オレは考えた。レイピアはオレでも簡単に折れるほど脆い。
ならば、レイピアに似た頑丈な武器を用意すればいいだろう、と。
「先生。確かに先生にとってこの剣は折りやすいのかもしれませんが、本来はそこまで脆いものでは……」
「オレでも折れるんだから、他の奴だって折ることができる」
夕雲が何か言っていたが、そういって黙らせておく。オレが折れるなら、シグルイ世界の奴の七割は折れると思え。
とりあえず鍛冶屋に頼み、仕込み杖の製作を依頼する。金はある。道場からもらった……やつが。
杖の中に反りのない日本刀を仕込み、外見は完全な杖の形にするというコンセプトの武器。
オレは夕雲がこの先、検校の下にいることを知っている。
なら、白杖代わりの杖を持つのもいいとい思ってる。こいつは目開きだが、そうしとけば気に入られやすいかもと思った。
検校の下にいても、親父へけしかけられるみたいなことは避けてやりたい。
そこから時が経ち、仕込み杖を受け取ったオレは宿屋の裏で夕雲に渡し、試させた。
刀身は細いが日本刀の製法で作られたそれは、充分な頑丈さと刺突、斬撃どちらにも対応できる。さすがに日本刀よりかは短く斬撃適性は低いかもしれないが、少なくともレイピアと同じ感覚で使えればいい。
ちなみにギミックとして蛇腹剣を仕込みたかったが、そんなもんは仕込めるほどシグルイ世界の技術は進んでなかった。とほほ。
宿屋の裏で、夕雲が仕込み杖を抜き、ピュンと振るう。斬撃、刺突と試していた。
ちなみに仕込み杖の外見は樫の木のような質感に卵型の鞘と柄をしている。外見は完全に杖だ。
しかし、見る人が見れば重さ、重心、杖を地面についた音の重さや強さ、柄と鞘の境目の切れ目で、武器を仕込んでいることはバレるだろう。
バレてもいいのだ、あくまでも持ち替え武器なのだから。
「どうだ、夕雲?」
「……慣れるにはもう少し鍛錬が必要ですが、良いかと」
「正直に言え。重心の調整とか長さとか。金はある、もう一本作ってもいい」
仕込み杖でイスパニア剣術を使っていた夕雲が、驚いた顔をオレに向けた。
「お前の一生の武器になるんだ。手入れや調整は自分でやるのは当たり前だが、そも素材が、剣そのものが良くないと鍛錬にならんでしょ。良い武器、良い環境、良い鍛錬を用意して、それに邁進させてやるのが師匠の役目だ」
「先生……」
「お前はオレの一人目の弟子で一番弟子になるんだから、最初の弟子は可愛いもんだ。いろいろとやってやりたくなるんだ、今のうちに好きに言え。将来オレの元から巣立ったら、お家だの命令だので無茶なことを言うアホから自分の身を守らんといけないしな」
検校のことを考えると、夕雲は将来からして虎眼の親父へけしかけられる危険性がある。そもそも検校の元へ行かせなけりゃいいが、なんだかんだで伊良子もあんな結末を向かえた。
せめて夕雲だけはなんとかしてやりたい。
空を見上げながら思う。ほんと、シグルイ世界の命は軽いなぁって!!
「せ、先生……その、お家のことをアホとは……」
「アホでしょ。お家のために死ね! とか言われるの、嫌じゃない? オレは嫌だよ。嫌だから相手をぶちのめすか退けてきたから、こんな苦労をしてるけど!」
夕雲は困惑した顔をしてたが、次第に表情が輝いてきた。そうそう、こいつは原作からして『お家のために死ぬこと、忠義を尽くすことが理解できない』みたいなことを言われてる奴だからな。
同じ考えを持ってる奴、と思って心を許してるのかもな。
正直、オレからしたら当たり前の話をしてるだけだが。
これが軍の兵隊とかなら、必要に応じて滅私奉公は必要かもだけど、もう戦のない江戸時代だよ? 幕末になって明治になってからならやるかもだが、江戸時代にやりたかねぇ。
武士の意味や在り方、存在意義が変わってくるこの世の中なんだから、新しい時代に適応しようぜ!
「先生も、それは理解できない御仁、ですか?」
「いや? 理解はできるよ? 例えば自分にとって大切な人……一番弟子のお前やアニキ、仲間や家族、大切な何かを守るために命を張ることに躊躇はねぇさ。でも他人の事情で他人の大切なものを守るために自分の命が使われるのは納得できないでしょ。嫌だよ、見たことのない徳川将軍のために死ねとか。それを言うならオレの前で本人が土下座して事情を話して懇願して相応の報酬や残される家族に便宜を図れって思わんか?
……自分の覚悟で自分の命を天秤に乗せるのはいい。だが他人の事情で自分の命を勝手に天秤に乗せるなんて冗談じゃない、そんな奴は顎が砕けるまで殴っていいでしょ?」
ハッキリと言ってやると、夕雲は何か肩を震わせながら俯いた。表情は見えないが、何か呟いてもいるし嗚咽も漏らしてる。
なんだこいつ、随分と情緒が不安定だな。まぁ虎眼の親父に肘打ちと虎拳を喰らって検校に襲いかかる奴だからな。情緒不安定の狂人なんだろ、とオレは納得しておく。