本来なら何事も無いであろうその日に、私はある事件に巻き込まれた。生死を分ける、とある事件。私の身体はその日、今まで以上に壊れた。
母に以前より聞いていた生まれつきの症状が悪化し、それ以上に私の五感は鋭すぎるほど敏感になった。今まで安全圏だった音も、匂いも、感覚も。何もかもが狂いそうなくらいの頭痛に襲われるようになった。外に出れなくなった。人に対面すると毎度嘔吐するようにまでなってしまい、そのまま病院に入院する事になった。
そこの看護師さんが悪かったわけではない。でも、私は耐えられなかった。人の優しさが全て嘘に見える。私に掛けられている声が全部偽物にしか見えない。怖かった。誰も彼もが敵に見え、私は声が出なくなった。
人を見れば吐き、会話すら成り立たない。そんな子供を、誰が面倒見たいと思うだろうか。妹はそれでも懸命に私を支えてくれたが、両親は今まで以上に私に対して恐怖心を見せた。元々人に嫌われやすかった身であり、誰かと会えば笑顔を貼り付けるような子供。親はそれを見抜いた日から私を避けていた。
ある日、久々に水希に会った。彼女は私のいる病院まで様子を何度も見に来ていたらしい。普段寝てばかりだったし、話せないことを伝えてもらっていたため、様子を見てすぐに帰っていたとのことだった。私は水希を見ても何故か吐かなかったから安心して声を出そうとした。しかし、声が出ないと思っていた私はそのまま黙ろうとして…しかし出てきた言葉に自分自身でびっくりしてしまった。
「 なんで来たの。今の僕に会ったって、なんの得にもならないでしょ。帰りなよ。 」
「 …え…?なんでよ。ねぇ、あたしの事嫌いになった!?あたしがあんたのこと嫌うわけないじゃない! 」
水希は叫んだ。自分の悪いところは治すから、と。何度も何度も私を説得しようとした。しかしこれでいいのだ。私はもう疲れた。今の私に、水希を付き合わせ続ける方がよくない。突き放し続けてようやっと観念した水希が帰って行った。帰り際、彼女は私に向かって言った。
「 あんたのそれが、絶対に本心じゃないって証明するから。 」
こういう時、本当に困る。何故水希といい後輩君といい、私のことを知ろうと行動するのだろうか。私はそういう人間心理だけは分からなかった。
私にはこういうの、向いてないなって実感する。上手く言葉にできていないような気しかしないな、笑
「 おにぃ、一人ぼっちが寂しかったのかな… 」
「 椿?どうしたの? 」
「 ううん、なんでもない。 」
あたしがおにぃの孤独を埋めることができてたらいいのに、と思わずにはいられなかった。
おにぃはあたしに誰よりも優しくしてくれた。あたしには決して教えてくれなかった病状はあたしを傷つけるからと思って言わなかったのだろうか。あたしはそんなことでおにぃを嫌ったりするわけないのに。
おにぃの妹で幸せだって、おにぃに言えたらよかったのにな。そしたら、おにぃも何か変わってたかな。…変わってないかもしれないや。