シグルってたまるか   作:風袮悠介

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 裕次郎のフェンシング感はかなりテキトーです。どうかご容赦ください。


48話・小野忠明ってさ。史実でもやべー奴なんだよ。

 一刀流道場に乗り込み、江戸建立許し虎参りを決めようとしたオレこと藤木裕次郎くん。

 そこで見たのは、ハゲのレイピアが門弟の喉を貫き殺そうとする場面だった!

 思わず止めてしまった裕次郎くんは、いったいどうなるの~~!!?

 

 

 

 

「誰だ貴様」

 

 野太く、低い声だった。

 上座の男から放たれたその言葉は、オレの背筋に氷水を流し込まれたかのような冷たさと、殺気による圧を錯覚させる。

 

「ふぅ」

 

 オレはその圧を誤魔化すように一息吐き、レイピアから手を離す。そして、己の心臓辺りを叩いて威勢良く言った。

 

「オレは濃尾無双の虎眼流、岩本虎眼の弟子! 免許皆伝を賜った、藤木裕次郎だ!!」

「知らんな、そんな田舎流派」

 

 なん……だと……!?

 この道場主おっさん、全くビビらねぇ。圧に変化がない。

 いや親父のことをそう言われたのは仕方ないと思ってる。実際、田舎だしな。

 

「知らないならそれでもいい! それより、なんだこの試合は! フェンシングのレイピアと木刀で試合させるなんて正気か!?」

 

 オレの言葉に、おっさんの眉がピクリと動く。

 

「日本の刀……日本の剣術と西洋の剣術、こんな形で仕合わせても、レイピアが有利に決まってるだろ!! そんなことも知らねぇのか!!」

「……お主、イスパニアの剣法を知っておるのか?」

「これはあくまでも貴族による決闘用の剣術みてーなもんだぞ!? 日本の剣術、刀みてーに戦場ではほぼ使われることのない剣術だ、下手すりゃ競技用の剣だ! 武士道と同じような騎士道の名誉の象徴として身に付ける嗜みのための剣術だ! だいたい、なんで突きだけなんだ! これはサーブル、切りつけもありの剣だろーが!! 何も知らんまま、弟子ににわか剣術を仕込むんじゃねー!!」

 

 すまん、オレもにわか知識でおっさんに文句を言ってる。昔の知識総動員でてきとーこいてるだけです。

 

 ただ、フェンシングと剣術、もとい剣道というものは試合においての相性はフェンシング有利なのは間違いない。

 これは昔、とある番組でフェンシングと剣道はどちらが強いのか? という検証のために行われた異種武道試合にて、フェンシングが勝ったのを見た感想だ。

 しっかりと打突、もとい斬り付けなければ一本とならない剣道に対し、フェンシングはその軽い刀身と身のこなしによって、剣道ではついていけない程の速度で突きを放ってくる。

 これが単純な戦場での殺し合いなら、刀であっても対処は可能だろうさ。

 ただ道場での試合では、その速度と突きという威力と殺傷能力が高いレイピアの突きに、木刀で対抗するのは至難の技だ。

 

 射程も速度も威力も桁違いだからな。あの番組を見たオレの感想というか分析の結果だが。

 

 え? じゃあレイピアの突きをわきで挟んで止めたり、木刀の柄で止めた岩本虎眼はなんなんだって?

 バケモノじゃないですかね?

 

「……して、岩本裕次郎。お主はここに、何をしに来た?」

「決まってる」

 

 オレは持ってきた荷物からよいしょ、と木刀を取り出すと、周囲を見てから叫んだ。

 

「道場破りだオラー!!!! 看板と道場経営の知識と路銀をよこせぇええ!!!」

「ものども、道場破りだ! であえであえ!!!」

 

 やっべやっちまった。

 弟子たちが一斉に槍やら刀やらを持ち出し、一瞬でオレを取り囲んだ。

 かなり訓練と鍛錬を積んでいるのだろう、淀みない動きだった。一人一人がかなりの手練れと見た。

 しかしオレは知ってる。こういうときの対処法を。

 ふ、と笑っておっさんを見た。

 

「かの一刀流が道場破りを多数で囲むとは……恥知らずめ、それでも江戸で隆盛を誇る一刀流か? け、大したことないな。一人で来ないなんて――」

「剣はあくまでも戦のためのもの、人格を高めるためのものではない。人を斬るためのものであろう。恥知らずだのなんだのと、そんな事は死人になってしまったら意味がない」

 

 ん? なんか……おかしいぞ??

 おっさんは冷静な顔で、淡々と語ってやがる。話の流れが変だな……?

 

「儂は昔、柳生に言ったことがある。『お主の息子に罪人の中から腕の立つものを見繕い、真剣で斬り合わせて修行させよ』とな。良い修行になるだろうに、やろうとせんかった。

 そして今日、ちょうど目の前に真剣で切って修行をさせるのに最適な、肉人形がおる。道場破りという形でな。口先だけの兵法など畳の上の水練と同じで意味が無いように、人を斬ったことのない剣士が果たし合いを語るなど言語道断。

 故に、弟子達には人を斬る修練を課そうと思う」

 

 さー、とオレの背筋から体温が抜けるような感覚を憶えた。

 

「将軍家剣術指南役、この小野忠明の小野派一刀流道場に乗り込んで金と看板を奪おうとした不届き者を切り捨てたまで。役所にはそう伝えておこう。これでおぬしを殺しても何の問題も無い。ものども、肉を切る感触を覚えよ。これも鍛錬である」

「「「おう!!!!」」」

 

 あ!!!! ようやく思い出した!!!!

 このおっさん、小野忠明って、シグルイでちょっとだけ出てきたあのおっさんか!!!!

 

 そしてオレは知ってる。

 昔、何かで見たことがある。

 

 小野忠明は伊藤一刀斎のもとで修行し、兄弟子と決闘して勝って正当後継者になった剣豪だ。

 その来歴はどこか嘘くさくて創作では? と言われることも多いが、関ヶ原の戦いに大坂冬の陣、夏の陣に参戦した古豪なのは間違いないと思う。

 

 何より世渡りが下手で、思ったことを口に出す。

 だが強いんだ。強いのは間違いない。

 なんせ柳生宗矩と共に将軍家剣術指南役になるほどだ。

 世渡りが下手なので扶持では差を付けられたが。

 

 そして、考え方があまりに物騒で逸話も血生臭いものばかりだと。

 

 門弟たちが一斉に襲いかかる。多数の槍と刀の煌めきを前に、オレは溜め息を吐くしかなかった。

 

 めんどくせーことになった、と。

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