるじゃねーか!

 オレは全力で拒んだ。手足が縛られたままだったけど、ビタンビタンと跳ねて拒んだ。

 拒むだろ普通はよー。

 

「オレも捨てられてますけどねぇ! ほら、お(さむらい)さんの目に敵う才能はアニキの方が上ですからねぇ! そっちだけで良いと想いますよぉ!? ほら、オレはみそっかすなんでぇ!」

「裕次郎は」

 

 ふぇ?

 

「裕次郎は、最初にあいつに勝った」

 

 アニキぃ!? なんで虎眼を真っ直ぐに見て言うんだよアニキぃ!?

 虎眼は虎眼で源之助の顔を真っ直ぐに見て、ジッと観察していた。

 

「いや、まぁ、最初に殴りかかったのはオレですけどねぇ!? でも、その、ほら! 最終的に士果たしたのはアニキですんでぇ!! オレはアニキの露払いみてぇな」

「黙れ」

 

 チィィィン。

 と、納刀音が鳴ったかと思うと、オレの手足を縛っていた縄が断ち切られていた。

 いつの間に、今度は抜刀の瞬間すら見えなかった!

 両手両足が自由になったオレだったが、すぐに行動せねばいけない。

 

 このままだと、虎眼とアニキによって原作に引きずり込まれる!!

 

「縄を断ち切ってもらってあざーすではオレはこれっ!!??」

 

 立ち上がって逃げようとした瞬間、右足首に冷たい感触が覚えた。

 咄嗟にその場で跳ねると、なんと虎眼の抜刀がその地点を閃いてるじゃねーかよー。

 

 避けなかったら、足が切られてた!!

 

「……」

 

 今度の虎眼は、納刀しなかった。抜刀したまま、今度は虎眼流骨子の指の握りを行う。

 ヤバい、今度は斬られる!!

 

「えーと、オレを斬っても面白くねぇっすよ本当に! だからアニキを」

「裕次郎」

 

 ピタ、とオレの体が止まった。

 源之助のアニキがオレを真っ直ぐに見て、一言。

 

()()()

 

 ……はぁ、とオレは大きく溜め息を吐いた。

 

「アニキがそう言うんなら……わーったよ、逃げないよ! 一緒に行くよ!!」

 

 こりゃダメだ、これは逃げられない。

 アニキの目が、原作で伊良子清玄追放直後の牛股が見たあの目になってる。

 怖いわ、あの目。怒りとも悲しみとも言いにくい、複雑な感情のそれ。

 オレは諦めて、両手を広げて降参のポーズを取った。

 

「童」

 

 今度は、右手首に極寒の冷気。咄嗟に下げた瞬間、虎眼の斬撃がそこを通り過ぎた。

 怖っ!!

 

「何すんだジジィ!! 殺す気か!?」

「……見えておる喃」

 

 チン、と今度はゆっくり納刀した虎眼は、オレたちに背を向けた。

 

「行くぞ」

 

 ザッザッ、と歩き出した虎眼。え、マジで? 行かなきゃダメ? オレ?

 アニキはアニキでその背に大人しく着いていく。

 逃げ……ても無駄だなぁ! ちくしょうあのジジイ! オレが逃げた瞬間に胴を真っ二つにする気だ! さっきからヘソの辺り真一文字に寒気が止まらねぇ! 逃げたらここを斬られそうだ!

 

「わーったよ! 仕方ねぇ、行ってやるよ! その前に服を寄越せよな服を!」

「生意気な童だ」

 

 ごちん。

 

 虎眼に走り寄ったオレに、なんとゲンコツをかましてきやがった。いってぇ!!

 

「何すんだジジィ!!! いてぇじゃねぇか!!!」

「……今のは避けられぬか」

「あ? 何か言ったかジジイ」

「じ……っ。……ふん、何でもないわ」

 

 虎眼の顔は、指で笠を深く被り直したせいで見えなくなってしまった。

 どういう表情でいたいけな子供に、このゲンコツをかましてやがんだ虐待反対!

 

 あー……でもこの時代にそんな殊勝な奴ねぇもんなぁ。

 

「アニキ」

「?」

 

 オレはアニキの隣に立って、ニカッと笑った。

 

「なんか良くわかんねぇし大変だと思うけど、がんばろーな」

 

 そう言うと、アニキは前へ向き直って頷いた。

 

 心なしか、嬉しそうに口角が上がってる気がした。

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