シグルってたまるか   作:風袮悠介

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47話・このハゲー!!!!!

 道場主のおっさんからせしめた路銀によって宿を確保をしたオレは、二日目も江戸建立許し虎参りを行い、お美事に道場運営のノウハウと路銀をGetするに至る。

 

「ふふふ……オレの才能が怖いぜ……!」

 

 江戸下町の宿屋を拠点として、手に入れた路銀で宿賃を払って荷物を落ち着けたオレは、窓の外に見える町民たちの帰り模様を眺めていた。

 夕方になる……前辺り、暗くなる前兆が見えたら、もうみんな帰り支度をするかどこの店で食事をするか酒を呑むかを話して楽しそうだ。

 

 まぁこの時代、灯りと言えば蝋燭か油だしね。

 燃料は結構な値段がするんだ。

 月明かりと星明かりで明るい夜にでもならない限り、夜道は危ないからみんなさっさと帰るってわけ。

 

 宿屋の二階の一室を借り受けたオレは、それを二階から眺めていたわけだ。其処ら辺の店で適当に買った着流しを部屋着にして、のんびりと町民の様子を眺める。

 しかし、改めて実感した。

 

「……ほんと、この世界はシグルイの出来事が史実に組み込まれた日本で、ここは本当に江戸時代なんだなぁ」

 

 何人も斬り殺したり道場破りをしておいてなんだが、シグルイ世界ということを考えなければ一種のタイムスリップだ、だからオレの草双紙も未来のネタをパクることで稼げたわけだが。

 

 そういや、稼いだ銭は全て、掛川のあちこちに隠したままにしてたわ。少しでも持ち出しておけば、路銀調達とかせずに済んだわ。

 どのみち野盗や牢人が襲ってきたら返り討ちとして殺して身包み剥いで売れば金になるし、こうして虎参りすれば金はいくらでも手に入る。結構金を手に入れる方法がある分楽というか、簡単なのだ。

 

 本当に簡単か? 一種のやべー奴になっただけじゃねーかオレ? という疑問が湧くが無視する。

 

「さて、昨日今日と一刀流の道場を襲った……ではなく、江戸建立許し虎参りをやったから……」

 

 オレは窓から離れ、部屋の真ん中に置いてある机に向かう。そこには紙と筆と墨があった。

 簡単に江戸の地図を描き、簡単なリマインダーを作ってるわけだ。目標であったノウハウ取得と路銀調達の欄にペケ印を書く。

 そして、次はどこにしようかなと地図を眺めた。

 

「……明日はここら辺の一刀流道場を襲うか、じゃなくて虎参りをやるか。一刀流道場は小野忠明って奴が将軍家剣術指南役らしいから金があって助かるぜ。

 しかし……いろいろと道場を回ってわかったこともある」

 

 オレはノウハウ取得の欄に追加として『門弟獲得』と『有名化』、『スポーツ』を書く。

 

「もう江戸の今の時代になると、戦争武芸としての剣術は成り立たねぇ兆しが出てきてる。戦がねえんだからな、仕方が無い。だから命のやり取りが増えた幕末には実践的な流派に人気が出たわけだしな。

 これはあれだ。剣術道場の運営はスポーツアトラクションのオーナーかスポーツ武道の教室をやるようなもんだと思った方がいいのかな」

 

 最初に襲撃……ではなく道場破りをした一刀流のところと、今日行った……一刀なんとか流道場? ていう、のれんの名前をパクっただけのとこかとも思うような三流剣術道場を見てわかった。

 弟子の質は悪い。

 いや高弟や年齢が上のものは結構やるし、なんならご年配の方々は多分だけど戦経験者だ。そんな匂いがした。

 でも若い人になると血とか怪我が怖いんだろうな、ちと腰が引けてる奴もいる。

 現代日本に比べたら結構度胸があるけどな。

 

 だからだろうな、撓が流行ったのは。竹刀と言えばいいか。

 

 死ぬかもしれない戦で武功を立てて生き残る……とは言っても戦がないんだから痛いのは嫌だし、虎眼流みたいに木剣で殴り合えば死人が出る。

 そんな流派は誰も入門したがらない時代が来るだろな。でも伊良子が復讐に来る頃には門弟1,000人を超えてたそうだから、まだまだ実践剣術が必要な空気感があった。

 

 でもなぁ、現代日本剣道を思い出すと、そんな血みどろな戦いはしてねぇよ。

 袋竹刀を使って戦う江戸時代の剣術道場はかなり荒いけど、ここから徐々に徐々に門弟獲得のために竹刀が普及していくんだろうなぁ。

 

 つまり、門弟を武士のみと定めずに虎眼流みたいに庶民に対しても対象を広げ、その人たちにあった形にする必要があると思う。

 だいたい武士が武術を習得するのが推奨されてたのだって、それが武士道に沿ったものなだけで、武士であるみんながみんな剣術武術弓術馬術に秀でてるわけじゃねぇし。武士ってのは階級でありながら世襲の身分であるだけだ。

 武術の修行はとりあえずやってるだけで、どちらかと言うと銭勘定が得意な武士だっているしな。

 

 娯楽があまりないこの時代だからマンガ形式の草双紙が売れたのだから、スポーツ化した剣術もとい剣道を広めれば、庶民のみんなも楽しんで来てくれるだろう。

 それをやるためには明治初期にあった日本剣道連盟みたいな組織の設立を行い、試合のルール化を定め、武具や竹刀の規定を定め、理念を広めりゃいい。

 「剣道は剣の理法の修練による、人間形成の道である」って奴をな。

 

 良い言葉だと思うよ。

 現代日本には最適。うってつけだ。

 でも江戸時代にそのまんまはダメだなぁ……。

 

 剣術を習ってスポーツを楽しむだけじゃなく、この時代だと野盗だの牢人だの不埒ものから身を守る護身の形も残さないといけない。

 講道館柔道が広まりすぎてオリンピック種目になって動く金の額が増えた結果、スポーツ化が金稼ぎのための悪い方向にいっちゃってるみたいなのも避けたい。

 避けたいが無理だろうなぁ。護身の形を残し、かつ庶民でも楽しめ、最後に金儲けのクズやゴミが近寄らない、もしくは腐った奴が現れたら組織内での私刑を合法化して叩き出せる形にしたい。

 

 無理。オレの領分を越えてる。

 そもそも私刑を合法化ってなんだよ、頭虎眼流か?

 法治国家に憲法だけ独立した政府組織でも作るつもりか、アホだろうがよ。

 金稼ぎだって、先立つものがないと何もできないんだから仕方ねぇだろうがよ。

 

「頭痛くなってきた……虎眼流に染まりすぎて思考が変な方向に向かっちまう……」

 

 寝よ寝よ。こういうときは寝るに限る。外も夕方になったしな。

 

「明日は地図のここら辺にある道場……これも一刀流だったかな……ここを襲撃するか……たんまり金と知識を貯め込んでるといいな……」

 

 布団を敷いて寝転んだオレは、そのまま目を閉じて寝ることにした。

 

 この思考がただの強盗犯かテロリストのそれだと気づいたのは、次の日の朝で目覚めたときだった。

 

 

 

 

 次の日、朝が明るく――なりそうな時間帯に目を覚まし、着替えて腰のものを装備、宿を出て目的地へと向かう。

 今日は曇りかね、とか思いながら江戸の町を歩いていた。

 

 驚いたことに、オレは結構早起きをしたつもりだったがすでに町は人々で溢れていた。

 理由はわかる。明るいうちに仕事をするために、朝6時前には起きて、仕事場に向かってるんだろうな。灯りが乏しいこの時代、日中の時間に仕事をするのが当たり前か。

 

 さて、みんなの顔を見ながら歩いていると、目的の道場に到着。

 すでに威勢の良い声が聞こえる。

 立派な道場だ……門構えも大きく漆喰も綺麗だ。壁の向こう側が見えないくらい高くて立派なものだ。そして規模も結構でかい。

 看板を見れば一刀流の文字。ここで間違いない。

 周囲を見て、オレは門の前に立った。

 

 だがオレは学んだ。

 ここで叫んでも意味が無いことを。

 

「そいやっと」

 

 道場の門を開き、ずかずかと中に入る。

 玉石が敷き詰められた枯山水にししおどしととても風情ある庭と、和風建築として威風ある作りの道場と屋敷。

 そん中にある、威勢の良い声が聞こえる方向へ向かうと暑さ対策のためか戸と窓が開けられた道場が見えた。

 道場の戸の前に立ち、勢いよく叩いて声を張り上げた。

 

「たのもー!!! 某は濃尾より参りし、虎眼流の藤木裕次郎! 一手指南つかまつ――」

 

 声が尻すぼみになっていく中で、オレは道場内の様子を見て固まった。

 

 何故か知らんが、剣術の道場なのにフェンシングのレイピアを持ったハゲと木刀を持った男が向かい合っていた。

 

 ピュン、とレイピアの刀身がうねり閃くと、男の体にレイピアによる刺突が突き刺さる。

 

 どうやらレイピアハゲは相当の手練れらしく、木刀男の体は穴だらけだった。あちこちから血が流れ、今にも死にそうだ。

 その奥には、目が爛々と輝く――親父が戦闘モードになったときの目と、同じ妖しさを持った眼で、この状況を見てるだけの男。

 そして数十人の門弟たちの姿。

 

 そして、ハゲの最後の一突きが木刀男の喉を狙っているのがわかった。

 咄嗟に走り出し、ハゲが放った突きを横合いから介入する。

 

 踏み込み、早い! 刺突、鋭いっ!!! 間に合え! 手を、伸ばす!!

 パァン!!! と、とてつもない破裂音となってしまった形だが、白羽取りにてレイピアの攻撃を止める。

 

 レイピアの刃や刀身は薄く幅狭で小さく刺突に優れた武器で、その大きさの関係上素手で止めるには相当な握力が必要となるんだ。ぶっつけ本番だが、成功して良かったぜ!!!

 

「このハゲー!!!! 試合で相手を殺そうとするとは何事だー!!!!!」

 

 オレが人のこと、言えねぇけどな!!

 

 己の刺突を止められたことに驚いたハゲと、試合に水を差されたことで力が抜けて尻餅を突く木刀男。

 最後に、未だに上座で座ったままこの状況を静観する、恐らく道場主であろう剣士。

 

 混沌を極めようとしてた、なんてな。

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