シグルってたまるか   作:風袮悠介

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53話・虎眼流刺突術って名前だけでロマンを感じる歳でもある。

 夕雲(せきうん)

 彼はシグルイファンにとって、どんな存在かな?

 虎眼の親父の引き立て役というのか? それとも検校の腰巾着と言うか?

 いやいや、彼のことを言うのならば、あまりにもこの時代と価値観、考え方が合わないところを指摘するべきだろう。

 

 というか現代っ子からしたら「俺が命じたらから死ね!!」、「わかりました!!」なんて正気の沙汰じゃないしな。

 

 普通に考えたらそんな命令、理解できない。

 お家のためにとか言われてもパッとしない。

 現代っ子マインドが残るオレにとっては「そらそうでは?」としか思えないんだよなぁ。

 

 その夕雲が、オレに弟子入りを頼んだ。

 オレはそれを受け入れた。

 

 仕方ねぇから、先生としてやることをやったるか! と思い立って次の日の早朝。

 宿屋の裏、オレは着流しと木刀を持ち、夕雲は刺突剣を持っている。

 

「じゃあ、まずはどの程度できるか見てやるから、掛かってこい」

「いや、先生は……」

「安心しろよ、お前程度の腕で、オレは死なねぇよ」

 

 夕雲は困惑しながらも、構える。良い構えだ。堂々としており畏怖すら感じる。

 まぁ、そうか、て感じだが。

 

「来い。お前は――」

 

 どの程度やれるか? と言う前に夕雲が動く。良い機会だ、オレが話すのに気を取られて構えられてすらいない。機先を完全に制した形だ。

 だが、覚えてないのか?

 

 オレは喉目掛けて放たれたそれを首を傾けるだけで避け、左手で刀身を掴んだ。

 

「!?」

「どの程度やれるかと思ったが、物忘れはよくねーな。オレ、お前の剣を白刃取りしてっだろ?」

 

 オレが言うと、夕雲はすぐに刃を捻って引こうとした。そうだな、そうすればオレの指は落ちる。

 いやー、やってみたかったんだよな、これ。漫画で見てから実践してみたかった。

 

 レイピアを掴んで、がっしりと握ったまま拘束する。

 

「……?!」

 

 夕雲の顔が驚愕に染まる。ビクともしない状況下で、信じられないものを見るような目をしてた。

 さて、オレはこれを折ることはしない。もったいない。

 

 逆にこっちに引っ張りつつ木刀から手を離し、体勢がこちらに崩れた夕雲の顔を右ストレートで打ち抜いた。

 肉を打つ音を響き、夕雲が吹っ飛んだ。

 鼻血を流しながら背中から倒れた夕雲を、オレは見下ろすようにしてから言った。

 

「さて、実力はわかった。お前がまずやることは一つ」

 

 ニヤリ、と笑った。

 

「武器を買おう」

 

 

 

 

 

 

 オレは頬に青痣を作った夕雲を連れて、江戸の街を歩く。

 左頬を張らした夕雲であるが、なんで知らんがその顔は晴れ晴れとしてた。何故かね。

 

「先生、どちらへ?」

「鍛冶屋。お前の武器を買おう」

 

 へ? と夕雲が疑問の声を上げた。

 

「お前の剣は刺突に特化してる。しなるし、日本では見られない剣術で、初見殺しに特化してるのは間違いない」

 

 半分適当な答えです。

 

「だが、それだけじゃダメだな。もう一つ、手札を持っててもいいと思う」

「手札、ですか?」

「レイピアが鬼札なら、こっちは切り札ってな」

 

 オレはずっと考えてた。

 夕雲は別に弱くねぇんだ、刺突の速さは凄いと剣の腕もある。躊躇なく相手を付ける思いっきりの良さもいい。

 

 だが武器がよくない。

 

 なんだかんだであの剣、脆いんだよな。

 原作だと鋼、鍛え、焼きが全てにおいて問題外の造りって言われてるくらいだし。

 オレも握って止めたとき、やろうと思えば殴って折ることもできそうだったもん。

 

 しなる、という初見殺しの利点は良いかしれないけど、こと戦いにおいてしなったからってなんなんだって話だし。それなら鞭でも持てよ、って話だよ。

 

 だが虎眼流には「折れるからぶつけ合わない」という流儀を持つ。

 

 レイピアと相性抜群だと思わんかね?

 だがレイピアだと脆すぎるのだ。相性がよくてももうちょっと強度が欲しい。

 しかし日本だとレイピアは手に入らない。となれば、代わりのものが必要になる。

 

 普段はレイピアを使い、いざとなれば代わりを使う。

 そして江戸時代の日本の鍛造技術を使えば、きっと良いものになるだろう、と踏んだわけだ。

 

 オレと夕雲は宿屋で聞いた腕の良い鍛冶師を抱える店の前に立ち、にっこりと笑った。

 

「ということで夕雲。仕込み杖って知ってるか?」

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