彼はシグルイファンにとって、どんな存在かな?
虎眼の親父の引き立て役というのか? それとも検校の腰巾着と言うか?
いやいや、彼のことを言うのならば、あまりにもこの時代と価値観、考え方が合わないところを指摘するべきだろう。
というか現代っ子からしたら「俺が命じたらから死ね!!」、「わかりました!!」なんて正気の沙汰じゃないしな。
普通に考えたらそんな命令、理解できない。
お家のためにとか言われてもパッとしない。
現代っ子マインドが残るオレにとっては「そらそうでは?」としか思えないんだよなぁ。
その夕雲が、オレに弟子入りを頼んだ。
オレはそれを受け入れた。
仕方ねぇから、先生としてやることをやったるか! と思い立って次の日の早朝。
宿屋の裏、オレは着流しと木刀を持ち、夕雲は刺突剣を持っている。
「じゃあ、まずはどの程度できるか見てやるから、掛かってこい」
「いや、先生は……」
「安心しろよ、お前程度の腕で、オレは死なねぇよ」
夕雲は困惑しながらも、構える。良い構えだ。堂々としており畏怖すら感じる。
まぁ、そうか、て感じだが。
「来い。お前は――」
どの程度やれるか? と言う前に夕雲が動く。良い機会だ、オレが話すのに気を取られて構えられてすらいない。機先を完全に制した形だ。
だが、覚えてないのか?
オレは喉目掛けて放たれたそれを首を傾けるだけで避け、左手で刀身を掴んだ。
「!?」
「どの程度やれるかと思ったが、物忘れはよくねーな。オレ、お前の剣を白刃取りしてっだろ?」
オレが言うと、夕雲はすぐに刃を捻って引こうとした。そうだな、そうすればオレの指は落ちる。
いやー、やってみたかったんだよな、これ。漫画で見てから実践してみたかった。
レイピアを掴んで、がっしりと握ったまま拘束する。
「……?!」
夕雲の顔が驚愕に染まる。ビクともしない状況下で、信じられないものを見るような目をしてた。
さて、オレはこれを折ることはしない。もったいない。
逆にこっちに引っ張りつつ木刀から手を離し、体勢がこちらに崩れた夕雲の顔を右ストレートで打ち抜いた。
肉を打つ音を響き、夕雲が吹っ飛んだ。
鼻血を流しながら背中から倒れた夕雲を、オレは見下ろすようにしてから言った。
「さて、実力はわかった。お前がまずやることは一つ」
ニヤリ、と笑った。
「武器を買おう」
オレは頬に青痣を作った夕雲を連れて、江戸の街を歩く。
左頬を張らした夕雲であるが、なんで知らんがその顔は晴れ晴れとしてた。何故かね。
「先生、どちらへ?」
「鍛冶屋。お前の武器を買おう」
へ? と夕雲が疑問の声を上げた。
「お前の剣は刺突に特化してる。しなるし、日本では見られない剣術で、初見殺しに特化してるのは間違いない」
半分適当な答えです。
「だが、それだけじゃダメだな。もう一つ、手札を持っててもいいと思う」
「手札、ですか?」
「レイピアが鬼札なら、こっちは切り札ってな」
オレはずっと考えてた。
夕雲は別に弱くねぇんだ、刺突の速さは凄いと剣の腕もある。躊躇なく相手を付ける思いっきりの良さもいい。
だが武器がよくない。
なんだかんだであの剣、脆いんだよな。
原作だと鋼、鍛え、焼きが全てにおいて問題外の造りって言われてるくらいだし。
オレも握って止めたとき、やろうと思えば殴って折ることもできそうだったもん。
しなる、という初見殺しの利点は良いかしれないけど、こと戦いにおいてしなったからってなんなんだって話だし。それなら鞭でも持てよ、って話だよ。
だが虎眼流には「折れるからぶつけ合わない」という流儀を持つ。
レイピアと相性抜群だと思わんかね?
だがレイピアだと脆すぎるのだ。相性がよくてももうちょっと強度が欲しい。
しかし日本だとレイピアは手に入らない。となれば、代わりのものが必要になる。
普段はレイピアを使い、いざとなれば代わりを使う。
そして江戸時代の日本の鍛造技術を使えば、きっと良いものになるだろう、と踏んだわけだ。
オレと夕雲は宿屋で聞いた腕の良い鍛冶師を抱える店の前に立ち、にっこりと笑った。
「ということで夕雲。仕込み杖って知ってるか?」