43話・あれから数年で時系列を吹っ飛ばすぜ
故郷である掛川藩虎眼道場を離れ、すでにオレは江戸に到着していた。伝手も何もない、現代風に言えば都会に来たお上りさん、田舎ものなわけだな。
あれからオレは、江戸を訪れて行動している。
目的は三つある。
一つは、金岡雲竜斎のもくろみを探ること。
シグルイファンこと虎子のみんななら、あいつのうさんくささは知っているはずだ。
原作にて虎眼の親父と伊良子との一騎打ちのあと、伊良子の正当防衛を役人に証言しやがった。
しかもその後で多額の金銭を得て江戸に大道場を開いたとのことだ。
その資金の出所は定かじゃない。
オレ個人の考察としては、検校との繋がりを疑っていた。
検校は伊良子を支援することで、盲目として財力も権力も手に入れても諦めていた武の領域への進出を狙っていたからな。
目開が何事ぞ、武でも我ら当道座は勝る。
そんなところかな。
しかし、江戸で探りつつ、原作を思い返すとどうにも検校だけじゃない気がしてきた。江戸の街並みを見たことで、改めて気づいたことがある。
おかしい。原作にあるような伊良子への様々な援助を可能とするような資金を得られる立地の良いところに、伝手も何もなく後ろ盾すらない、一介の剣術道場師範役が土地を買って道場を建てられるのか? と。
この時代の江戸は開発途中とはいえ、それでも良いところにはすでに人が住んでたりするものだ。
なのにどこでそんな資金を手に入れて、どこでこの土地を手に入れる話を付けられたんだ?
つっても……原作では江戸のどこに道場が建てられたのか、という詳しい描写はない。ただそういうモノローグがあっただけだ。
ヒントは『大』道場、という大きさと存在だけだからな。
しかし、立派な服を来て駿府に訪れて、立派な名刀を携えて伊良子に渡せるってことは、それだけの資金を得られるほど弟子を抱えた上で、良い立地に道場を建てないと無理だ。
良い刀工に良い刀を注文するって、それだけでかなり金が掛かるはずだし。
なので、それだけの資金力とコネを手に入れられるほどの道場を建てられる立地はここら辺かな? と思うところは回っているだけなんだけど。
だから、オレは疑っている。実は検校だけじゃないな、協力してたのは、と。
二つ目の目的は、オレの道場作りの参考にさせてもらうための道場破り巡りだ。
当たり前だが、オレには道場を建てるような知識はない。帰れば伝手も資金もあるのだが、どこにどのような形で建てれば良いのか、どう運営すれば良いのか、という勉強だ。
虎眼流の道場? あれは特殊な例ですね……。
道場に入って「一手指南つかまつる!」とか叫べば一瞬で勝負成立よ、簡単なことだ。
で、全員をぶちのめして、看板をそのままにする代わりにどんな風に道場経営をしているのか、を聞いて回るわけだな。稼ぎ方とか、弟子の募集方法とか。
最後に去り際に「これが虎眼流の無双許し虎参りならぬ、江戸
次の日には道場が閉じてたので、もうやるのを止めた。悪いことをしたわ。
三件ほどそんなことをしたので、三つの道場を閉じちゃったわけだ。わぁ……ぁ……!
なので次からは大人しく訪れて「自分も道場を建てる身の上なのですが、田舎ものなので不勉強故に、どうか教えを乞いまする」と頭は下げたわけだ。最初の三件は殊勝な態度を評価してくれたのか、軽い木剣試合をして、軽い指導をして、道場主から運営のコツを教えてもらうわけだ。
あとで金銭を渡して「勉強料にございます」と頭を下げれば、向こうもおっけー!
三件やったら、次からは入れてくれなくなった。
オレが道場を潰した話が出回ってしまって、疑われて出禁になったわけだね。
世話になった道場に頭を下げても「江戸建立許し虎参りとかやられたらたまらん!!」とか言って怒られた。
頭を下げまくって許してもらった道場は運営について丁寧に教えてくれた親切なところ一つだけだった。次からはやるなと怒られた。わぁ……ぁ……泣けちゃった……!
数ヶ月ほどそこで道場がなんたるかを学び、弟子の人たちとも交流し、技の研究会もして、非常に充実した。
ときどき虎眼の親父のところに手紙を送ってみたりもした。「無双許し虎参りをもじって勝手に江戸建立許し虎参りとかやってごめんなさい」とか。
親父からの手紙の返しはないが、きっと怒って無視してるんやろうなぁ、と悲しくなる。
そうやって勉強しつつ、オレは三つ目の目的のために動く。
すなわち、柳生新陰流に喧嘩を売ることですね。
あいつらの道場を潰して、柳生宗矩を引きずり出し、ぶっ倒す。
親父の無念を果たすのだ、と。
そこに至るまでの日々を、ちょっと振り返ってみようと思う。
あれは……伊良子追放から数ヶ月後。
道草を食いながらようやく江戸に到着したときの頃から話は始まるのだ。
この章では基本的にオリジナル展開となりますので原作の空気を守り、原作へのリスペクトのために話数は短めの予定です。