アバロン皇帝叙事詩錄   作:虎武士

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カンバーランド編の中編を投稿します。原作にないオリジナルルートを用意してます。


帝国歴1246年 帝国軽装歩兵皇帝ジェシカ編(カンバーランド中編)

 Side ジェシカ

 

「ふわぁぁぁ〜〜……」

 

 カンバーランド滞在二日目の朝、珍しく目が冴えて一際大きな欠伸を私は発した。

 

 自慢じゃないけど稀に昼まで眠っている事もあって、メアリーには呆れられながらも怒られる事が多い。

 

 学問の際も寝ぼけている事もあり、それに関してはアメジスト先生に「皇帝たる者が居眠りとは何事ですか!?」って怒られるっけ。

 

 勿論訓練の際も同じで眠りながらジョンの槍術、オライオンの大剣、シーデーの剣、ルイの弓矢を全て捌き切っているってバイソンが後で言ってた気がする。

 

 窓を見ると空が曇っている、まるで今にも雨が降りそうな天候で何か良くない事が起きそうな予感がしてならない。

 

 取り敢えず早く着替えて顔を洗おう、今頃メアリー達はとっくに起きているかも知れないしね。

 

「………?」

 

 着替えようとした時、壁に耳を当ててみた。

 

 なんだか通路が物々しい様子で、侍女や兵士の人達の憔悴や悲しみを含んだ声が聞こえてくる。

 

 何かあったのかしら?

 

「陛下!ジェシカ皇帝陛下!!」

 

 扉を叩く音と共に兵士の声が響く、何か只事じゃない様子だったので躊躇いなく扉を開ける。

 

「っ!?へ、陛下!何とはしたない格好をされておられるのですか!?」

 

 私を訪ねてきた兵士は顔を赤くして驚いた表情をする。

 

 あ、そう言えば私ネグリジェのままだったわ。

 

 ネグリジェがはだけて胸の谷間が見えているから、そう言う反応してもおかしくないわよね。

 

 最近胸が大きくなってきた気がするし、今度下着を新調しようかしら。

 

 って、それは兎も角。

 

「どうしたの?なんだか城中が騒がしいみたいだけど…」

 

 敢えて私が問うと共に兵士は我に返り、私に着替えを促してくる。

 

 そして彼の放った言葉によって、眠気が一気に吹き飛んだ。

 

「国王陛下が……!!ハロルド様が……!!」

 

「………え?」

 

 その直後、私はすぐさま着替えた。

 

 

 

 

 

 

 私は息を切らし、城を飛び出すや否やメアリー達の宿泊する酒場へと駆け込んだ。

 

 メアリー達は急に入ってきた私を見て驚いたけど、表情を見て只事じゃない事を察してくれた。

 

「──ハロルド王が逝去なされた…!?」

 

 そして人気のない酒場の裏に回り、城で起きた事件を伝えた。

 

「……ハロルド王は病を患っておられたと聞いてはいましたが」

 

「な、何で?病気が悪化したって事?」

 

「良かった……ジェシカが粗相を働いて罰当たりの拍子で殺しちゃったとかじゃなくて、いや別に良くはないけれど」

 

 ちょっとメアリー、幾ら私でもそんな事しないわよ?

 

 メアリー以外が困惑する中、私は起こしに来てくれた兵士から聞いた事の経緯を共有していく。

 

 先ず明朝、まだ空が薄暗い時間に侍女さんがハロルド王を起こそうと軽く扉を叩いた。

 

 でも寝室の向こうから本人が聞こえず、まだ眠っていると思って再度叩いたけど声は聞こえなかった。

 

 流石におかしいと感じた侍女さんは扉を開けてみる、其処にはハロルド王が床に横たわる姿があった。

 

 侍女さんが悲鳴を上げ、悲鳴を聞いて兵士達や他の侍女さん達が駆け込み、倒れ伏すハロルド王の脈を取ったけど……彼は既に事切れていた。

 

 現場の検証を行った王国の術士によると割れた水器から溢れた水に薬の匂いが含まれたらしく、毒を盛られた可能性が浮上した。

 

「──って、それってつまり王様は誰かに殺されたって事じゃないですか!」

 

 まあ所謂毒殺ね。

 

 そんな事が出来るタイミングがあったとしたら、昨夜の密談の後……つまり私が退室した直後。

 

 あの時ハロルド王の寝室に向かう文官さんとすれ違ったけど、まさかその直後寝室に入ってハロルド王を…!

 

 自然に手に入って拳を作り、床に血が滴る。

 

 私って本当に馬鹿よね、あの時事前に知っていたらこんな事にならなかったのに…!

 

 私はきっと自分でもゾッとする程に怒りに満ち溢れてるんだろう。私の顔を見てジョンやビーバー、フリッツさんは青褪めた顔していて多分自分でも酷い顔をしているんだろうね。

 

「……ジェシカ、自分を責めてるの丸分かりだよ」

 

「メアリー……」

 

「ハロルド王が殺されたのはジェシカの所為じゃない、悪いのはこんな事を仕出かした犯人だよ」

 

 メアリーが私をそう諭す、分かっているけど私は冷静でいられないと思う。

 

 他に情報を共有する事と言ったら……玉座の間でサイフリートさんがトーマ君がいない事に苛立っていたわね、偶然訪れた私に彼の居場所に心当たりはないかと尋ねられたわ。

 

 まあ城内の人達を落ち着かせる為、彼にはしっかりして欲しいと思うわ。

 

 これがゲオルグさんやソフィアさんだったらすぐに静まるけれど、トーマ君はまだ子供……慕っていた父親を失ったショックで精神的に不安定になっているでしょう。

 

 肝心の彼がいなくては国民達を纏めようだなんて無理だとジョン達が不安を感じる中、私は思い出した。

 

「私……知ってるわよ……彼がいると思われる場所」

 

『…!?』

 

「此方よ……着いてきて」

 

 私の後にみんなが着いていき、着いた先は城の城壁を拝める田圃。

 

 この先には何もない薮だけど、実は人が潜り抜けるくらいの空洞があるのよ。

 

 私が手本として先に入っていき、その後にビーバー、ジョン、メアリー、フリッツさんと順番に潜っていく。

 

 薮を抜けた先には道があり、道なりに進めばトーマ君の秘密の場所がある。

 

 昨日ゲオルグさん達に会いに行く前、偶然この場所の存在を知って私は彼に会った。

 

 トーマ君は昨日嬉々としてハロルド王やゲオルグさん達の手助けすればそれでいいと語っていた。

 

 その本人はその先で涙腺が崩壊したように泣きじゃくり、悲しみに暮れていた。

 

「トーマ君……」

 

「へ、陛下……」

 

「お父さんの事、残念だったわね」

 

 何の言葉も見つからず、父親を亡くした彼は唯々悲しみのあまり泣き続ける。

 

「城中の皆の動揺を静める為にも、息子である私がしっかりしなければならないのは分かっています…!でも、でも!父上は…!」

 

 頭の中では分かっていても幼い為、まだ精神的に父親の死が未だに信じられない様子のトーマ君。

 

 私は昨日この場で会ってから彼に強い既視感(デジャヴ)をひしひしと感じていた。

 

 どうしてそう感じたのか、まだ会って間もないのに誰かと重ねたのか──今やっと分かった。

 

 今の彼は先帝ジェラール様に似た境遇なんだ。

 

 即位前のジェラール様は七英雄クジンシーによって兄のヴィクトール様、そして父親のレオン陛下を立て続けに失った。

 

 その記憶が伝承法によって私にも受け継がれていて、それがまるで他人事とは思えず、皮肉にもそれが目の前のトーマ君と重なった。

 

 状況は違うけどトーマ君はジェラール様と同様肉親を失い、深い悲しみに陥っている。

 

 私と出会う以前から既に病に冒されていたハロルド王だけど、幾ら何でも昨日の今日で急に亡くなるだなんて有り得るのかしら?

 

 どうにも急速に起こった事に眉を顰めていると城の兵士が「トーマ様、こんな所におられたのですか!」と言って現れる。

 

 あれ、もしかして私達尾けられてた?

 

 勝手にそう思っている中、兵士はトーマ君に城に戻る様に促すけど、本人は気分が優れない様子で戻る気はない。

 

「何を仰います!サイフリート様がハロルド王の遺言状を預かっていて、その遺言状で──()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「………は?」

 

 え、何それ?そんな事、本人の口から聞いた事ないんだけど。

 

 この兵士、私よりバカなの?

 

 王の崩御より王位継承が先とか、バカの極みじゃない。

 

 国王の国葬も済んでないのに、状況分かってんの?

 

 王位継承権はゲオルグさんとソフィアさんの方が上の筈、なのに下のトーマ君を王に拵えるなんてどう言うつもり?

 

 トーマ君が戸惑いながら叫ぶ中、その空気に割って進言した。

 

「それ……本当に本人の遺書なの?」

 

「っ!?こ、皇帝陛下、何を仰いますか!サイフリート様が国王様から直々に承り、遺言状に従って──」

 

「私は昨晩ハロルド王から相談を受けたのよ。彼は誰を王に拝命するか思い悩んでいた、それこそ部外者──他国の皇帝の私を頼るまでに」

 

「あ、あ……」

 

「何より国王が殺されたのは私が退室した後、そんな物を書く時間なんてなかった筈。だったらその遺言状、誰が書いたのか問い詰めたい所ね?」

 

 次々に私に確信を突きつけられ、その兵士は反論出来ずに言い淀む。

 

 恐らく遺言状は何者かが偽装して書いた物、直筆によってはそれで誰かなのか特定出来るでしょう。

 

 そしてその何者かは私が退室したタイミングに合わせて下手人をハロルド王の部屋に向かわせ、彼を毒を盛って闇に葬った。

 

「まさか……陛下」

 

 トーマ君は確信を得た様に驚き、この事件の犯人像を思い浮かべたみたいね。

 

 そう……この事件はあの宰相──サイフリートの企てた計画、トーマ君を国王として即位させる為にハロルド王を殺し、カンバーランドを支配する為の。

 

 でもこれはあくまでも計画の一部、トーマ君を国王にさせておしまいってわけじゃなさそうだし。

 

 計画の一部をバラされて痺れ切らした兵士は「ああもうめんどくせえ!」と剣を抜き、その剣先を私達に向ける。

 

 此奴も宰相の部下、と言う事は城にいる兵士の幾人は宰相に着いているってわけね。

 

 濁った眼光と殺意に深く溜息を吐き、私は仕方なく行動に移す。

 

「知り過ぎた奴には死んでもらう──皇帝であっても゛っ!!?」

 

 素早く懐に入り、その兵士の股を蹴り上げた。

 

「!!!!????」

 

 兵士は思いっ切り股を蹴られたお陰で面白い程に悶絶した表情になり、更には声にならない悲鳴を上げた。

 

「ちょ、ちょっと陛下!?」

 

「わ、分かっていた。分かっていたけれども…!」

 

 メアリーとビーバーが後ろで頬を真っ赤にして私の行動に驚き、隣でジョンとフリッツさんが青褪めた表情で両手で股を隠す……勿論トーマ君も。

 

「命を奪われなかっただけ感謝しなさい」

 

 口から泡を吹き、股間を押さえながら兵士は横たわる。

 

 激痛の所為でビクビクと身体が痙攣しているけど、見下ろす私の頭を顔を真っ赤にしたメアリーが思い切り叩いた。

 

「痛っ!」

 

「何やってるの!純真無垢なトーマ君の前で、こんな…」

 

「殺すよりはマシな方でしょ?」

 

「いやそうだけど!」

 

 トーマ君は顔を真っ赤にしながら私を見ている、まあこんな行動を取ったら恥ずかしいわよね。

 

 此奴等、手段を選ばないわね。トーマ君を拘束して王と言う名の傀儡にする為ならどんな事でも構わないみたいだし。

 

 (ダグラス)に戻っても恐らく町中は混乱の渦中、お城に戻ってもお城はサイフリートの手中にある為、混乱に乗じて拘束されたら即座にアウト。

 

 私達だけじゃこの国を取り戻すのは極めて困難、だったら──

 

「ネラック城へ行きましょう」

 

「…!そうか、兄上ならきっと力になってくれる筈……あ、でも」

 

 私の提案にトーマ君の顔が明るくなるけど、一瞬で暗くなった。

 

 町に戻ってもサイフリートの部下達が町中を包囲している所為で、逃げ場なんて何処にも存在しない。

 

 そう……普通ならば逃げ道なんて存在しない。

 

「道なんて自分で作っていけばいいのよ」

 

 帯剣した剣を抜き、後ろにある薮を振り替えざまに切り裂く。

 

 この先の薮を切っていけばネラック城へと繋がる筈、根拠のない事だけど無策よりはマシでしょ。

 

 するとその時だ、別の薮の向こうから玉が飛んできたのは。

 

「…?」

 

 その玉には小さな穴が空いていて、町の子供が近くで遊んでるのか?って言うお気楽に考えた。

 

 それを拾おうとしたけど、「まさか…!」という声をメアリーが発した。

 

 穴から白い煙が噴出していき、白煙は忽ち秘密基地全体を覆っていった。

 

 何も見えなくて困惑する声が周りが上がる、こんな白煙じゃ手で振り払っても中々晴れる気配がない。

 

 埒が明かなくて苛立ち、私は剣を抜剣して霧を霧散する。

 

 やがて霧は晴れていって、何があったのか()()()()は困惑するばかりだった。

 

「……トーマ君?トーマ君!!?」

 

「なぬ!?」

 

「しまった…!」

 

 辺りを見渡して幼い王子の姿がない事を確認し、私達は吃驚して辺りを探すけど彼の姿は見当たらなかった。

 

 やられた。

 

 さっきの煙幕は私達への目眩しと同時に、トーマ君を拉致する為に使用したもの。

 

 煙幕に紛れて私達が白煙に意識を向いてる隙に忍び込み、音もなく彼を昏倒させて拉致していった。

 

 敵ながら見事な手並みだけど、相手が相手な為に怒りが湧き上がる。

 

「行きましょう……ネラック城へ」

 

 今は状況が状況である為、不気味なまでに冷静に考えてダグラスからの脱出を敢行する。

 

 Side out

 


 

 Side フリッツ

 

 ジェシカ陛下は激情に駆られておられる。

 

 森林の中を走り抜ける中、彼女はトーマ王子をみすみす拐かされた事に責任を負い、ぶつぶつと口籠もりつつ何やら呟いている。

 

 己の不甲斐なさに怒りを露わにしており、宰相が追手として差し向けてきた兵を「退きなさい!」という怒声と共に剣だけで次々に斬り伏せていく。

 

 滅多に怒る事のない陛下の一面に我々は戸惑うが当然の感情、血を流して倒れ伏す追撃者達の骸を尻目にしつつ一路ネラック城へと向かう。

 

 森林を進んでいく中で見覚えのある城砦の姿が見えた為、我々はペースを上げてネラック城に辿り着く。

 

 門兵の者に「ゲオルグ王子に会わせて欲しい」と伝え、速やかに門を開けてもらいすぐさま彼のいる玉座へ。

 

 ゲオルグ王子は突然訪れた我々に驚きを隠せないが、ジェシカ陛下がダグラスでの経緯を伝えると更に驚く事となった。

 

「サイフリートが父上を…!?それにトーマを王に仕立て上げ、この国の支配を目論んでいると…!」

 

「ええ……それとごめんなさい、私達はトーマ君を見殺しに」

 

「いえ……陛下の責任ではありません、しかし……俄かに信じられん。サイフリートは長らく父上に仕えてきた重臣、父上の信頼の厚い彼が何故…」

 

 その愛国心……国王への忠誠心も偽りの感情だったに違いあるまい、真に愛国心があればこの様な(はかりごと)など起す事などせぬ。

 

 王国内にとんでもない反逆者がいた事に憤りを覚える中、城兵の者が駆け込む。

 

 その城兵の者はなんとトーマ新王の名の下、ゲオルグ王子の討伐令が発せられたとの事。

 

 当然ゲオルグ王子は驚くが、先程の話を思い出してあの宰相の一計だと察した様子。

 

「お兄様、これは陰謀です…!」

 

 この可憐なお声は、ソフィア王女か!?そのお美しい御姿が玉座に駆け込む所を見ると、わざわざフォーファーから駆けつけて下さったのか!

 

 ソフィア王女は心が揺らぐ彼に伝えていく。

 

 国王の急死、トーマ王子の急過ぎる即位、そしてゲオルグ王子への討伐令。

 

 それは全て件の宰相の一計、それも突発的ではなく前々から張り巡らせておったもの。

 

 更に別の城兵がやって来て南のモンスター達がトンネルを掘り、この城に迫ってくるという一報を伝えてくる。

 

 そう言う筋書きであったか!

 

 ジェシカ陛下が仰った通り、宰相は私兵共に彼の討伐令を敢行、そして狙ってか定かではないが南……広大な高原地帯であるステップのモンスター達によってこの城を挟撃。

 

 結果的にゲオルグ王子を葬り、ネラック城は陥落。彼が始末されればカンバーランドは奴の手中に収まり、このままでは傀儡とされているトーマ王子の御身も危ぶまれる。

 

 こうなれば此方から攻勢に転ずるまで!

 

「モンスターの方は私達に任せて、貴方達はダグラスへ!」

 

 ジェシカ陛下の提案に御二方は飲み、ダグラス進行への準備に取り掛かる。

 

 そしてその間、我々はカンバーランドとステップに通ずると言う長城の門へと赴くのだった。

 

 

 

 

 

 

「消えなさい」

 

 ジェシカ陛下の冷淡な声がトンネル内に響き、巨大なモンスターに向けて剣を突き刺した。

 

 巨大なミミズの様な姿で、宮殿の書斎にデューンウォームなる存在に関する記述が記されていた…とジョンは語っておる。

 

 そして断末魔の叫びを最後に倒れ伏し、そのまま動かなくなった。

 

 ジェシカ様の容赦のない剣と小剣の一つ一つの一撃が重く、先程の一撃によって息絶えたか。

 

 戦闘が長引いたかは分からんが、トンネルが激しく揺れているのを感じ取った我々。

 

 このままでは地盤が崩れ、トンネルが沈む…!

 

 すぐさま我々は急遽脱出、トンネルは落盤──完全に塞がれた。

 

 危うく生き埋めとなる所であったが、ジェシカ様を含めて皆五体満足である。

 

 だが時が惜しい、一刻も早くダグラスを奪還すべく駆け出した。

 

 それから数刻……空は曇っておるが、恐らく昼下がりであろう。

 

 ダグラス着いた時には時既にネラック城の兵力とモンスターの攻防が繰り広げられ、ゲオルグ王子とソフィア王女も含まれている。

 

 モンスターの勢いが強く、王城にはどうしても近付く事がままならぬ。

 

「城門の突破は私達に任せて!申し訳ないけど、貴方達はモンスターの討伐を!」

 

「分かりました…!」

 

「陛下……弟を、トーマをお願いします…!」

 

 御二方の言葉を受けて行く手を阻むモンスターを討ち倒し、我々は王城へと先行。

 

 城門前まで差し掛かると、堅牢な鉄格子が開かれる。

 

 その先には門番であろう巨大モンスターがおり、人間に似た赤い皮膚を持つ巨躯に下半身を布で隠し、その手に丸太で出来た棍棒を所持している。

 

「……こ、こ、こ……此処ハ通サナイィィィィィィィ!!」

 

 雄叫びを上げる巨大モンスターは咆哮と共に棍棒を勢いよく大きく振り下ろす。

 

 だが……今回ばかりは相手が悪かったとしか言いようがない。

 

「邪魔」

 

 完全に虫の居所が悪く、憤怒の形相を浮かべておられるジェシカ陛下の剣が一閃する。

 

 巨大モンスターの上半身と下半身が横一閃に分断され、断末魔を発することなくその巨躯は地に沈んだ。

 

 碌に死闘を演じることなく、単なる八つ当たりで屠られた此奴に憐憫の目線を送るのは私だけではない筈。

 

「さて、とっとと城の中に入ってトーマ君を助けましょう」

 

『りょ、了解』

 

 敵に情けを感じる必要もなく、我々はジェシカ陛下と共に城内へと進むのだった。

 

 Side out

 


 

 Side トーマ

 

 カンバーランドの首都ダグラスは謀反を起こした教育係であったサイフリートの手に落ちた。

 

 僕は保護と言う形で拘束され、地下牢に投獄された。

 

 僕を王にする為、彼は熱心に僕に学問を学ばせてきたけれど、まさかこんな事の為だなんて考えもしなかった。

 

 城中の兵士の大半は奴に付き従い、侍女や文官、少数の兵士は僕を人質に取った事に強く批判した。

 

「お前達!其奴はハロルド王を殺した上、国家転覆を企てる逆賊だぞ!?目を覚ませ!」

 

 父上や僕を信ずる兵士達は反論するも、力で捻じ伏せられてしまった。

 

 彼等は侍女や文官達とは別に檻の中に閉じ込められ、時々壁に耳を傾けると悔やむ声が聞こえてくる。

 

 僕には王だなんて重荷は耐えられない。

 

 父上の様に寛大でもない、兄上の様に強くもなければ、姉上みたいに冷静な判断だなんてとても無理だ。

 

 此処に放り込まれる前に見たサイフリートの眼差しを思い出す。

 

 いつも見慣れた温厚な目線は氷の様に冷たくて虫を踏み付ける様な目線に変わり、僕は恐怖で身体が震えた。

 

 あれはもう僕の知る彼じゃない、野心に飢えた冷酷な逆賊だ。

 

 カンバーランドを支配して、奴は何を考えているかも分からないし、知りたくもない。

 

 僕は臆病者だ、父上の様に王に就く資格なんてあるわけない。

 

 そしてひっそりと思い出した、アバロンの皇帝陛下であるジェシカ様の御姿を。

 

 まだ若いのに皇帝と言う大任に就き、世界に恐怖と混乱を撒き散らす七英雄に勇敢に立ち向かっていらっしゃる。

 

 噂でしか知り得なかったけれど、昨日父上からの招待で訪れた際、その御姿を拝見出来た。

 

 金色の短髪に気怠けだけど芯の通った眼差し、何者も恐れない気骨と精神。何よりもその美貌に僕は一目惚れしてしまい、子供ながら淡い想いが芽生えた。

 

 秘密の場所にて読書の際に此処を探り当てた事に驚いたけど、話してみると何とも庶民的で気さくな御方だった事を知る。

 

 僕はまだ子供で彼女は大人の女性、とてもじゃないけど釣り合うとは思っていない。

 

 自嘲気味に思考に浸かっていると、扉を強く叩く音が響いた。

 

 サイフリートが来たのか?と思っていると扉の向こうから「トーマ君!トーマ君、いるの!?」と言う焦った声が響く。

 

「陛下…?陛下なのですね…!?」

 

「よかったわ……無事だったのね。待っていて、今開けるから!」

 

 この扉の鍵はサイフリートが部下に預けていて、力で開けるのは無難の行為だ。

 

 もしかして鍵を手に入れたのだろうか、そう考えていると扉の形が歪んだ。

 

「え……!?」

 

 歪んだと同時に足蹴した音が響き、何だか嫌な予感がして僕は壁の隅まで移動。

 

 再び足蹴の音が響くと扉の建て付けが壊れて、ジェシカ様が入ってくる。

 

「トーマ君、大丈夫!?怪我はない?あの陰湿宰相に嫌がらせされてないわよね?」

 

「は、はい!」

 

 肩に手を置いて聞いてくるので思わず上擦った声を発する、やっぱり陛下は素敵な女性だ。

 

 足蹴だけで扉を蹴破るとは思わなかったけど。

 

 その美貌からは考えられない短絡的な強行手段だけど、噂通り知識は乏しくとも他人を思いやるお心遣いに僕は胸が高鳴る。

 

 陛下によると臣下の方々と共に城中に入り込み、助けに来て下さったとの事。

 

 徘徊するモンスター達を討伐し、ゲオルグ兄さん達もやがてモンスター達を突破してくるらしい。

 

 自分でも何もかも諦め掛けていたけれど、陛下の御姿を見て涙が零れる程に安堵する。

 

「さあ、いつまでもこんな湿った場所にいないで玉座に行くわよ。ゲオルグさん達を安心させなきゃね?」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 城中のモンスター達が全て討伐された所為か城内を包んでいた邪な邪気は霧散され、お陰で問題なく玉座の間へ入る事が出来た。

 

 玉座に入ると陛下の臣下の方々、尊敬して止まない兄と姉の姿があった。

 

 自身が原因でこの様な事態が起きてしまった事に後ろめたくなり、責められる覚悟は出来ている。

 

 しかし待っていたのは抱擁、ゲオルグ兄さんは僕を優しく抱き締めてくれた。

 

「トーマ……何も言うな、国の中にあの様な悪い虫が巣くっていると見抜けなかった我々にも落ち度がある。自らの才覚に自惚れ、注意するべき事を怠ってしまった」

 

「ええ……陛下が黒幕の存在を解明してなければお兄様の命は失われ、トーマの事も……」

 

 兄上と姉上は何も悪くない、悪いのは奴の──サイフリートの本心に気付けなかった僕だと言うのに。

 

「三人共、自分を責めても何も始まらないわよ」

 

 呆れた御様子でジェシカ様が僕等を見て告げる。

 

「これからは三人の内の誰かが王となり、国を導かないといけないのよ?未来の王がそんな様子じゃ、国民はみんな呆れるでしょうね?」

 

 陛下の言う通り、確かにこんな調子では国民に示しが付かないだろう。

 

「それにあの宰相の姿を見かけないし、奴は何処に行ったんでしょうね?」

 

「陛下…!彼奴は北の岬にアジトがあると言っていました…!どうかもう一度、力をお貸し下さい」

 

 これはこの国で起こった問題、僕達が解決しなければならない事だろう。

 

 だけど内乱によって及ぼした事態の収束も急がれ、討伐隊の編成が済み次第アジトに攻め込んでもきっと奴は何処かに行方を眩まし、力を蓄えてまた新たにモンスターを率いてこの国に攻め入る筈。

 

 そうなれば今度こそカンバーランドは奴に支配され、奴の思うがままになってしまう。

 

 この国の王族として──何より一国民として情けない限りだけど、他国の人間である皇帝陛下に全てを委ねるしかなかった。

 

「こんな事件に関わった以上、帝国も無関係でいられないからね。貴方達の父親の無念を晴らす意味でも、折角だからあの宰相を懲らしめて来るわ。いいわよね、皆?」

 

 陛下のお言葉に臣下の方々は呆れた様に頷く、これ程に忠義を尽くせるのは感服するしかなかった。

 

 僕も陛下を見習わないといけない。

 

 ジェシカ様達は僕等に一礼した後、すぐさま城から出立なされた。

 

 杞憂になると思うけれど、万が一に備えて僕達は出来る事を為すべく討伐隊の編成を全兵の通達。

 

 彼女の無事を願いながら、僕達は兄上達と共に奔走するのだった。

 

 




次回はカンバーランド編の後編、次回の話を以てジェシカ編は終了……次の世代に移行します。
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