シグルってたまるか   作:風袮悠介

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50話・奥義とはかくあるべし

 道場の床に、一刀流の門弟たちが倒れている。十数人の剣の熟達者が、痛みに呻いて立ち上がれない。

 その中でオレだけが余裕で立っていた。この場にいる全員を峰打ちで叩きのめし、息切れ一つすることなく余裕の表情のままで。

 あ、隅っこで誰か一人だけ無事か。まあ今は気にしなくていいや。

 

「大したことねぇや」

 

 オレは手をパン、と叩いて埃を払う。持っている刀を握り直し、上座へと視線を向けた。

 

「それで? 道場主の小野忠明様とやらは、この状況でも余裕のままか?」

 

 上座で座り、こちらをじっと見つめるだけの男、小野忠明。

 史実においても狂ったエピソードと、確かな技量(いくつか疑いあり)を持った剣の達人にして、シグルイ世界では夕雲に「お前刺突剣使えるようになってサンドバッグになれ」とか言う狂った男。

 その男が、刀を抜き立ち上がった。のっしのっしとこちらに歩いてくる。

 

「虎眼流、と言ったか」

「そうだけど」

「宗矩の噂にあった。道場破りに来た男と士合ったことがあると」

「その後は?」

「知らん。興味なし」

 

 ゆらり、と忠明は正眼に剣を構えた。

 

「今は道場破りを切り捨てるだけよ」

「あっそ」

 

 オレもまた、正眼に構えて相対する。

 オレと忠明の間で、緊張感が漂う。さすが剣の達人、親父とは違う狂気と圧を感じるな。少し、手の内に汗を掻いた。

 

 だが、親父よりかは怖くない。

 すぐに心臓が落ちつく。ふぅ、と息を吐いて整えた。

 

「じゃ、やろっか」

 

 瞬間、オレは踏み込みつつ唐竹割りに刀を振るう。拍子、間合い、全てよし。

 だが忠明はオレの動きを読んでいたらしく、オレよりも先に刀を振るっていた。だが、速度はオレの方が上だ。

 このまま刀と刀が衝突し、相手の刀を弾き飛ばす。そのまま肩口に峰打ちを叩き込んで戦闘不能、それで終了だ。

 

 だが、オレの目に信じられないものが移った。

 

 同じ拍子でぶつかったはずの刀だが、オレの刀の方が忠明に抑え込まれる形になる。

 

「は?」

 

 思わず変な声が出た。

 おかしい、オレの剣筋の方が力強く、速く、重いはずだ。忠明の刀の方が保たないはずだ。

 なのに、なんで、オレの方が上から抑え込まれて!?

 

 そのまま、忠明の刀はオレの刀を抑えつつ、右肩に深く食い込むように致命傷を与える形となった。

 肩口からブチブチ、バキッ、と体の主要な血管と骨を切り裂き、砕き音が聞こえた。

 

「が、」

 

 肩口から吹き上がる血流と激痛によって、オレは立っていられず膝立ちとなる。

 そのまま忠明は刀を引き抜き、シュンと一振り。オレの血糊でべったりと染まった刀の血を払った。

 

「良い太刀筋。殺気も鍛錬も充分。しかし、弟子達を相手に技を見せすぎた」

 

 肩から溢れる血流が止まらない。そのままオレは、仰向けに体を傾け、

 

「貴様の敗因は油断と慢心。技とは、奥義とは、人前で晒すものでない。奥義とはかくあるべし」

 

 べしゃり、と血の海に倒れた。

 

「ふん……この程度か、虎眼流」

 

 刀を鞘に納める音と共に、忠明は踵を返して去ろうとした。オレにはもう、一瞥もくれない。

 指先一つ動かす事ができないまま、血だまりの中で沈み、

 

「なるほど、これが一刀流の奥義、切り落としか」

 

 技を見せて貰ったし傷も治ったので、ガバリと体を起こした。うわ、血だらけで一張羅が台無しじゃん。やべ、代えとかどうしよう。

 慌てつつも立ち上がり、服についた血を払った。きたねぇ、二度とやらんこんなこと。

 そんなオレを、振り返った忠明が信じられないような目で見ていた。倒れている弟子達も同様に、だ。

 

「ば、かな。確かに心の臓までをも割った手応えがあった、その前に、なぜその出血量で生きている?」

「知らん。親父との稽古で死にかけまくったから、いつの間にか死なない体になったんじゃない?」

「ありえん、どうやって」

「おや、自分で言った言葉を忘れたか?」

 

 もう一度、オレは正眼に刀を構えた。

 

「奥義とは人前で見せるものではない。奥義とはかくあるべし、てな」

 

 まぁこれは奥義じゃなくてただの異常体質なんだけどな。チートだよ、チート。

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