道場の床に、一刀流の門弟たちが倒れている。十数人の剣の熟達者が、痛みに呻いて立ち上がれない。
その中でオレだけが余裕で立っていた。この場にいる全員を峰打ちで叩きのめし、息切れ一つすることなく余裕の表情のままで。
あ、隅っこで誰か一人だけ無事か。まあ今は気にしなくていいや。
「大したことねぇや」
オレは手をパン、と叩いて埃を払う。持っている刀を握り直し、上座へと視線を向けた。
「それで? 道場主の小野忠明様とやらは、この状況でも余裕のままか?」
上座で座り、こちらをじっと見つめるだけの男、小野忠明。
史実においても狂ったエピソードと、確かな技量(いくつか疑いあり)を持った剣の達人にして、シグルイ世界では夕雲に「お前刺突剣使えるようになってサンドバッグになれ」とか言う狂った男。
その男が、刀を抜き立ち上がった。のっしのっしとこちらに歩いてくる。
「虎眼流、と言ったか」
「そうだけど」
「宗矩の噂にあった。道場破りに来た男と士合ったことがあると」
「その後は?」
「知らん。興味なし」
ゆらり、と忠明は正眼に剣を構えた。
「今は道場破りを切り捨てるだけよ」
「あっそ」
オレもまた、正眼に構えて相対する。
オレと忠明の間で、緊張感が漂う。さすが剣の達人、親父とは違う狂気と圧を感じるな。少し、手の内に汗を掻いた。
だが、親父よりかは怖くない。
すぐに心臓が落ちつく。ふぅ、と息を吐いて整えた。
「じゃ、やろっか」
瞬間、オレは踏み込みつつ唐竹割りに刀を振るう。拍子、間合い、全てよし。
だが忠明はオレの動きを読んでいたらしく、オレよりも先に刀を振るっていた。だが、速度はオレの方が上だ。
このまま刀と刀が衝突し、相手の刀を弾き飛ばす。そのまま肩口に峰打ちを叩き込んで戦闘不能、それで終了だ。
だが、オレの目に信じられないものが移った。
同じ拍子でぶつかったはずの刀だが、オレの刀の方が忠明に抑え込まれる形になる。
「は?」
思わず変な声が出た。
おかしい、オレの剣筋の方が力強く、速く、重いはずだ。忠明の刀の方が保たないはずだ。
なのに、なんで、オレの方が上から抑え込まれて!?
そのまま、忠明の刀はオレの刀を抑えつつ、右肩に深く食い込むように致命傷を与える形となった。
肩口からブチブチ、バキッ、と体の主要な血管と骨を切り裂き、砕き音が聞こえた。
「が、」
肩口から吹き上がる血流と激痛によって、オレは立っていられず膝立ちとなる。
そのまま忠明は刀を引き抜き、シュンと一振り。オレの血糊でべったりと染まった刀の血を払った。
「良い太刀筋。殺気も鍛錬も充分。しかし、弟子達を相手に技を見せすぎた」
肩から溢れる血流が止まらない。そのままオレは、仰向けに体を傾け、
「貴様の敗因は油断と慢心。技とは、奥義とは、人前で晒すものでない。奥義とはかくあるべし」
べしゃり、と血の海に倒れた。
「ふん……この程度か、虎眼流」
刀を鞘に納める音と共に、忠明は踵を返して去ろうとした。オレにはもう、一瞥もくれない。
指先一つ動かす事ができないまま、血だまりの中で沈み、
「なるほど、これが一刀流の奥義、切り落としか」
技を見せて貰ったし傷も治ったので、ガバリと体を起こした。うわ、血だらけで一張羅が台無しじゃん。やべ、代えとかどうしよう。
慌てつつも立ち上がり、服についた血を払った。きたねぇ、二度とやらんこんなこと。
そんなオレを、振り返った忠明が信じられないような目で見ていた。倒れている弟子達も同様に、だ。
「ば、かな。確かに心の臓までをも割った手応えがあった、その前に、なぜその出血量で生きている?」
「知らん。親父との稽古で死にかけまくったから、いつの間にか死なない体になったんじゃない?」
「ありえん、どうやって」
「おや、自分で言った言葉を忘れたか?」
もう一度、オレは正眼に刀を構えた。
「奥義とは人前で見せるものではない。奥義とはかくあるべし、てな」
まぁこれは奥義じゃなくてただの異常体質なんだけどな。チートだよ、チート。