七英雄の記憶に関する話は次の次の話で執筆しますので、御期待下さい。
Side ビーバー
「アーバロン、アーバロン、うーるーわーしーの~~♪」
潮風が吹く広大な海を渡る船の上、
私達はこのオレオン海の向こうにある国家──カンバーランドに向かっている。
我らが帝国の皇帝陛下──ジェシカ様に届いた文書には招待したいと言う文が書かれていて、陛下はこれを承諾しちゃったの。
私が言うのも何だけど、陛下ってやる事為す事がいい加減で性格も大雑把、おまけに頭の中もおバカさんで悪い意味で純粋過ぎるのよね。
他には目先の事には自ら飛び込んでいくからどんな危険が待ち構えていても構わない、そんな無鉄砲さがあって重臣の人達は苦労が絶えない。
そんな陛下の親衛隊に私ことビーバーが加えられた。他にはジョンさんにメアリーさん、そしてフリッツ
メアリーさんは陛下とは子供の頃から一緒に過ごしていて、いつも野生児さながら自由過ぎる陛下は悩みの種になっている。後、貴族のお嬢様らしいけど凄く臆病風が強くて、即位前から陛下が守っていたみたい。
ジョンさんは感情をあまり表に出さないから対面しても感情が読みにくい、槍や大剣を器用に扱っても弱音を上げない。以前宮殿に忍び込む──もとい遊びに来た際、ジェシカ陛下をチラチラと目線を向けていたのを思い出す。あれって陛下に気があると見たわね。
フリッツ
そして私を含めた全員がソーモンの町で手配された船に乗って出港、そして現在に至るって所。
ソーモンは平和な町で、七英雄のクジンシーに支配されたと言う記憶は町の人達から段々と薄れていっている事に陛下は安堵していたけど。
「てーいーこく、てーいーこく、わーれらーがー、ほーこり~~♪」
乗ってるだけじゃ暇なので、退屈凌ぎに国歌を歌っていく。
「ア゛ーバロン、ア゛ーバロン、う゛ーるーゔぁーじーの~~♪ でーいーごぐ、でーいーごぐ、ゔぁーれらーがー、ぼーごり~~♪」
「ひい!?」
ちょっ、何この歌唱力!?ひっどい歌声なんだけど!
誰よ、こんな歌声出しているの!?
思わず鼓膜に響くレベルの汚い歌声に耳を塞ぎ、歌声が聞こえてくる方向を見ると船首の方でジェシカ様が酷い濁声を上げている。
って陛下、何て歌声出しているの!?もしかして陛下って……音痴?
気にする様子もなくジェシカ様は酔いしれている様子で歌っている、傍で船員さん達はあまりの歌の酷さに耳を塞いでいる。
さっきまで気持ちよく歌ってたのに、こうなったら何方が上手いか歌唱勝負といこうじゃない!
「アーバロン、アーバロン、うーるーわーしーの~~♪ てーいーこく、てーいーこく、わーれらーがー、ほーこり~~♪」
船上は美声と濁声の披露会になっていって、周囲の海がざわつく程に。
いい感じで気分が昂ってきたし、ペースを上げていこうじゃない!
すると船内の扉が壊れる程に開き、メアリーさんが眉間に幾つも青筋を浮かべて飛び出してきた。
「────静かにしなさい!!!!」
※
海の向こうに陸地や町、そしてお城が見えてくる。
船体は揺れながらもその目的地へと向かい、やがて波止場に停泊した。
そして一際大きなタンコブを頭に浮かべたジェシカ様と私を先頭に、新天地へと足を踏み入れる。
此処がカンバーランド王国、王城を港町兼首都のダグラスに構えた平和主義国家。
潮風が吹き、海の匂いがしてとても良いじゃない。
町中も
そしてお城に入る際メアリーさんがジェシカ様に「くれぐれもハロルド王に無礼を働かないでよ?もし何かあったら気が気じゃないんだからね…!?」と戦々恐々に念を押してくる。
「分かっているわよ、メアリーは心配性ね」
「今の貴女が皇帝だから、皇族としての礼儀作法とか色々心配だからだよ!本当に分かってる!?」
本当に苦労が絶えないわよね、メアリーさんって。
兎に角城門前まで赴き、門番さんが私達に目線を向ける。
「そのお美しいお顔……もしや貴女様は
「ええ、この国の王から招待されたのだけど」
「はい!お話は伺っております! ──開門、開門!皇帝陛下をお通し差し上げろ!」
門番さんはもう一人の方に声を掛け、お城の門を開けていく。
顔を見ただけですんなり通れちゃうとか、ジェシカ様って凄いわよね。
城内も帝国の宮殿とまではいかないけど、豪華な装飾品や肖像画が展示されていた。
侍女や兵士さん達も帝国のとは違う雰囲気もあるし、もしジェシカ様がカンバーランドに嫁いでもしたら豪勢な暮らしが出来るんじゃない?
冗談でそう言ったら陛下から「既に私は皇帝だし、そんな暮らしは帝国で充分よ」って返されちゃった。
メアリーさんとジョンさんが妙に目が据わっていてなんか怖かったけど、正面にある扉へと近付いていく……あれが玉座の間ね?
扉で佇んでいた文官さんが待っていた様子で「遠路遥々お越し頂きありがとう御座います、ジェシカ皇帝陛下」と一礼した。
中でハロルド王が待っているらしく、入室を許可してくれている。
「自分達は人払いした方が宜しいですか?」
「申し訳ありません、出来れば国王様は陛下と内密に話されたいと仰っておられまして」
「致し方ありませんな。陛下、我々の事はお気になさらず」
「私達は町で時間を潰しておきますから!」
「あら、そう?じゃあ後でね」
玉座の間に入っていくジェシカ様を見送り、私達は町へと繰り出していった。
※
カンバーランドは帝国じゃお目に掛かれない特産品が販売していて、せめて皆へのお土産にと町へ繰り出していく。
私はクロウやアジトの皆に手頃の良い装飾品を買って上げる事に、それとこの国に潜伏している仲間に国で得た情報を共有する事に。
他の皆はと言うと、メアリーさんとジョンさんはバイソンさんやルイさん達に武器や装具を買って上げるらしい。他にはサジタリウスさんやアメジストさんに術法に役立つ道具の購入とかも。
フリッツ
町の宿酒場に宿を取っているから荷物を置いていき、私達はジェシカ様と合流した。
「ハロルド王の子供達に会いに行く?」
「そうよ、港町のフォーファーと城砦のネラック城にね」
聞くと城砦でもあるネラック城を守備する第一王子のゲオルグさん、フォーファーの領主を務める王女のソフィアさんに会って欲しいって言う国王様からのお願いらしい。
因みに二人には弟がいて第二王子のトーマって言う子、その子はまだ子供でジェシカ様はさっきまで会ってきたんですって。
国王様は病気でいつかは子供達の誰かが自分の後を継いで王となる、さっき私は同じ事を潜伏しているシティシーフの仲間から聞かされた。
順当に考えればお兄さんとお姉さんの何方かが王位を継ぐんだけど、弟君の教育係の宰相さんはその子に王位を継いでもらうべく学問を勉学させているんだとか。
勉強熱心な人なのかなって内心で思いつつ、私達はジェシカ様の言葉に従う事にした。
Side out
Side ジェシカ
今日は大変だったわ、カンバーランドの要所二ヶ所を徒歩で移動したんだから。
近隣諸国と交易があるフォーファーの町は子供達が通う学舎、そして領主で王女であるソフィアさんの人柄もあって畑で採れる野菜や海の幸などの名産品が主になっていて、町の人達からの人気が高い。
他には王国側は遥か遠方にあると言うコムルーン島のツキジマと交易を結びたいそうだけど、それには大渦が発生するコムルーン海域を渡らないといけない。
大渦は勿論だけど、海に生息するモンスターの包囲網を突破するしかない、それこそこれはエンリケ達武装商船団の十八番なんだけどこの場にいない以上、伝承法で受け継がれる次世代の皇帝に任せるしかないわね。
どうでもいいけどフリッツさんがソフィアさんに見惚れて口説いたけど、優しくやんわりと断られたわ。
次にネラック城へ赴いたけど、難攻不落の城砦でもあって兵士の人達が日々鍛錬に励んでいたわね。
第一王子のゲオルグさんは超堅物で、武勇に誉れある武人。ハロルド王が褒め称えるのも分かる気がする。
でもあれで将来的に嫁の貰い手があるかどうか不安だわ、ビーバーが軽く色仕掛けを行っても指どころか眉一つも動かさなかったし。
ネラック城はカンバーランドの南に生息するモンスターの脅威に備えていて、ゲオルグさんは持て成す事が出来なかった事に申し訳なく思っていた模様。
カンバーランドの南といえば、ステップ地方の事ね。
彼処は広大な自然が広がっていて、モンスター達も滅多にお目に掛かれない種類が生息しているって話らしい。
他には薬草で薬を生成する遊牧民族がいて、自然と隣合わせで豊かな生活をしているそうだわ。
しかもその自然に似つかわしくない、巨大な戦艦が現れてステップの自然に悪影響を及ぼしていると言う事を聞いたわね。
その薬草から麻薬を生み出し、モンスターを手懐けているそうだけど……何だか
先帝ジェラール様の時代の際、ヴィクトール運河に築いた要塞のモンスターがそうだったみたい。
ダグラスに着いた頃にはもう陽が沈み掛けていて、大変なくらいに歩きっぱなしだったわ。
馬車の一つも用意もしてないし、見送りも出迎えも一切ない。
ハロルド王がそんな雑な手回しをするとは思えないし、まあ気にしてもしょうがないわよね。
宿に泊まる予定のメアリー達と別れ、私はダグラス城へとハロルド王に報告するべく向かう。
途中でトーマ君の教育係で宰相のサイフリートさんを見かけたけど、日中と変わらない様子で「学問を学ばずトーマ様は何処へ…!」と神経質気味に彼を探していた。
まあそれはどうでもいいとして玉座の間に入り、私の姿を確認するとハロルド王は最初に会った時と同様に咳込みながら近付いてくる……本当に大丈夫かしら?
「それでゲオルグとソフィアにはお会い出来ましたかな?」
「ええ。それぞれお互いの責務を全うしていて立派な人達だわ、親としては鼻が高いんじゃない?」
「ははは……お褒め頂き有り難う御座います。では今宵は此方にお泊り下さい、部屋も御用意させます故、後程お話を」
何から何までお世話になりっぱなしで申し訳なくなっちゃうわね、まあ帝国ではあまり出ない料理にありつけるなら構わないけど。
※
夕飯に帝国に負けず劣らずのディナー、豪華なバスルームを堪能してハロルド王の寝室にお邪魔した私。
人払いを済ませて、薄暗い寝室でその本題に入っていく。
文書に記されていたと言う相談、大方予想はつくけど…。
ハロルド王の言う話、予想通りそれは王位継承に関する話だった。
七英雄が災厄を振り撒く存在として跋扈する時代の最中、真の実力を持つ者が王位に就かないと国を存続させるのは難しい。
それは帝国も同じ事よね。帝国も謎の女魔道士の口添えがあったとはいえ、七英雄に立ち向かう為、世界統一を果たす為に伝承法なんてわけの分からない術法に頼っていっているんだから。
質実剛健で武勇に誉れある武の達人であるゲオルグさん。
魔術の才能に溢れ、知識に長けているソフィアさん。
まだ幼くて王位継承権は二人より順位は低いけど、これから先の将来に有望なトーマ君。
ハロルド王の子供達三人は才能に恵まれていて、それ故に誰を王位に就かせるべきか彼は悩んでいる。
自分も子供達を溺愛していて、父として我が子可愛さあまりに冷静な判断が出来かねず、まともな選択が出来ないと自嘲する。
それで私の下に文書を送ってきたのね……この事を相談して欲しくて。
まあ私も領地拡大、(めんどくさいけど)見識や見聞を広げようと此処まで来たんだもの。
思い悩んで
「其処で皇帝陛下の御意見を伺いたいのです────陛下ならば三人の内、誰が王位を継ぐべきだとお考えでしょうか?」
どうしよう……こんな問答がくるなんて思っても見なかった。
私は単に偶然が重なって皇帝になったに過ぎない、だからよく分からない。
武勇に関しては天下一品のゲオルグさん、知識があって魔術の才能もあるソフィアさん、何方も王位を継いでも何の支障を来す事はない。
だけどトーマ君はまだ子供、純真無垢で人の醜い本性をも知らない少年、その性格につけ込んで彼を利用しようとする奴は絶対いるでしょうね。
私は馬鹿な上にその手の知識が乏しい、私自身そんな自分に不安が残ってしまう。
私の判断一つで国の運命が変わるなんて責任重大な重い事、到底出来るとは思えないわ。
だから──
「よく……分からないわ」
「…………」
「私は王政だの政治だの、そんな知識はあまり分からない。そんな選択肢を出されても、私にはそんな知識が乏しい」
「陛下……」
「……だからといって、関係ないだなんて責任を放り出す様な言葉を言うつもりはないわ。嘗ての時の皇帝みたいな知識はなくても、有事の際にその経験を自分の糧にしていきたいの。だからハロルド王、貴方は貴方らしい答えを見出して、自分の人生で悔いの残らない答えを」
ハロルド王は私の言葉を耳を傾け、無言のまま自分の髭を撫でている。
「……ごめんなさい、こんな答えしか出てこなくて。こんな馬鹿馬鹿しい事しか言えない女とか、皇帝失格よね」
「いいえ、あまり気になされるな。陛下はまだお若い、この後の人生で生きていく中で糧にしていくいいでしょう」
「ハロルド王……」
「己が己らしい答えを見出し、己が人生で悔いの残らない答えを……確かにそうですな、陛下の熱説……私の心に響きましたぞ」
ハロルド王は私の言葉を聞いてか、何処か安堵した様な晴れやかな笑みを浮かべていた。
「有り難う御座います、陛下。私は己を見失っていたようです、私も陛下を見習い、父としてあの子らに悔いの残らぬ答えを見出そうと思います」
どうやら彼は彼なりに答えを見つけたみたいね、此方は内心上手く言葉が見つからなくて咄嗟に出たけれど。
「そろそろお開きとしましょう。陛下、お休みなさいませ」
「ええ、お休みなさい」
私は一礼して、寝室から出て行く。さっさとベッドに飛び込んでぐっすり眠れるといいわね。
Side out
Side ???
私はさるお方に仕える暗殺者、文官の装いを纏い──ハロルド王の寝室へと参る。
途中で皇帝とすれ違ったが、気付いた様子もなく軽く挨拶していくので、私は偶然を装って一礼した。
噂通り破天荒な女らしいがそれを除けば唯の美麗な女、知識も低能で大いに助かる。
「ハロルド陛下、薬を持って参りました」
「薬…?まあ良い、入れ」
「失礼します」
敢えて一般の文官を装って王の寝室へと入り、机の上にトレーを置く。
トレーの上には水の入った飲料用水器、そして調達された
「これは?」
「新しく購入した秘薬です、御病気を治す為にと思いまして。良ければ就寝前に騙されたと思って」
「そうか、ではお言葉に甘えるとしよう」
秘薬を水の中に流し込み、水器を私はハロルド王に手渡す。
ゆっくりとハロルド王は口の中に水を流し込み、静かに喉に通していった。
「そう言えば其方、購入したと言ったが何処で──ゔっ!?」
早くも効いてきたか。
口を押さえて苦悶の声を漏らし、ハロルド王はその場に倒れ伏す。
私を疑うことなく飲んでくれて助かったよ。
確かにそれは秘薬は秘薬だが、毒の秘薬だよ。
それも致死性の毒薬だ。
服用すれば最後、十分も掛からぬ内に死に至らしめる。
「そ……其方……何者……」
「私はさるお方に仕えし者、貴方を始末せよと仰せ遣わされたのでね」
「申し訳ありません、陛下……すまない、ゲオルグ……ソフィア……トーマ……よ……」
悶え苦しみながら皇帝や子供達の名を呟くハロルド王、私はそんな滑稽な姿を嘲笑するかの様に背を向け、寝室を出る。
そして音もなく文官の装いを解き、さるお方へと報告すべく馳せ参じるのだった。
後はさるお方がトーマ王子を傀儡とし、これでこの国は終わりだ。